第4話 学校に行っても休まるところがない件について④

亮祐りょうすけ、それなら嘘なのか?」

 俺に殴るぞ宣言された辰弥たつやが、冗談を言うのをやめた。俺も本気で言ったわけではないし、それは辰弥もわかっているだろうが、俺の機嫌を損ねるのは嫌なのだろう。


 昔から辰弥とはあまりけんかしたことがない。けんかの一歩前で辰弥がなんとか引き返すからだ。優しさなのか、何なのかはわからないが、俺も辰弥との関係を壊したくないのでありがたい。


「当たり前だろ。こんな阿呆のいうことを聞くなよ」

 「そりゃそうだよな」と頷きながら俺の言葉に反応している。わかっていただろうに・・・・・・


 気が済んだのか辰弥が今度は妃菜の方を向いた。何か聞きたいことがあるのかもしれない。と言うよりも聞きたいことが山積みなのだろう。ちなみに俺も聞きたいことが山積みだ。


 だが、それよりも早く、エミリーが口を開いた。

「そうだよね。亮ちゃんがこんな女好きになるわけないよね」

 俺はエミリーを振り返った。先ほどの「ビッチ」のお返しといわんばかりの顔をしている。


 それにしてもなんだこの発言は・・・・・・エミリーは俺の彼女か何かなのか? もちろん違う。言い返しているだけなのはわかるが、これでは・・・・・・


「ビッチさんにこの女呼ばわりされたくないですね」

 今度は妃菜の方を向いた。敵意むき出しの顔をしている。


 こうなるよな・・・・・・もっと普通の会話はできないのかよ。と言うか、まだビッチなのか? さすがにその呼び方はやめろ・・・・・・


「ビッチ、ビッチって、あんたの方がビッチっぽいじゃないの!」

 再びエミリーの方を向いた。顔を怒りで真っ赤にして、妃菜の方に指を指していた。息が少し荒くなっているのは興奮しているからだろう。


 そりゃ恥ずかしいよな。他人の前で「ビッチ」を連呼されたら・・・・・・だが、エミリー、よく考えてくれ。お前は今「ビッチ」を三回連呼したんだぞ・・・・・・恥ずかしくないのか?


「私は違いますよ。先輩に初めてをあげるって決めてますから」

 得意そうな声が後ろから聞こえた。再び妃菜の方を向く。そろそろ首が痛くなりそうだ。


 振り向いた瞬間妃菜と目が合ってしまった。すると妃菜は俺を待っていたかのようなタイミングでウインクをしてきた。


 大慌てで首をエミリーの方にむき直した。やばい・・・・・・首をひねった・・・・・・


 今俺は変なものを聞いたような気がした・・・・・・俺に初めてをあげる? 話題的にその意味しかないよな。これは喜ぶべきなのか? 絶対に違うよな? よし、家と俺の部屋の鍵をすぐに取り替えよう。


 エミリーも何を言っているんだ、と言う顔をしていた。辰弥の顔は見えなかったがおそらく同じような顔をしているだろう。

 よし、この爆弾発言でこの話題は終わりだな。


「へぇ、じゃあまだ処女なんだ」

 エミリー(笑里)が「ふーん」と言いたげな顔をして、腕組みをしながら言い放った。


 まぁ、エミリーの性格上自分から引くってことはないよな。俺にはそんなガッツはないが、エミリーのそのガッツは長所だと思うぞ・・・・・・だが、今は違う。


「さすが、ビッチさんはいうことが違いますね」

 少し冷ための声の妃菜の声が頭の後ろから届いた。


 お前もやめろ。そして初めてを俺にとっておくのもやめろ。


「ビ、ビッチじゃないっていってるでしょ! 私もまだ処・・・・・・何言わせるのよ!」

「い、いや・・・・・・それは、私のせいじゃ・・・・・・」

 ものすごい勢いでまくしたてて、妃菜を責めた。さすがの妃菜も自分に非がないであろうことで責められては何も言えないようだ。


 エミリー今のはお前の自爆だ・・・・・・不本意だが、妃菜の肩を持つ。


 て言うか朝から話題が重すぎる気がするのは俺だけか? 高校ってこんなものなのか? こんな「ビッチ」や「処女」が飛び交うのが普通なのか? ならば俺は普通でなくてもいい・・・・・・


 俺は痛みが引いてきた首を動かして辰弥の方を見た。辰弥は懲りずにまた楽しそうに笑っていた。どうしてこの状況を楽しめるんだ? 時々、お前のことがわからなくなる。


「面白いな。こんなのが毎日続くのか?」

「他人事だと思いやがって・・・・・・」

「だって、俺にとって他人事だから」

 目に涙を浮かべて返してきた。悲しいんじゃなくて、ただの笑い泣きだ。確かに、辰弥にとっては他人事だよな・・・・・・


「亮祐、付き合ったら?」

「不可能だな」

 俺の答えを聞いて辰弥はさらに爆笑した。何が面白いんだ? 俺の反応か? この反応はこの先ずっと言われるやつだな・・・・・・


 俺はため息をついて妃菜とエミリーを交互に見た。まだ何か言い合っているようだったが、耳にはいってこなかった、と言うよりも耳に入れたくなかった。


 周りから視線を感じる。何やらざわざわが多くなっているような気がする。俺が教室を見渡してみると同じクラスのやつどころか。他のクラスのやつや、他学年であろうやつも来ていた。


 暇か? 暇なのか? って言うか、いつの間にこんなに大事になってんだよ・・・・・・あれか、辰弥とエミリーがいるからか? それとも、かわいい女子がいるからか? もしこの場に興味があるんだったら、俺と替わってくれ・・・・・・


 ため息をついて辰弥の方を見た。まだ笑っている。無意識のうちに、またため息が出てきた。

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