第2話ー3
濃密かつ複雑なアミノ酸。
科学的に言えばその一言である。
しかし俺様は初めての味覚にそんな風情の無いことは言いたくなかった。
しかし、その味わいというものには俺様では筆舌に尽くしがたく、ただただこれが味か――――と堪能するばかりであった。
「どうかな、美味しいザック」
「うむ、初めての味というものに感極まるばかりだ。一言で言うと――――カルマちゃんの口移しサイコー」
ズベシ!
「何言うかな。そんな変なこと言うともう食べさせてあげないよ」
顔を真っ赤にしたカルマちゃんに叩かれた。
すみませんちょっと暴走しました。
「それにしても、こんな山奥でよくこんな立派な毛ガニが用意できましたね。俺様達が町に着いたのは昨日のことなのに」
「コココ、ザックはんは賢い――というか、抜け目がありまへんな。そんなことを気にしはるなんて」
「いや、話せないことなら失礼。これでも科学者の相棒やってるもんだから、どんなからくりがあるのか興味を持ってしまってね。忘れてくれ」
「……よいぞ」
「は?」
コンゴウさんは赤い盃に酒をなみなみと注いで一気に飲み干すとニヤーと笑ってそう言ったのだ。
「よいぞ。教えちゃる。どんなからくりでこの蟹を手に入れたか教えてもよいぞ」
これはこれは、ほんの興味本位に口を滑らせただけだったが、棚からぼた餅を取り出してくれるとは意外だった。
コンゴウさんは商人の女将をやってるだけあってもっと損得勘定で動くもんだと思た。
「コココ、こればかりはやり方を知ったからと言ってそう簡単には真似で来はしませんのや。まして旅の身空ではのう」
なるほどそう言うことか。
損はない。そのうえで借りは作れる。
何が望みかは知らないが何かカルマちゃんに頼み事がしたいのだろう。
「それよりワシはカルマはんがそのボトルを取り出したからくりが知りたいのじゃがのう」
そう言われてカルマちゃんに意識を向けると、4次元ポケットのポーチ版と言えるものを着ものの帯に結んでいたのだが、そこから黒い液体の入ったボトルとわずかに黄色い色をした液体の入ったボトルを用意した。
「カルマちゃん何してるの?」
「うん、そのままも美味しいけどせっかくだから醤油と三杯酢もだしてみました」
何してんの。
「ほ~う、醤油か。懐かしいの。どれ、ワシにも分けてくれんか」
「どうぞ~。テクスチャちゃんもどうぞ」
「いただきます。ん~~。これはまた違った味わいになりますね」
確かに、カルマちゃんが食べた醤油や三杯酢の利いた蟹もまた言葉に出来ない旨さがある。
「さて、次の焼きガニを待つ間の肴にザックはんの疑問に答えまひょか」
そう言っている間にも山菜の天ぷらなども運ばれてきていてそれを3人でつまんでいる。
「簡単に言いはるとな、この蟹はウチの商会が管理しておるダンジョンで取ってきたもんなんや」
「ダンジョンで!」
たしか貴重な資源などが取れるダンジョンは管理されて維持されることがあると聞いたことがあるが。
なるほど、食材を確保するために管理してるダンジョンがあるのか。
「しかし、山の中に海のダンジョンがあるのはやや不自然だな。」
「そりゃそうやろうな。そもそも山ん中には海のダンジョンなんてそうそう出来んよってからに」
「ほ~う、つまりその貴重なダンジョンを押さえたことで大店としての地位を得たのか」
「ちょいっと違いますわ。手に入れたんやなくて作ったんや」
「作ったとは?ダンジョンを作ったのか」
「そうや、海の中にあるダンジョンに赴いてダンジョンコアを乗っ取て来てこの山の中に定着させたんやよ」
「ダンジョンコアの乗っ取り、そんなことが可能なのか」
「そこは企業秘密というやつや。まぁそないなわけでこの地では手に入らん食材の商いで成功して大店広げとるゆう訳やわ。」
なるほどね。
「そのダンジョンコアの乗っ取りってのはコンゴウさんがやったのか」
「そうや。そうでもなければ頭は張れまへんよって」
「つまり、コンゴウさんがダンジョンマスターだということですよね。そしてここもダンジョンの一部」
「へ~~~、なかなかの推察や。付喪神や思うてはったがなかなか年季が入っておられるんですやろうな。」
「滅相もない。これでも意識が芽生えて1年たっていませんよ。それに、元になった器物も100年たってはいません。」
「おやまぁ、それでそないにはっきりした意識をお持ちなのかい」
「俺様を作ったカルマちゃんの才能が飛びぬけていたんですよ」
「コココ、どうやらワシの目に狂いはなかったゆうことなんやろうな」
「コンゴウさん。あなたはカルマちゃんに何を期待しているんですか」
「そないな恐い顔せんでもいいやん」
「俺様顔無いですけど」
「なに、ちょと簡単な仕事を頼まれて欲しいだけや」
「それは俺様でなくてカルマちゃんに訊ねてください。決めるのはカルマちゃんですので」
「コココ、その前に保護者に根回しもせんとあかんやろ」
さて、次は何が出るやら。
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