第2話ー4

 次に出てきたのは大葉の天ぷらだった。

 鮮やかな緑色した大葉の片面に衣が付けられて揚げられたその天ぷらは濃厚な蟹の旨味の合間に食べるにはさっぱりとしていておいしかった。

 これなら塩を付けずにでも美味しい。

 しかし、アレがあればなおよかったのだが、無いものは仕方がない。

 私の手持ちにもあれはないのだ。

 三杯酢はあったのに。

 しかしさっきから何やらコンゴウさんとザックが2人で話が盛り上がっている様だが、とりあえず私は食べるのに夢中です。

「カルマさん、いっぱい食べますね」

 向かいからテクスチャの声が聞こえた。

 彼女は小食なのか既にお腹をさすりながら熱いお茶を飲んでいる。

「蟹焼きあがりましたぜ」

 板長のおじさんが焼きガニを持ってきてくれる。

「わぁ~い、いっただきまーす」

「まだ入るんですか」

「私のお腹は位相空間に繋がってるからね」

 驚いて私を見るテクスチャちゃんにそう説明したのだがうまく伝わらなかったらしい。

「い?なんですかそれ」

「異世界に繋がっているって言ったら分かる」

「あぁ、確かにそんな感じがしますね」

 まぁそうだよね。

 まさか本当のことだとは思わないか。

 

 テクスチャちゃんには私の体の一部が作りものだとは伝えている。

 てか、一度目の前で手がちぎれるところを見せちゃってるしね。

 その後からとっても仲良くなれて、魔力の使い方も教えてもらった。

 でも、ワタシはまだまだ魔力には素人なんだけどね。

 それでも、私は手の修理のためにも13の希望を回収しなければならないから旅に出た。

 で、道に迷ったわけだけど、そこでテクスチャちゃんと再会できたのは嬉しかった。

 どうやら私の目的地とテクスチャちゃんの故郷は同じみたいなので一緒に旅が出来そうだ。

「それで、テクスチャちゃんの故郷ってどんなとこ」

「ボクの故郷ですか」

「そうそうどんなとこか気になって」

 私は焼きガニをほおばりながら訪ねた。

 うっまーーーーー。

 焼きガニマジ旨ーーーーーーーーーーー。

 オッといけない、こんな口を言葉にしたらザックからはしたないって怒られちゃう。

 正直に言うと、こんなおいしい蟹に合うお酒ってものを飲んでみたかったりするのだ。

 この機械の肝臓はアルコールの分解機能も優れているから酔っぱらうことはないと思う。

 コンゴウさんから漂うお酒の香りが気になってしかたなかったりする。


「ボクのこひょうはアヴェ、ひっく、エイムといいまして」

 おっと、どうやらテクスチャちゃんはお酒には弱いみたいです。

 匂いだけでも酔い始めてしまったようですね。

「テクスチャちゃん、お水飲もうね」

「あいがとごっざいまひゅ」

 私はお水と共に、エデンにいた頃の友達が開発した酔い止めの薬をテクスチャちゃんに飲ませた。

 この酔い止めの薬、お酒にも聞くって言ってたけど、さてどうだか。

 もし本当に効くなら量産の価値はあるかな。


「ふひー。なんか少しすっきりしました」

「そっかー良かった」

 よっしゃー、と心の中でガッツポーズをとる。

 これなら私もお酒を飲める。

 そう思って、手を伸ばしたら――――

 話の途中だったザックから冷たい視線が。

 いーよいーよ分かりましたよ。

 私はジュースで我慢しますよ。


「それで、テクスチャちゃん。故郷にはどんな人たちが住んでいるの」

「どんな人たち?ですか。まぁ簡単に言うとエルフとドワーフの町ですね」

 テクスチャちゃんから出てきたのは意外な組み合わせだった。

「エルフとドワーフかぁ~。私、その組み合わせは仲が悪いと思てた」

「間違っていませんよ。その二種族は昔は仲が悪く、ちょうど隣り合ていた二国で戦争が有ったのです」

「それで双方大きな犠牲を出した、と」

「慧眼ですカルマさん。双方は王様を失うまでになっていました」

「王様が居なくなって戦争は終わったの」

 私はヒラメのお造りをつまみながら予想を口にした。

 しかし魚のヴァリエーション豊富だなぁ~。

「いいえ、その後も新しい王様が据えられました」

 ありゃりゃ、はずしちゃったかぁ~。

「しかし、その新しい王様たちは後の世に「賢王」と語られることになったのです」

 おっ、読めてきちゃった。

「もうお気づきでしょうが、この王様たちが戦争を終わらせたのです。民に戦争のむなしさを解き、剣を置いて手を取り合うべきだと教えた彼らは、まず自らがと進んで相手の手を取りに行きました。この時図らずも双方の王が同じ考えを持っていたことに気が付き、義兄弟の契りを結んだと言います」

 祖国の自慢話でテクスチャが珍しくハイテンションになっている。

 いや、アルコールの影響もあるかな?

「その地こそがアヴェントエイム、魔道大国と呼ばれる所以となった王立魔法学院が建造された学術都市国家であります。」

 そう手を上げて言い放ったテクスチャはそのまま目を閉じていき、ドサッ。と、後ろに倒れて眠ってしまった。


「ココ、なんやカルマはん、魔法学院に興味あるんですか」

 ザックと話していたコンゴウさんがテクスチャとの会話が終わったところで話しかけて来た。

「どないやろ。お仕事1つ受けてくれはったら紹介状書きますけど」

「受けます」

 と食い気味位に受けた私にザックがあきれているのが分かった。

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