第3話ー4

 話を戻したい、そう言ったバルトはコンゴウさんの前に行き、カルマちゃんが作った鰹節を手に取るとそれを片手に話し始めた。

「話ってのはよ、人手を出してくれんか。てやつだ。俺がお前さんの縄張りで暴れんのもアレだし、巣の改造もしておきたいからな。ダインスレイフを回収する人材を手配してほしい」

 そう言って鰹節にかじりついた。

「ガキッ――――なんだなんらコレ、めっちゃ硬いなからいは。ンッッッ!」

 

 バキン!


「わぁ~、すごい。鰹節をそのままかみ砕いちゃった」

 世界一硬いと言われる食材である鰹節をバルトはその強靭なあごで、まるでせんべいでもかじるかのようにバリバリモグモグいわせていた。

「なかなかの歯ごたえだ。しかも、噛みしめれば噛みしめるほど旨味が出てくる。酒が飲みたくなるぜ。しかし、どうしたんだコレ」

「クコココ、そいつはウチの新商品にとこちらのカルマはんに開発してもろうた品や」

 そういうコンゴウさんにカルマちゃんはアワアワと答える。

「いえ、開発と言っては過言です。これは故郷の食材を再現したもので」

「クコココ、分かってますよって。しかしな、

「そうなんですか」

「カルマはんはそれで「発明者」の称号をもろとるやろ」

「それはそうなんですけどね」

「クコココ、ウチの居た世界にも鰹節はあったがウチでは作れなんだ。この世界の鰹節の歴史を開き解き放ったのがカルマはんや。つまり、これを開発というわけですがな」

 おおぉう。

 さすがは元言葉の神様。

 上手いこと言うな。

 カルマちゃんもコンゴウさんの言葉になるほどとうなずいていた。


「なるほどな。異世界の食べ物ってことか」

 鰹節をガジガジ噛みながらバルトがのたまう。

「つまりカルマ嬢ちゃんは異世界人ってわけだな。なるほどなるほど。ならばその肢体、がらくたなどと言った非礼、改めて謝ろう。俺にもおよびつかぬ力を秘めてるやもしれぬからな。ほかならぬこの女狐のこともあるしな」

「コココ、なんやもしかしてあん時のことまだ根に持ってはるんかい」

「当たり前だ。俺がまだ若かったころとはいえ同胞はらから以外でさしで敗れたのはあれ以外にない」

 バルトとコンゴウさんは笑顔だがどこか威圧感を含んだ声音でありながら、なつかしむような顔で見つめ合い語らっていた。

「コココ、えらい気概やね。そないに財宝持ってたんが癪に触るかいな」

「ふん、過ぎたことよ。あの時の屈辱があればこそ今の俺が居る」

「クコココ。ならば何を滾ってらっしゃるんかいな」

「知れたこと。小童から成長した姿を見せてやりたいという気持ちがあるだけだ」

「すまんなぁ。こちらは隠居のつもりなんよ」

「ふん、そちらの都合ぐらい知っている。今更駄々をこねて煩わせるほど子供ではないと言っただろ」

「そやったな、――して、ダインスレイフの件やが」


「それ、私がやります」

 バルトとコンゴウさんが話の本題にと入ったところでカルマちゃんが手を上げる。

「カルマちゃん。魔法大国に行くんじゃなかったの」

「ザック、私は計画通りの旅より、道草こそが旅の醍醐味だと思うんだよ。」

「分かったよ」

 カルマちゃんにこだわりがあるというなら俺様が口をはさむ道理はない。

「カルマ嬢ちゃんが受けるって、冒険者の代わりをしようって言うのか」

「代わりじゃありません。私は冒険者です」

「ほう、どれくらいやれるんだ」

「ゴブリンの巣を破壊しに行って、1人でゴブリンロードを倒したらみんなに驚かれたぐらいです」

「ほう、ゴブリンロードを1人でか。ゴブリンがごとき矮小なれども、ロードともなればワイバーン下手な竜種ごときなら凌ぐもの。一介の冒険者とは違うか」

「人とは戦ったことないからどれくらいかは分からないけど、冒険者ギルドとかでは褒められるくらいには強いですよ」

「ならばよし。任せよう。相手は俺が不在とは言え、俺の巣に入って生きて帰ったほどの強者だろうが、カルマ嬢なら問題なさそうだ」

 いやいやいや、問題大ありでしょ。

 どんな相手か知らないけど、竜の巣に潜れるってのはただ者じゃないはずだ。

 しかも、相手は1人とは限らない。

「ホントにやるんだ」

「もちろんだよザック」

 はぁ~~~。

 仕方ない。こうなったらカルマちゃんは意地でもやる。

 なら俺様は従うのみかな。


「それでそのダインスレイフってのはどんなモノなんだ」

 俺様がバルトに問うとバルトは真面目な顔で答えて来た。

「黄金の長剣だ。今は厳重な封印が施されているがな」

「魔剣って聞いたがどんな魔剣なんだ」

「そうだな……ダインスレイフは今では魔剣だ」

「今では?」

「そうだ。元は邪を払う聖剣だった。それがいまでは魔剣だ」

「そうなった経緯を聞いてもいいか」

「そうだな。どうやら歓迎の用意もできちまったようだし、酒の肴に昔語りのひとつでもさせてもらおう」

 そう言ってドカリと腰を下ろしたバルト。

 すると旅館の者たちによって沢山のご馳走が運ばれてきた。

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