第2話ー2

「クコココココ。それじゃあお二方にはウチの店のモン救うてもろたお礼に当旅館「若草」自慢の山海の珍味をご馳走させてもらいます」

 と、コロコロとコンゴウさんは童の声で笑いながら店の者たちに指示を出した。


 いや、山海の珍味って、この町はどう見ても内陸の山岳地帯、海なんて存在しないはず。

 となると、海の食材は干物がメインになるだろう。

 魔法が存在することはわかているけど、中世ファンタジーな世界観で冷凍保存の発想もなさそうだしな。

 なんて思っていたら。


「まずは本日取れ立ての「大皇ケガニ」の活造りいけづくりや」

 ってぇ、いきなり生の毛ガニ来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 てかメッチャデカい。

 エデンで取れる毛ガニと比べて何倍もある。あんなの人を丸かじり出来そうなぐらいデカいじゃないか。

 宴会場に運ばれてきたのはまだワキワキと足が動いている生きたヤツだった。

 危なくね~のか。

「安心していいでぇ、魔法で眠らせてるさかい」

 驚く俺様達を見てコンゴウさんがコココと笑いながら説明してくれる。

 そして、毛ガニと共に白い作務衣を着た禿げ頭の男性の紹介もしてくれた。

「こちらが今日の料理を担当してくれる「若草」の板前長の「バイト」だ」

 その紹介に俺様は吹き出し掛けた。

 板前長なのに「バイト」なんて、時給いくらなんですかねぇ。


「それでは始めさせてい頂きます」

 板前長は俺様達や主であるコンゴウさんにそう申し出てから毛ガニの解体を始めた。

 シャラン、と抜かれたのは青みがかった地金の大きな包丁だった。

「すごい、オリハルコンを使った包丁なんて、なんて贅沢なんだ」

 オリハルコン、何だっけそれは。

「確かオリハルコンってドワーフにしか作れない金属ですよね」

「コココ、そうやね」

 テクスチャが驚き、カルマちゃんが感心するのにコンゴウさんがニヤニヤいじましく笑って答えた。

「しかしやって、それもいつまでの話やろね」

「どういう意味だ」

 俺様がコンゴウさんの言葉に疑問をぶつけると。

「やってかって、人間たちに製鉄技術を与えた天才もおるんやから、オリハルコンかって作り方盗まれるんやないやろか、と思うてな」

 と、ニヤニヤと笑ってカルマちゃんを見る。

 この人はカルマちゃんがそのヒトだと気づいているようだ。

 あの笑顔の下で何を企んでるのか知れないが……。

 食い気に呑まれたカルマちゃんへの忠告は今度にしておくか。


 板前長は長い包丁を構えると、静かに毛ガニの額を貫いた。

 ビクビクと毛ガニの足が痙攣して息の根が止められたことが分かる。

 その後に足を一本ずつ切り取られる。

 そして素早く静かに殻に包丁が奔ると、ズルリとカルマちゃんの腰ほどの太さの身が躍り出てきた。


「ところで、ザックはんは飲み食いで来はるんか」

「ん、いや、俺様はカルマちゃんから活動に必要なエネルギーを供給されてるから飲み食いは必要ないんです」

「なんやそれはザックはんを仲間外れにしてるみたいで申し訳ないなぁ」

「いえいえ、お気になさらず」

 宴の主催者であるコンゴウさんの気遣いにそう俺様が返していると――――

「ふっふっふ、安心しなさいお二方」

 と、カルマちゃんが含み笑いをしながら顔を上げる。

「前にザックが壊れた時、実はいくつかの新機能を搭載していたのだよ。その1つが私との味覚共有。私が食べたモノの味をザックも味わえるようにしていたのだ」

「なんと、そんなことができたのか」

「ふふん。私は天才だよ。ちょっと頑張ればこれくらいできるよ」

「それを今まで黙ってた理由は」

「せっかくの初めての味覚ならご馳走の時がいいと思って」

「クコココ、ならばザックはんもご馳走を楽しめるゆう訳や。ほんならみんなでいただきましょうか」


 俺様達の前には殻をむかれた毛ガニの足が並べられた。

「切り分けましょうか――――」

「かぶりつきます」

 板前長の申し出を食い気味に断るカルマちゃん。

 分かる。分かるよカルマちゃん。食ったことのない俺様でも蟹はやっぱり口いっぱいにほおばりたいんだね。

 もはやよだれを垂らさんばかりのカルマちゃんは今か今かとそわそわしている。

「ほな乾杯、と行きたいところやけど、カルマはんは酒精はいける口かい」

「あ、私お酒はダメなんです。故郷の風習で20歳になるまで子供はお酒はダメって言うのがあって」

「あれ?この前カルマちゃんカクテル飲んでなかった」

「あれはノンアルだよ。ザックをからかうための演出」

 なるほどそうだったのか。

「なるほどのう、ならば旨い茶を用意させよう。テクスチャ殿はどうする」

「あ、ボクもお酒は遠慮させてもらいます」

「ふむ、それじゃあワシ一人だけが酒というのも」

「いえ、ここは遠慮なさらず。私たちは客に過ぎないのですから、どうぞ遠慮なく飲んでください」

「ふむ、そう言われるならば遠慮なくいただこう」


 こうして宴会が始まった。

 最初に食べるのは蟹の活造り。

 しかも超大ぶりで、体が大きなコンゴウさんなら蟹の足を掴んでかぶりつくのには違和感がない。

 しかし小柄なカルマちゃんがこの大きな身にどう挑むのか。


 カァプ!


 行ったぁぁぁぁ。

 そのままかぶりついた。

 そしてそこで俺様に衝撃が走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る