第2話ー5
「
それがカルマちゃんの決定だった。
さて、何でいきなり鰹節なのかと言うとだな。
「コココ、カルマはんは特別な知識を持ってはっしゃろ。それを生かして新しい商品創り出してくれたもう」
という昨夜コンゴウさんから依頼されたモノのことだろう。
宴席では何を作るか答えなかったカルマちゃんだが、一晩明けた早々そう答えたのだ。
「それで何で鰹節になるかなぁ~」
俺様がそうぼやくとカルマちゃんは胸を張って堂々と言った。
「だって昨日のご飯美味しかったけど、和食に似てるのに出汁が全然なかった」
「ダシ?」
「そう。御出汁。昨日は美味しい天ぷらをご馳走になったけど、天つゆがなかったことが残念でしょうがなかったんだよ」
「天つゆかぁ~。俺様食事はあれが初めてだから分からないが、天ぷらには天つゆが必要か?」
「必要だよ‼」
カルマちゃんはそれはもう真剣な顔で宣言した。
「天つゆ……。それは昆布出汁とかつお出汁にみりんと醤油で味を調えたモノ。いや!もういっそ出汁だけでも構わない」
天を仰いでのたまうカルマちゃん。
その口元にはよだれが垂れていた。
そんなに旨いのか。
ならばこの世界でも食べられるようにしたい気持ちは分かる。
「しかし、カルマちゃんが鰹節の作り方を知っていたなんて驚きだな」
「ふっふっふ、私の辞書には鰹節の作り方ぐらい載っている」
「ウィキ〇ディアかよ」
ポケットからなんかの端末を取れだしてスマスマしているカルマちゃんにツッコンだ。
「失礼な、ウィキ〇ディアじゃないよ。私は生体工学を専攻してたけど、それとは別に講義を受けてたんだよ。その時の友人が栄養生理学に進んで御出汁の研究してたの。彼からの研究論文やなんやかんやをもらってたからその中に入っていたんだよ。」
彼から~?
男なのか。
そいつ男なんだな。
カルマちゃんはこっちの気も知らずに端末をスマスマしてますけど、男友達とかいたのかよ。
くっそ~~~~、ロッキーはいろんな意味で脈無しだったけど、俺様が生まれる前から男友達が居たなんて聞いてないぞ。
もし飲み会なんかに誘われてお持ち帰りなんかされてた日には――――もう一度俺様がエデンを滅ぼす。
「あっ、ザックが心配してるようなことはないから。そもそも私穴ないから」
なんて気楽に言ってくれますが、お口とか――――いやそこらへんは明言しないほうがいいか。
何にしてもカルマちゃんは危機感が薄すぎる。
自分が美少女なのを自覚してほしい。
「それでね~、鰹節に向いてるのは4.5~6キログラムのカツオなんだって~」
「なるほどさよか、で、そのカツオは手に入りそうか」
「いまからコンゴウさんに朝市の見学させてもらうつもり」
「でも昨日の毛ガニを見る限り大ぶりのものはいっぱいありそうだけどな」
俺様がそう言うと何故かカルマちゃんは困った顔をする。
「う~ん。実は大きいのがいいわけじゃなくて、大きすぎると中までしっかり乾燥できないらしいんだよね」
「つまり、ちょうどいいサイズが有るか心配だと」
「そう言うこと。そこは見てみないと分かんないんだけどね」
そういう訳で俺様達はダンジョンから水揚げされる市場への見学に向かった。
そこは市場であると同時に戦場だった。
飛び交う怒声は良い魚を競り落とさんとする商人のモノ。
ここは商人の戦場だった。
「見てみてザック、いろんなお魚が並んでるよ」
「流石はファンタジー世界。見たこともない魚が並んでるぜ」
「ザックはそもそもお魚を見るのは初めてじゃないの」
「俺様んの中のデータベースにお魚図鑑もあるんだよ」
「でも生で見るのは初めてでしょ」
「刺身なら昨日見た」
「現代っ子だ~。ははははははは」
「ははははは、おっ、あの魚デカいな」
「デカけりゃいいってモノじゃないんだよ。サイコよりフォーミュラーの方が新しいし。」
何の話をしてるんだろう。
多分魚とは関係ないと思う。
そんな雑談をしながら市場を見て回る。
「あっ、みてみて。あそこにカツオが並んでる」
「お、ホントだ」
お目当てのものが見つかった俺様達は早速市場の店員、もとい、「朝露の小鹿亭」と提携している漁師さん。というか、海産系ダンジョンに(文字どうり)潜って、魚を捕獲している冒険者さんに話しかける。
てかこの世界では漁師も猟師も冒険者登録しているのだろう。
日に焼けた浅黒い肌にねじり鉢巻きのガタイのいい兄ちゃんだった。
「すみませ~ん。この魚、これくらいの大きさの奴って一杯捕れますか」
「ああ、この魚ならこのサイズが良く取れるな。なんだ、ドッカで屋台でも始めるのかいお嬢ちゃん」
兄ちゃんはどうやら屋台の仕入れと思たらしい。
まぁ、カルマちゃんみたいなちっこいこが同じ魚をたくさん欲しがる理由は限られているだろう。
「あっ、違います。私、カルマと言ってコンゴウさんから新商品の開発の依頼をされたモノです」
「なんと、コンゴウ姉さんからですかい」
「はい。まずは試作品からですが、そもそも生産数を稼げるだけ素材が捕れるかのリサーチも兼ねているんです」
と簡単に説明した。
それを聞いた兄ちゃんは喜んで是非に自分とこの魚で新商品を作ってほしいと頼まれた。
その後、試作品を作るためのカツオを分けてもらった俺様達は朝市の食堂でご飯を食べてから与えられた工房へ向かったのだった。
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