第3話ー5

「ダインスレイフってのはな、俺の友人であるダインの遺産だ」

 そういう語りだしでバルトはダインスレイフについて話始めてくれた。

「そもそもダインスレイフと言うのもダインの遺産という意味だ。ヤツが死んで残された剣をそう言うようになった」

「でだ、ダインって言うのが若かったころの俺の友人だ。奴は若いドワーフで正義感の塊のような男だった」

「初めて会ったのもまだやんちゃだった俺を退治しに奴が来たことだったな。まぁ、俺様強いから簡単に返り討ちにしてやったんだけどな。ハハハハハ」

「だが奴は諦めなかった。何度打ちのめして追い返しても何度でも挑んできた」

「俺にとっては初めてのヤツだった。負かされたら二度と俺の前に出てくる奴はそれまでいなかった。なのに奴は何度でも挑んできては名乗りを上げてきやがった。俺が初めてヒト族の名前を覚えたのも奴だった」

「何度目かな。100回は超えていたと思う。何度も戦ううちに奴との友情が芽生えていた」


「えぇう?戦っていたのに友情とか芽生えるんですか」

 話を聞いていたテクスチャがそんな疑問を口にした。

「芽生えるぞ」

「そうだよテクスチャちゃん。戦いの中でお互いの心根を理解していき分かり合える友情もあるんだよ。むしろそんな友情こそ熱いじゃない」

 カルマちゃんの熱弁にテクスチャは「そうですか」と歯切れの悪い答えを返してきた。

 まぁこいつは友達とか少ない方だからな。


「まぁそういう訳で友となったダインだが、最初は毛も生えそろわないようなツルッツルの若造だったのがいつの間にか立派な毛が生えそろった壮観な顔つきになっていた。」

「いつからか剣ではなく酒を持ってくるようになっていったアイツはドワーフとしていっぱしに男になっていたらしくてな、ある日奴は言った。「ワシはトールキン様の弟子になることにした。ここに通う回数は減るだろうがいつかお前を超えて見せる」とな」

「そしてある日とうとつにあの厄災が起きた」

「どこからか現れた魔術師が俺の同胞達に呪いをかけてこの地に争そいをもたらしたのだ」


「それって、伝説になっている邪竜戦争ですか」

「そうだ、数多いた力ある竜種同胞達が呪いで理性を犯され災いをもたらす厄災となり果てた」

「まだエルフとドワーフの仲が悪い時代、それでもエルフとドワーフが手を取り合ったという最悪の戦争」

「ああ、この地に住まう人族は残らず手を取り合った。もちろん、俺をはじめ呪に犯されなかった竜種もみなその災厄に立ち向かった」


「その厄災で俺はダインと共に戦った」

「その戦いでダインの奴の手にしていたのが師匠と共に造り上げたという黄金の剣、その真名を「黄昏を一つにトワイライト・ワン」邪竜にかけられた呪を断ち切る聖剣だった」

「しかし、その美しい黄金の剣は数多の邪竜の血を吸っていったことで徐々に穢れていった」

「俺がそのことに気が付いた時にはすでにダインの体も瘴気に犯されていた」

「戦争も佳境に至っていたこともあってダインはその黄金の剣を手放さなかった。たとえ己が命をかけてでもと」

「そして、戦争は最終局面に至った。俺達はことの発端になった魔術師を追い詰めることができた」

「しかしその傍には俺たち竜種の長、「ファブニール」の変わり果てた姿もあったのだ」

「彼のドワーフ、トールキンが生み出したバルムンクをはじめとする数多くのを手にした勇者も数多くいた」

「……数多くの犠牲を出した戦争だった。しかしその最後は俺達の勝利に終わった」

「事の発端になった魔術師は俺の牙が引き裂いた。そしてファブニールは、心臓をバルムンクが、頭蓋をトワイライト・ワンが貫き打ち倒したのだった」

「されど、ファブニールにかけられた呪は他の邪竜のそれとは段違いだった。件の魔術師を倒しても晴れぬ強力な呪は2つの聖剣を魔剣へと塗り替えるほどだった」

「トワイライト・ワンの剣身は見るも無残に穢れてしまい、使い手であるダインもその瘴気に当てられてまるで老人のようにやつれてしまっていた」

「俺はそれを見てるだけしかできなかった。だがダインは希望を語った。「いつかまたこの剣が必要になる時が来る。その時までこの剣を預かっていてくれ。」とな」

「だからあればかりは盗まれたままには出来んのだ。あの剣を持つにふさわしいと俺が認めた者ならともかく、盗み出されたままでわな」

「ダインをみとった後、この地に残っていた真竜は俺一人となっていて、必然的に俺が長となった」

「その俺の巣に挑むものは今までいなかったのだが――」


「クコココ。それで他の財宝と一緒にちょろまかされたとは、なんやコレ、笑い話かいな」

「そこは俺の不手際だと認めるけどな。――恥を忍んで頼みたい。ダインスレイフを取り戻すか、それを持つにふさわしいか一度俺に挑むように伝えてほしい」

「なるほどね、了解だよ」

「ちなみにダインスレイフの呪とやらは?」

「鞘から抜けば血を吸わねば収まらないというモノ。使い手も幾度と使えば吸血鬼になり果てるもの。また、抜きっぱなしにしていてはその呪が周りに伝播する」

「なるほど了解だよ」

 カルマちゃんはそう言ってこの仕事を受けることにしたのだった。

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