第3話ー8

「ちぇすとおおおおおおおお」

 カルマちゃんの眼下、宙に浮くデュランから渾身の突きが放たれる。

 それは真っすぐにカルマちゃんの頭部をつらぬ――――かずに

「ぬるん。」と滑って逸れてしまう。


「はっ⁉」


 デュランの顔が完全に驚きで呆けている。

 そのデュランにカルマちゃんは落下の勢いと渾身の振り降ろしで襲い掛かる。

「ちぃ!」

 防がれた。

 この一瞬にデュランは槍を引き戻して俺様を受け止めたのである。

 しかし宙に浮いていては踏ん張りがきかず、デュランは地面に叩き落とされたのだった。

 その後をカルマちゃんは地面に着地して胸を張ってデュランに言い放った。

「へへ~ん。これで同じ場所だね。」

「くかかか。やるではないか」

「爺さん、今いい顔してたぜ」

「かか、そうか。この年になると驚くことも少なくなるのでの、良い刺激になったわ」

 爺さんは土煙の中から出てくると、首をコキッ、コキキッと鳴らしながら不敵に笑って見せる。

 この爺さんはカルマちゃんが作った「ヤモりんEX」を知っているのだろうか。

 どちらにしてもこの爺さんはカルマちゃんを貫く自信があるのだろう。


『それよりカルマちゃん。ヤモりんEXがあるなら最初からごり押しで行けたんじゃないの』

『ハハハ、ダメだよ。さっきのは魔力を通して一時的に効果を活性化させたものだから、そう何度も続けられないよ』

『なるほど』

 それだといまだ完全有利というわけでは無いのだろう。

 この爺さんはそれを見切っているのだろうか。

 見切っていそうでもあり、そうでなくても貫いて見せる実力がありそうな貫禄がある。

『それじゃぁ、一気に決める?』

『ううん、せっかくだしお爺ちゃんの技を盗ませてもらう』

『油断しないようにね』

『もっちろん』


「さて、内緒話は終わったかの」

 なぬ。

 この爺さん、俺様とカルマちゃんが相談していたのを見抜いている。

 そのうえで待っていたというのか。

 気の利くやつじゃねぇか。

「さて、それじゃあ続きを始めるか。」

 そう言ってデュランは槍を構えなおす。

 それを見てカルマちゃんも俺様を構えなおす。

 先ほどと違って同じ高さの地面で相対する2人。

 しかし、必然的に背の低いカルマちゃんが見下ろされていることには変わりがない。

 ―――――変わりがないのだが。

「……爺さんの目つきが変わったな」

「うん、本気になったと思た方がいいね」

 俺様達がそう確認していると。

「来ないのならこちらから行くぞおおおおおおおおおお!」

 デュランは黒光りする槍でもって鋭い突きを放ってきた。

 此度は先ほどのただの突きとは違う。

 カルマちゃんの被膜を破らんと気合の入り用が違う。

 此度は槍に魔力が乗っているのも分かる。

 その槍をカルマちゃんは俺様ですくい上げるようにいなす。

 デュランの槍が大きくそれて上を向く。

 空いた懐に潜り込むようにカルマちゃんは俺様を振り抜く。

 それをデュランは余裕を持って引き戻した槍の柄で受け止める。

 と、そしたら手ごたえがない。まるで爺さんをすり抜けるような感じだ。

「わっ!」

 そしたらカルマちゃんから叫び声、見ると足元からデュランの槍の石突きが跳ね上がってきたのだ。

 カルマちゃんはとっさにその石突きを踏むと、勢いを利用して宙に舞い上がりバク転を決めて距離を取った。


「すごいね。あの軌道で私の攻撃の勢いを利用したカウンターを出せるって、見た目通り見た目通りの年の功かな」

「カカカ、そちこそあれをよけれるなら大した亀の甲じゃとほめてやりたいわ。」

 2人がにらみ合いながらニヤリッと笑う。

「カカ、小手先比べではらちが明かん。一気に決めさせてもらうぞ」

「ハハハ、いいよ、どんとこい」

 デュランは槍を天にかまえて黒いオーラを纏っていく。

 対するカルマちゃんは。

「ザック、対魔力障壁モード。正面から受け止めるよ」

 そう言われて俺様は形を変えていく。

 黒い外装はそのまま、シャープなつくりが重厚な厚みを持つ大楯に変形していく。

 ガシャガシャと金属が組み代わり赤い燐光はパーツの隙間から漏れ出てくる赤い燐光が強くなる。

 大楯を構えたカルマちゃんの前でデュランが槍をカルマちゃんに向ける。

「【竜滅の槍】ぃぃィぃィぃいいいいいいいい‼」

 暗いオーラをっ纏ったデュランが槍を突き出しながらカルマちゃんに突っ込んで来た。

「魔力防御最大!」

 デュランの槍は盾となった俺様の体に容赦のない衝撃をもたらした。

 その衝撃は破城槌のようで門扉たる俺様はともかく、俺様を支えるカルマちゃんが吹き飛ばないか心配になるほどだった。


 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ。


 今までで一番の衝撃。

 しかし俺様とカルマちゃんはそれに耐えきった。

 そして2人のぶつかり合った場所にカルマちゃんの足元から何かが転がり出る。


 それは鋼鉄のパイナップルと形容したい塊で、「?」デュランがいぶかしげにそれを凝視しているところでカルマちゃんからあのヤバい言葉が漏れ出た。


「……バルス」

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