第4話 学校に行っても休まるところがない件について②

 ようやく教室に着いた。ここまで長い道のりだった。いつもなら気が進まない教室も今日はオアシスか天国のように感じる。この空間は何と素晴らしいのだろう。あいつがいないだけでこれだけ落ち着けるのか。おそらくこれから毎日オアシスのように感じるようになるのだろう。


 精神的に疲れたせいで机に突っ伏して一眠りすることにしよう。朝のショートホームルームが始まるまでに体力を回復せねば。


「亮祐、いつにも増して死んでるな」

 だが、どうやらそれを許してくれない幼なじみがいるらしい。


 もっさりと体を起こして、おそらく俺の前にいるであろう人物の方を見た。

 その人物はやはり俺の前の席に座って、椅子の背もたれに肘を置くような形でこちらを見ていた。


「相変わらず元気だな、辰弥たつや

 皮肉を言った。言い換えると「どう見ても疲れているんだから休ませろ」だ。


「何かあったのか? まさか、とうとう陰キャになるのか」

 いや、俺は陰キャだろ・・・・・・

 手を挙げて大げさなリアクションをとる辰弥に対して、俺は心の中で突っ込んだ。もしも、今までが陰キャではなかったとしたら何キャ扱いされていたのだろうか。


 こいつは水琴みこと辰弥。言ったとおり、俺の幼なじみだ。明るい茶髪の髪(地毛)に整った目鼻立ちが特徴で、文武両道、リーダーシップもありクラス委員まで務めている。


 絵に描いたような優等生でモテ要素しかない。たまに(と言うよりもほぼ毎日)真逆の俺と楽しげに? 話しているのを周りがコソコソとみながら話しているのを知っていた。

 俺としては話しかけられない方が目立たなくてよかったのだが。


「亮祐ー、何か返事しろよ」

「辰弥・・・・・・また周りから何か言われるぞ」

「ん? んなこと気にするなよ。俺とお前の仲だろ」

 笑いながら返してくる辰弥から元気をもらう、こともなく、逆に疲れてくるような気がする。


 お互いの家に泊まったこともない、登下校を一緒にやったこともない、もちろんご飯を一緒に食べたことも(学校の昼食をのぞいて)ない、学校で暇そうにしている俺に話しかけるだけの関係。

 それでも、俺も宿題などを聞ける仲の人がいるのはよかったので、それほど嫌ということもない。


 そう言えば、あと何人か話しかけてくる人がいるのだが、今日は学校が始まったばかりなのでわざわざ話しかけに来ないだろう。


「えっ、何々」

 後ろから明るい女子の声が近づいているのが聞こえた。まさか、隣のクラスから来るかよ。


 しかもよりにもよって、あいつと似たキャラ・・・・・・

 その声を聞いて、どこかの『頭お花畑のドエロ』(他にどこにいるのかがわからないが)のことを思い出した。


「私も混ぜて」

「おっ、エミリーじゃん。おはよう」

 俺は後ろを見ないようにしていたが、辰弥の方はしっかりと手を挙げながら挨拶をした。これが普通なのか? 俺も挨拶をされればしっかりと返すが、こいつに返せば後々面倒になるだけだ。しなくても面倒になるが・・・・・・


「どうしたの亮ちゃん、死んじゃってるよ」

 死んでねぇよ。誰が座ったまま死んでんだよ。声をかけられても後ろを向かないように努めていると何か変なことを言われた。


「後ろ見なさいよ!」

「バン!」

「いって」


 どうやら後ろを振り向かなかったのが気にくわなかったようだ。背中を思いっきり叩かれた。跳び上がるほどの痛みではないが、背中がじんじん痛む。さすがに、背中をさすりながらエミリーの方を見た。


 俺が振り向くとエミリーが「やっほー」と右手を挙げながら挨拶してきたので、叩かれないように「よう」と言って挨拶を返す。嬉しそうに笑っている。挨拶だけでそれだけご機嫌になれるものなのか?


 この女子はひじり笑里えみり。俺と辰弥の幼なじみだ。きれいな金色のショートヘアと青色の瞳が特徴で、見た目通りで元気しかない。陸上部で活躍しているが、勉強の方はほとんどだめだ。ちなみに母親がイギリス人で、父親が日本人とアメリカ人のハーフ。その元気さとかわいさで学校の人気者の一人にあげられる。ちなみに日本語以外は話せない。


 あだ名はその見た目からエミリー。本人公認のあだ名なのでエミリーを知っている人のほとんどが使っている。呼ばれすぎているせいか、エミリーが自己紹介のときに「聖エミリーです」と言っているのをたまに目にする。俺も本名が何だったのかわからなくなるときがある。


「エミリー、何すんだ」

 背中をさすったままエミリーに聞いた。さすがにスキンシップが元気すぎる・・・・・・


「何って、亮ちゃんが挨拶しないから」

 お前も挨拶してないだろ。ただ単に「死んでるよ」って言われただけだぞ。もしあれが挨拶ならば誰も通じないと思う。まぁ、こんなことをエミリーに言っても仕方がない。


 正直これ以上ややこしくなってほしくなかった。(辰弥やエミリーが話しかけるせいで? おかげで? 俺にはもう少し話す人がいる)

 まぁ、さすがに、これ以上俺のところに来る人はさすがにないだろう。


「わー!!!!」

 そのとき、聞き慣れた悪魔のような声が教室の前の扉の方で聞こえた。


 勘弁してくれ・・・・・・まさか、お前が来るかよ。頭を抱えたくなるような思いを抱きながら、ゆっくりと教室の前にある扉の方を見た。


「せ、先輩が私以外の女の子と・・・・・・」

 そんな堂々とバカな発言ができるところがお前のいいところ・・・・・・ではなく、悪いところだろう。とりあえず悲惨そうな声を出すのだけやめてくれ。


 クラス中から「先輩って誰?」みたいな声が聞こえてきた。そりゃそうなるよな。俺だって外部の人間だったら探す・・・・・・みたいな面倒くさいことはしないな。


 辰弥も後ろを向いて妃菜の方を見ていた。エミリーは後ろにいるので顔は見えなかったが、おそらく妃菜の方を見ているだろう。


 妃菜が俺の方を見ている。やめてくれ、見るな。どう考えてもその視線を追ったら俺に行き着くだろ。頼む、誰かが気づく前に帰ってくれ・・・・・・


「亮祐・・・・・・」

「亮ちゃん・・・・・・」

 あぁ、手遅れだ。辰弥が妃菜に向けていた顔を俺の方に向けた。辰弥の声と、エミリーの声が重なって俺の耳に届いてきた。エミリーも俺の方を見ているのだろう。


「何も聞くな」

 ため息交じりに二人に反応した。俺の方が色々と聞きたいことが多いんだ。それに、どうして、学校に来てまであいつの面倒を見ないといけないんだ・・・・・・

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