第4話 学校に行っても休まるところがない件について①

「先輩、手をつないでもいいですか?」

「拒否する」

「じゃあ、荷物持ちますよ」

「拒否する」

「それなら、並んで歩いてもいいいですか」

「拒否する」

「って言われても、並んで歩いているんですけどね」


 現在、俺(嘉神かがみ亮祐りょうすけ)と妃菜ひなの二人は並んで(並び順は右に妃菜、左に俺)登校していた。遠くから見れば恋人か、全く似ていない仲のいい兄妹(その言い方は訳あり感がすごく強いが)のように見えるのだろうか。


 俺は自分の鞄と妃菜の作ってくれた弁当を持っていた。いつもは登校中にコンビニに寄るか、購買で買うかだったのでその手間がなくなる分とても助かっていたが、中におかしなものが入っていないかどうか少し心配だった。


 本人曰く夜以外ヤル気はないと言っていたので(つまり夜は要注意ということだ)心配ないとは思う。(朝に誘ってきたので半信半疑どころか、ものすごく疑っていた)


 隣でるんるん気分で歩く妃菜を見た。そこまで嬉しそうな表情が人にできるのか、と問いたくなるほどの顔だ。恋人ならばこんな表情をされてうれしいと思うのだろうか。まぁ、俺は絶対に思わないと宣言しておく。


 それにしても誰かと一緒に登校するのなんて小学校以来かもしれない。中学校では自転車登校だったが仲がいい人はほとんどいなかったのでずっと一人だった。


 そう考えると妃菜は貴重な存在なのかもしれないという思いが頭によぎった。その俺の視線に気づいたのだろうか、妃菜が俺の方を向いてきたので目が合った。


 時間にして一秒ほどの時間だったが、どうやら妃菜の顔が真っ赤になるのには十分だったらしい。両手で顔をパタパタと扇ぎ始めた。

「先輩、熱があるかもしれません。おでこをくっつけて熱を測ってください」

 上目遣いで戯言たわごとを懇願してきた。なぜこれほど、阿呆なのだろうか。


 だが正直なところ、今までの常識の斜め上どころか、常識とは別次元の発言と行動のせいでこの戯言がかわいく思えてしまった。


 でも、よく考えるとこれはこれで相当常識を越えている願いだ。頭痛がしてくる。昨日から頻繁にしているな。帰りに頭痛薬でも買っていこう。あと、睡眠薬の補充も。


 左手でこめかみを押さえていると、妃菜が俺の右手を優しく包んだ。

「先輩、大丈夫ですか? もしも体調が悪いようでしたら休みますか?」

 いつになく(と言っても亮祐とは昨日あったばかりなのだが)優しい口調で尋ねてきた。こんな風に話せるとは少々意外だ。


 だが、よくよく考えてみるとその原因が妃菜に帰着することを思い出した。それに、

「しれっと俺に触るな」

「あれー、ばれました」

 隠す気のない動作だったろうが、と突っ込みたかったがその言葉を飲み込んで、その代わりに深いため息をついた。


 まだ、学校までは一キロほどあった。まだまだ妃菜の熱は冷めないらしい。

 こんなことがあと一キロ、しかも毎日続くと思ったら憂鬱にならざるを得なかった。


 誰か、助けてくれ・・・・・・

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