第3話ー1 とうとつに竜が出た。

「クココココ。やはり鰹節を作って来てくれたかえ」

 そう笑うのは大きな体のコンゴウさん。

 やはり、やはりと言うか。

「やはりコンゴウさんは鰹節を知っていましたか」

「ココ、知っていたとも。とはいえ、ワシでは作れなんだのだがな」

「やはりコンゴウさんはこの世界の住人じゃない」

 カルマちゃんが推理小説の探偵みたいに犯人を言い当てる感じでコンゴウさんに言い寄る。

「クココココ、残念ながら惜しいのじゃ。ワシには元が付く。もうこの世界に居ついて1000年になるからのぉ」

 1000年。そんなに生きているのか。それではもはや――

「それとワシは人族やありまへん。神様だったもんどす。まぁ、それも元が付きますやろがな」

 元神様か。そりゃまた大物。見た目通りという訳か。

「コンゴウさんはエデンの神様だったのですか」

 カルマちゃんの疑問にコンゴウさんは少し顔をしかめる。

「どうでっしゃろな。鰹節やしょうゆなんかの共通する知識がある様やけど、ワシの居た世界はエデンとは呼ばれておらんかった。もしかしたらワシが離れた後の世界かもしれんし、根っこが同じでも違う別の世界かもしれへん」

「なんでコンゴウさんはこの世界に?」

「信仰を失ったからや」

「信仰ですか」

「そや。ワシはその世界で人に信仰されとったんやけどな、時代の流れと共に信仰は失われて忘れられていったのや」

 そう語るコンゴウさんはまだ未練があるのか郷愁の念が顔に現れていた。

「居場所を失ったワシはこの世界に移って来た。それから1000年ぐらいは冒険者まがいのことやりながら今では店構えて腰を落ち着けとる訳や」

「へぇ~。そうだったんですか。それでコンゴウさんはどんな神様だったんですか」

「ワシの神の頃か。そうじゃのう、あまねく言の葉の神――というたら分かるかの」

「あまねく?言の葉は分かりますがあまねくってどういう意味ですか」

「この世のすべて――という大それたものよ。ワシは人から全知の神として信仰を集めていた」

「そんなすごい神様だったんですね」

「だが、それも人のコミュニティーが小さい頃だから成り立っていたモノよ。人が進歩して、文化が発展して、言葉が複雑になるにつれてワシへの信仰には疑念が生まれていったのよ」

「どうしてですか」

「嘘もまたワシの権能だったからじゃ。流言飛語もまた奈言ナコトの一部ならば、それらが広まるのもワシのせいになった」

「それって――――」

「クコココココ。神には全も悪もない。求められるがままなのじゃよ。だが、ワシは忘れられていった。神として薄れたがゆえに自我に目覚めたワシは自由を求めてこのせかいへと旅にでたのよ」

「カミが薄れて――――フサフサじゃないですか。」

「そっちの髪じゃないし」

「冗談ですよ」

「分かっとるわい」

 なんだか、コンゴウさんは子供の声色なのでカルマちゃんと同年代の友達と話しているように感じてしまう。

「して、カルマはんはどないしてこの世界に?」

「実はかくかくしかじかで」

「そうかそんなことが」

「ちょぉぉと待って。今ホントにかくかくしかじかで通じなかった?」

 俺様がつい口をはさんじゃうと。

「ワシ、言の葉の神じゃからな。たやすいわ」

 さよですか。

 

カルマちゃんがコンゴウさんと話をしている間、一緒に来ていたテクスチャが途中から畳に額をこすりつけるように頭を下げていた。

「どうしたテクスチャ、額でもかゆいのか」

 俺様がそう聞くと。

「そんなわけないでしょ」

「いや、そんな土下座みたいな姿勢から睨まれても」


「クコココ。頭を上げなはれ」

「しかし貴方様は話を聞くに12頭領がおひとりではないですか」

「コココ。確かにこの地に住むものからそう呼ばれていたりもするが、はて――――それも廃れつつあると思うておったがな」

「わたくしはサヤン族が長、クベンの38の孫が1人テクスチャです」

「おお、サヤン族のか。道理で立派な角を持っていると思うたわ」

「私たち半魔族と呼ばれるものがこの地で生きていけるのもナコト様のお力あってのこと」

「ワシに義理立てるのは良いが、今のワシはコウゴウであって、それ以上でもそれ以下でもない。よって、頭を上げてワシの客人としての振る舞いをせよ」

「かしこまりました」

 そう言ってかっらテクスチャはゆっくりと頭を上げて緊張をほぐそうとしてる。


「クコ、それでは話を戻そう。カルマはんの事情も分かりましたし、鰹節のお礼の紹介状も出しやす。まぁ、見ての通り、ワシの紹介状なら偉い人にはよう効きますさかい期待してくだはれ。それはそうとして、あの工房は使こうてかまへんやろか」

「どうぞどうぞ。あの設備なら短時間で鰹節を作れますよ」

「助かりますは。作り方は知ってるんやけど必要なカビがどうしても手に入らんかったんよ。カビの培養もさせてもらいますさかい、これで鰹節が仰山作れますよ」

「なんなら醤油—―――」


「大変だぁ~~~~ドラゴンが出たぞぉぉぉぉぉぉ!」


「ほよ?」

 突如響いた声に会話は一時中断となった。

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