第1話ー5
「話しますけど、そんな込み入った話じゃないですよ」
角を離してもらっても若干目をクルクルさせながらテクスチャが話し始めた。
「ある町でボクの姿を見た人が「悪魔だ!」と叫んで、火あぶりにされかけただけですよ」
「だけって、――アンタ十分トラウマになってるじゃないの」
トーンはまたしてもテクスチャの角を掴んでゆすり出す。
「そうかもしれませんが」
「テクスチャちゃんにそんなつらい過去が?」
カルマちゃん、ほろりと涙を流してますが、テクスチャかなり端折ってると俺様は思うぞ。
カルマちゃんに対してのあのツンケンや怯えっぷりからもっとひどい目にあわされたんじゃないかな。
風呂に入った時に拷問の痕とかなかったから拷問を受けたわけではなさそうだが、俺様ちゃんと観察したからそれは確かだ。隅々までずずいと観察したが綺麗な肌だったぜ。
だから多分精神的なつらいことがあったんだよ。
それはカルマちゃんやトーンにも話せないことなんだろう。それほどつらかったんだろうな。
分かるぜそのつらさ。
「あ、でもロッキーさん達とはパーティー組んでたじゃないですか。大丈夫だったんですか」
カルマちゃんがそう言えばと口にする。
「いや、ロッキーさんは人間の国に入ったばかりの頃にとてもお世話になっていて、ボクの角のことも解った上っで受け入れてくれてたんですよ」
その割には角を誉めたカルマっちゃんには怯えていたな。
「なになに、そのロッキーて人ってもしかしてテクスチャのほの字の人」
「やだなぁ。トーン、ロッキーさんはそんな人じゃないっですよ。ありえません」
哀れロッキー、知らないところでdisられているぜ。
今頃どこかでくしゃみでもしてるんじゃないか?
「そのロッキーて人は違うとして、他に好きになった人とかいないの」
「ちょっと、トーン。なんでそんな話になるの」
「だって、テクスチャの恋バナとか気になるじゃない」
「恋バナって……」
「で、いたのそれともいるの」
惚れてたこと前提かよ。
「……うん実は」
チラリとこちらを見る。
あ、こいつガチでカルマちゃんに惚れてんのか。
デレるにしてもチョロすぎやしませんかね。
それとも俺様が壊れている間に何かあったんじゃないだろうな。
なんて、俺様が心配してる間にも。
「嬢ちゃん達、ベーカリーに着いたよ」
と、馬車の御者をしていたおっちゃんから声をかけられた。
それで馬車から降りてみると。
「うわ~~~~。」
そこはリーグの町とはまた違った活気に満ちている町だった。
門から入ったばかりの表通り。
そこにはそれはたくさんの人と竜車とお店があった。
それを見てカルマちゃんは感嘆の声を上げた。
「私はお店の方に寄るから。「朝露の小鹿亭」、テクスチャなら場所分かるよね。後で寄ってくれるかしら。リーダーもなんかお礼したいって言っていたし、店主に話を通せば何かと口利きしてくれそうだからね。待ってるよ」
そう言ってトーンを乗せた竜車は走って行った。
「それじゃぁ町を見て回りましょうか、ザック君」
「そうだな」
「テクスチャちゃんはどうするの」
「もちろん付いて行かせてもらいます。いいですよね」
「もちろん。むしろ案内を頼みたかったところだよ」
無邪気に笑うカルマちゃんに頼られて嬉しそうに顔を赤らめるテクスチャ。
だから、何がお前をそうさせた。
ことと次第じゃ俺様黙ってませんよ。
「それじゃあ最初に腹ごしらえとしましょう。付いて来てください。美味しいお店があるんです」
そう言ってテクスチャはカルマちゃんの手を握って走りだした。
「『閉店』しました」
という張り紙が張ってあった。
ひゅおおおおお~~~~~~~~~。
木枯らしが寒いぜ。
「ははは、久しぶりだからこんなこともありますよね。次行きましょう次」
「『閉店』しました」
「次」
「『閉店』しました」
「次こそは」
「『閉店』しました」
「次、次こそ必ず。」
「やめておけ。お前の体力が持たないぞ」
地面に膝をつき打ちひしがれるテクスチャに俺様が肩を叩いて慰めてやる。俺様手ないけど。
「うーん、何でテクスチャちゃんのおすすめのお店ばかり閉店してるんだろう」
閉店の張り紙を眺めながらカルマちゃんは唇に指をあてて呟く。
「く、くくく。これは陰謀ですよ。この町に金に魅入られた亡者が入り込み、ボクのおすすめのお店をことごとく嫌がらせをして閉店に追い込んだんだ。そうに違いない」
「何でお前の行きつけばかりなんだよ」
1人陰謀論を語るテクスチャに俺様がツッコミを入れている横で、カルマちゃんがテクスチャを煽る様なことを言う。
「たぶん、テクスチャちゃんの行きつけのお店には共通点があったんだよ。そしてそのお店ばかりが狙われた」
「そうか、そういうことなのか。さすがはカルマさん」
2人で盛り上がってるとこ悪いけど、俺様違うと思う。
だから答え合わせをサッサとしちゃうことをお勧めした。
「そりゃぁ、テクスチャの行きつけのお店はご年配の方ばかりだったから引退されたんだよ」
情報を聞きに行ったトーンからあっさりと答えが出て、崩れ折れるテクスチャだった。
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