第2話ー7
さて、カルマちゃんをお風呂に入れて綺麗になったところで鰹節づくりを始めます。
「ハイ、まず初めにカツオを四つに切り分けます。この時、背中側を雄、お腹側を雌と言います」
「それはカツオの雌雄は問わずにか」
俺様がそう聞くとカルマちゃんがそうだと答える。
「切ったカツオを籠に並べたら、これを沸騰直前のお湯で煮ます」
「沸騰させちゃダメなんですか?」
「そうだよー。沸騰させると煮崩れしちゃうから」
「それは火加減が難しいんじゃないですか」
「難しいよ。でも安心してテクスチャちゃん。私の造った釜の温度調節機能は万全だから」
「へー、ソウナンダ~。スゴイナ~」
テクスチャの奴、よく分かってないだろ。
「はい、それでは煮立て終えたカツオがこちらです。」
「なんか茶色くなりましたね」
「ちゃんと火が通ってる証拠だよ。では、これを水にさらして冷ましながら、骨、皮、鱗などを取っていきます。これらは手作業で丁寧に身を傷めないように行います。そして皮はとり切らずに少し残しておくことでこの後の作業の効果を見分けるのに使います」
「そして次に行うのが
「それであの硬さになるのか?」
「えっ、これって硬くなるんですか」
俺様の質問にテクスチャが驚いている。
「テクスチャちゃん、鰹節は世界一硬い食品と言われるほどの硬さになるんだよ。でも、ここではまだその硬さにはならないよ。」
「さて、培乾が一度できましたらカツオの身を使って作ったパテで欠損部分を補修してから続いての培乾に入ります。」
ここまでサラリとやってのけているがカルマちゃんの辞書によると本来は何日もかかる工程なのである。それをカルマちゃんが作った機械で時間短縮しているのだそうだ。
「この次の培乾は一気にやらず何日かごとに休ませて、10回~15回行います。」
「ここまでくると日本刀作り並みの執念が感じられるな。日本のモノ作りは常軌を逸してないか」
俺様がそう言うと。
「モノ作りにハマった人は芸術家と同じこだわり症になるからね」
「なんかもう、深海に眠る邪神からインスピレーション受けてるんじゃないのかなそれ」
「かもね」
ははは、と笑う俺様とカルマちゃんに故郷ネタが分からないテクスチャが首を傾げてていた。
「さてこの時間がかかる工程も私の全自動培乾機で一気に仕上げられます。」
「洗濯機かよ。しかしこんなの造って伝統的な製法でがんばってる人に悪くないかな?」
「モノ作りは伝統とイノベーションの競演だよ。こだわりを持つのもいいし革新を起こすのもいい。それらがせめぎ合って文化は育まれるんだよ」
「なるほど、カルマちゃんに哲学があってそうしてるんなら俺様が口を出すことじゃないな」
「さて、培乾が済んだカツオを今度は表面を削ります」
「おっ、ついに完成か」
「いえ、このまま商品にすることもありますが、本枯れ鰹節は表面を整えた後にカビ付けを行います」
「カビ?それってお風呂場なんかについてる――」
「お風呂場の黒カビじゃありません。鰹節に使うのは体に無害なカビです。チーズだってカビでしょうが」
「あっ、言われて見れば」
「このカビが脂肪分を分解するから鰹節は動物性のものでありながら透明な澄んだ出汁を引けるんですよ」
「なるほど。で、その専用のカビも――」
「もちろんもらってます」
さよですか。どこのどいつだったんだろうね。
「で、カビ付けは専用の室で6~10日かけて行います」
「そこもカルマちゃんの機械で?」
「短縮しました。これを日干しにしますけど、それも専用の機械を使います。この日干しの間は雨粒1滴でも付いたらだめだからね」
「本当に気が遠くなる作業だな」
「これをカビ落としして、またカビ付けて、乾かして、を3~6回ほど行います」
「ははは。もう笑えるわ。テクスチャなんて途中から付いてこれてないぜ」
「ですが、これで鰹節は完成です」
「ようやくだ」
「わ~、途中よく分かりませんでしたがこれで完成なんですか」
「見ててねテクスチャちゃん」
そう言てカルマちゃんは出来た鰹節を2つ打ち合わせた。
か―――――――ん。
うん、食べ物とは思えないような澄んだ音色を奏でている。
これはいい鰹節だ。
「いい音色だろ」
「カ、カ、カ、カルマさん。これホントに食べれるんですか」
「うん、削って食べるんだよ。ザック」
「なんだいカルマちゃん」
「鰹節削り器モード」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!俺様にそんなモードがああああああ?うわっ、ほんとだ鰹節削り器に成っちゃった」
こう、長方形の箱の上面にスライサーのように刃が付いたやつである。
これでも黒いのはカルマちゃんの趣味なんだろうが、箱が何気に木目が付いていた。
「これでシュッコシュッコ削って使うんだ。これで出汁をとってもいいし――――ご飯に乗せて醤油を垂らした猫まんまにして食べても美味しんだよ」
という訳で、カルマちゃん達は猫まんまを堪能した。
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