俺が三年前にたまたま助けた美少女が、高校の後輩になって、家事全般、勉強、運動すべて非の打ち所がないのだが、ただ一点俺への愛情表現が異常すぎる件について。
第3話 二日目の朝になったらどこかの『頭お花畑のドエロ』が家にいる件について③
第3話 二日目の朝になったらどこかの『頭お花畑のドエロ』が家にいる件について③
「とにかく、歯でも磨いてこい、歯ブラシは赤を使えよ」
これ以上
妃菜がしっくりくるかもしれないな。他のやつも名前で呼ぶのが多いからだろう。あだ名で呼ぶやつもいるので、ドエロお花畑でもしっくりくると言えばしっくりくるのだが。
妃菜はほおを膨らまして不服そうな態度をとったが(確か、朝からは嫌だと先ほど言ったばかりだと思うが)俺が折れないという態度をとり続けると、しぶしぶ立ち上がって洗面所の方に向かった。
洗面所に向かう妃菜の背中が普段より一層小さくなったように感じた。少々悪いことをしてしまった、などという感情は全くなく、ただただ疲れたという思いだけが心を埋め尽くしていた。
着替えるために自室に戻ろう。洗面所をのぞくことなく階段を上がった。部屋に入ると、かけてあった制服に着替えて学校の用意をする。と言っても昨日のうちにある程度準備していたので慌てて用意するものはなかった。
制服に着替え終わった後、使っていた寝間着を洗濯機に入れるため洗面所に向かった。まだ、妃菜が歯を磨いているはずだったが、さすがにこれ以上は絡まれないだろうという期待を持っていた。
洗面所に着いた俺は自分の色彩感覚を疑ってしまった。妃菜の使っている歯ブラシの色が間違いではないのかと思った、と言うよりも絶対に間違いだ。そうに違いない!
一方の妃菜は俺が来ても何気ない顔で歯を磨いていた。そして、丁度タイミングがよかったのだろうか口をすすいで歯ブラシを置いた。
「なぁ、聞いていいか」
聞くのも気が引けたが、それでも確認せずにはいられなかった。
「洗濯物なら洗濯機の中に入れておいてもらえれば、後はやりますよ」
ドラム型の洗濯機を指さした。洗濯物も仕分けなど込みでやるということなのだろう。料理に引き続き、どうやら家事全般が得意なようだ。
ありがたい。妃菜がこの家にいてくれると、俺は何もやらなくていい・・・・・・じゃねぇよ! 危うくおかしな魔術にひっかかってしまうところだった。これが魔王の力か。
と、まぁ話が少しそれてしまったが本題に戻るとしよう。
「洗濯物じゃない」
「じゃあ、何ですか?」
とぼけた顔が俺に向けられた。本当にわかっていないのか、それともわからないふりをしているだけなのだろうか。後者であればしばきまわす。
殴りたくなる気持ちをグッと抑えて会話を続けた。
「俺の使った歯ブラシの色は?」
「青ですよね」
よし、それはわかっているようだ。
「で、妃菜は?」
「えっ・・・・・・な、名前で呼んでくれてる・・・・・・」
天使にでもあったかのように両手を組んでいる。輝くその目からは今にも感動の涙が出てきどうだった。まさかこのまま逝ってしまう(決してイってしまうではない)のではないか・・・・・・
「おっと、私は名前を呼ばれたくらいでは墜ちませんよ」
組んでいた手をほどいて、わざとらしく右手を俺の前に突き出した。
では、今までは俺に墜ちていなかったということなのだろうか。いや、別に墜ちてほしいなどと思っているのではない。ただ、墜ちてもいない相手への行動としてはあまりにも大胆すぎるので怖いのだが。
「でも、先輩がそこまで言うのなら・・・・・・」
今度は両手で反対側の二の腕を持つようにして、自分の胸を隠すように恥ずかしがりながら声を出した。一瞬自分が口説き文句でもいったのか、と錯覚してしまった。確か名前を呼んだだけだと思うのだが・・・・・・
こうも次から次へと色々な表情を見せられると、動物園に行くよりも満足できるかも知れない。
非現実的な光景を目の前にされると何もできなくなるんだな、と感じていた。取り付く島もないその光景は確かに非現実的としか言い様がないだろう。
「・・・・・・で、何色を使った」
危うく本題を忘れそうになってしまっていた。確認したかったことを再び口にした。
「えっ、青ですけど。それがどうかしたんですか?」
この流れでそれを聞きますか? 、と言わんばかりの顔をしながら事実を確定させた。
「一応、青を使った理由を聞いていいか?」
正直聞きたくなかったが、これを聞かないと後味が悪かった。聞かずとも今までの流れからなんとなくは予想がついていたが。
「もちろん、先輩が使った歯ブラシを使わないわけないじゃないですか」
さも当たり前のように爆弾発言を繰り出す。よし、こいつのことは歩く爆弾魔とでも呼ぶことにしよう。
クリーンヒットの攻撃だった。気持ちわるいを通り越しておぞましかった。
人の使った歯ブラシを使いたがる、いかれた頭の持ち主がいるのだろうか、と(実際に目の前にいるのだが)俺は自分の常識に問いかけた。
「先輩、顔が青いですけど大丈夫ですか・・・・・・?」
心配そうな顔で俺をのぞき込んだ。人の心配ができるなんていい子だ、などという感想は受け付けない。
て言うか誰が言ってんだ・・・・・・俺の目の前にいる天使の仮面をつけた悪魔(小悪魔ではなく大魔王クラス)の(を? 面を?)ひっぱたきたかった。
それに、今日はもう『青』という単語を耳にしたくなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます