第1話ー6
「朝露の小鹿亭」。
それはベーカリーの町でも大店として数えられるような大きな商会のことだった。
テクスチャの案内でやって来た「朝露の小鹿亭」の店先だが、なんとも圧倒される異様だった。
ベーカリーの町は貿易の中継地だけあっていろんな様式が見て取れる。
だが、「朝露の小鹿亭」の店の様式は町の中でもひときわ異質なのだ。
それはひときわ目立っているという意味でもあるのだが、やはり初見では圧倒されてしまう。
その店はまさに神社だった。朱色と白の建材で作られた稲荷神社や春日大社のような鮮やかな店構えだった。
店の入り口の前にはこれまたそのまんまの鳥居があり、それをくぐって店に入る。
「カルマさん、どうしたんですか?そんなところでお辞儀なんてして」
「いやぁね、これ見るとついお辞儀してから入りたくなるんだ」
分かるぞカルマちゃん。
金髪美少女でありながら日本通のさががそうさせるんだよな。
店に入り、店員にトーンに取り次いでもらう。
「あらあら、いらっしゃい。早かったわね。観光はもういいの」
と聞かれたので、テクスチャのおすすめの店が軒並み閉店してたあらましを説明した。
そしたらトーンはその理由をテクスチャにバッサリと付きつけたのだった。
ちなみに、今のトーンは出会った時の欧州の町娘のような牧歌的な服ではなく、この和風の店に似合った和服姿だった。
亜麻色の背中まであった髪を結い上げてお団子ヘアーにしてかんざしで止めて、うなじを晒している。
着物は正統派、裾の短くないやつ。
山吹色の地色に紅葉柄と鮮やかな風合い。
帯は濃い抹茶色で赤いひもで結ばれている。
その上から、さりげなくフリルのついたエプロンを付けている。
足元は白い足袋を付けて、赤い鼻緒のついた足の短い下駄を履いてカラコロ言わせていた。
ぐるりと周りをまわって見てみればシャランと音が鳴りそうな清楚な美人姿だ。
「テクスチャって私以外の友達っておじいちゃんおばあちゃんばっかりだったんじゃないの」
「うぐっ」
トーンから痛いところを突かれたかのようにテクスチャがうめく。
「お歳寄りはこの町では住みづらいし引退した人は故郷に帰ったんじゃないかしら」
「そんなぁ、じゃあどこを紹介すればいいんだよぉ」
がっくりと肩を落とすテクスチャにカルマちゃんがフォローの言葉を入れようとしたら。
「仕方ないわね。明日私休みだし一緒に観光案内してあげる」
と、トーンが申し出てくれた。
「いいんですか?」
「いいわよカルマさん。私も助けてもらったお礼とかちゃんとしたいし」
「それではお言葉に甘えます」
カルマちゃんとトーンの間で話がまとまった。
のだが――。
「ハハハ、いいんです。ボクはどうせおじいちゃんたちしか友達がいなくてカルマさんに観光案内もできない役立たずですよ」
と、テクスチャがヤサグレていた。
「カルマさんにはトーンの方がお似合いなんです」
「おい、テクスチャよ。―――――カルマちゃんに一番似合うのは俺様だ。」
「……はぁ、何言ってんですか。ザックのくせに」
「おう、テメェやんのかコラ」
「そっちこそ何をやるんですか、手も足も出ない分際で」
「はぁん、手ならカルマちゃんが付けてくれるさ。隠し腕ってやつとか」
俺様の叫びを聞いてカルマちゃんが思案顔で聞いて来た。
「隠し腕ってジ・〇みたいな」
「そうそうそんな感じで、流石カルマちゃん。ジ・〇を作っただけはある」
あとそれ伏字になってないんじゃないかな。
「私はパプテマス・シ〇ッコじゃないよ」
「でも、カルマちゃんの部屋にジ・〇のプラモが有ったじゃないか」
「確かに作ってたかもしれないけども」
「あの~、さっきから何の話をしてるんですか。」
俺様達の会話を聞いてテクスチャが尋ねて来た。
「「モビ〇スーツの話」」
「なんですかそれは」
「モビ〇スーツ、それは私の故郷で再現された夢の兵器だよ」
「子供が夢見た希望を大人たちが実現させることに成功した。そんなおもちゃだった」
「だが悲しいかな、例えおもちゃでも完璧に再現された兵器は戦争の道具になっちゃうんだよ」
俺様達の熱い気持ちが通じたのか、やや引き気味に。
「まさかザックさんはそのモビルなんちゃらだったりするんですか」
「くくく、どうするよ。俺様がそのモビ〇スーツだったとしたら」
「カルマさんはそんな兵器で何をするつもりなんですか」
「世界征服だよ~」
「な、なんですって~。ならばボクはその第一の配下にしてください」
「ためらいないね」
「くくく、だが残念だったな。すでに第一の配下にはロッキーがいる。テクスチャが第一の配下になりたいなら彼をどうにかすることだな」
「分かりました。今すぐロッキーさんをコロコロしてきます」
「待ちなさい」
走りだそうとしたテクスチャの首根っこをトーンがつかむ。
「ザックだっけ、この子馬鹿正直だからあんまりからかわないでよね」
「うい~~~~~す。」
「えっ、今の冗談だったの」
驚くテクスチャだが、冗談半分でもう半分は本気だったりするのだよ。ふっふっふ。
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