第2話ー1 宴会と依頼。
俺様達、いうなれば俺様とカルマちゃんとテクスチャの3人は今トーンの案内で、何十畳あるのか分からないほどドでかい宴会場へと通された。
それはこのベーカリーの町に着いて2日目の夜のことだった。
昨日は「朝露の小鹿亭」の経営する旅館、「若草」に宿泊させてもらった。
そして旅の疲れを癒してから、今日の日中は町の観光をトーンにしてもらったのだ。
ベーカリーの町は魔法大国と呼ばれる国の玄関口らしく、それっぽく見える魔法の道具なんかが売られていたりした。
カルマちゃんは目をキラキラさせながらその道具類を観察しては楽しんでいた。
しかし、俺様から言わせてもらえばカルマちゃんの造る道具の方が何倍もすごいと思う。
魔法の道具と言っても、それはこの世界の人達の基準で使われている物なので、そう飛びぬけた性能を持つ道具などではない。
せいぜい火を使わずに御湯を沸かすポットだったり、自動で動く人形だったりだ。
俺様達の世界で魔法の道具なんて言ったらそんなの万能の願望器たる聖杯だとか、異世界に行く船だとかになるだろう。
「…………………………なんだろう、今何かが引っかかったような」
「ザック~~~~~。それは私の胸がそんなに引っかからないぐらいだって言うの」
「ち、違います。違う、そうじゃない。違うのです。So differentです」
カルマちゃんがあらぬ誤解をしてしまうので俺様必死に誤解を解く。
「大丈夫、俺様引っかかるどころか乗っかっちゃってます。帯で持ち上げられて存在を主張しているカルマちゃんのオッパイに乗っかっちゃってますよ」
「ザック、今日は分解点検の日ね」
「なぜに!」
この後なぜか俺様は分解されることになったのだが、これから宴会だ。
カルマちゃんとテクスチャは観光後お風呂に入って、今は浴衣姿である。
カルマちゃんは黒字に白で東洋の竜が描かれた男らしい浴衣を着ている。
そして、長い金髪は結い上げられて一つの大きなお団子が頭に乗っている。
ぱっと見、日本観光に来た外国人のお嬢ちゃんだ。
で、テクスチャの浴衣は緑色の髪に合わせたのか抹茶色だった。
風呂上がりで火照った肌にくせ毛が何かエロイ。
あと、ペッタンコのお胸が浴衣によく似合ってますよ。けけけ。
「どうぞこちらへ」
トーンが広い宴会場の奥の席に俺様達を案内してくれる。
テクスチャはその幼馴染が畏まって自分に接しているのにむずがゆさを感じているのか、口元がむにゃむにゃして目線が泳いでいた。
と、
案内された席は一番奥の上座に面した場所なのだが、その上座にすでに1人の人がいた。
最初は壁に描かれた絵だと思ったのだが、盃を持ち上げ中身を飲み干す動きをしたので驚いた。
一つ、絵と見まごうかと思うほどに美しい女性だったから。
一つ、近づいてみると横座りしているにもかかわらず見上げるぐらいに大きなヒトだったから。
その人は、人をダメにするクッションのようなふかふかの毛玉に上体をうずめるようにして横たわっていた。
その体は立ち上がれば多分3m~4mはあろう程だった。
だがそれでも体に不自然さを感じないぐらいに均整の取れた体格をして居る。
そして赤を基調とした着物を着崩してきており色香も漂う。
壁に描かれた絵と見まごうのも分かってもらえると思うが、加えてその顔もまた人間離れしていた。
白く縦に長い相貌、薄い唇に鋭い笑み、金の髪を長くのばして流れるままに広げている。
そして目だ。
まぶたに赤い化粧、アイシャドウって言うのかな、中国の貴人が付けてそうなヤツを付けた妖艶な目には金色の月が昇っていた。
そう見まごう美しい、人間離れした瞳をしていた。
あっ、今頭の上でぴょこんと飛び出してきたのは狐耳か。
ってことは、あの人をダメにしそうなモフモフのクッションは毛玉じゃなくてこの人の尻尾か。
「コココ、今宵の宴の主賓が参ったか」
その人の口からこぼれた声音は体の大きさや大仰なセリフに似合わない澄んだ鈴を転がすような――――子供の声だった。
「はい、こちらの金髪の方が私を助けてくれたカルマ様、緑の髪の方が私の幼馴染のテクスチャで、荷馬車の方を救ってくださりました」
カルマちゃんとテクスチャが畏まりながら会釈する。
「お二方、こちらの方が――――」
「コココ、トーンよ、まだ紹介が残っているやろがい。ほれ、そこな付喪神はんを紹介しんかい」
付喪神って俺様のことかい?
「それはカルマ様の首に下がっている――――」
「他になんか
「いえ」
どうやら俺様のことらしい。
この人は一目で俺様がただのアクセサリーじゃないってことを見抜いたらしい。
あの妖艶な意味ありげな瞳は伊達じゃないってか。
「こちらの、えっと付喪神?様はザックカリバーと言われまして、カルマ様の武器にして家族にして友達で御座います」
「愛称はザックでよろしく」
俺様も声を出して挨拶しておく。
「改めまして、こちらの方が私の雇い主で「朝露の小鹿亭」の女将である「コンゴウ」様です」
「コココ、
まさに大女将と言うにふさわしいこのコンゴウさんがつまりこの宴会のホストなのだろう。
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