第1話ー4

「それで、今から向かうベーカリーの町が2人の故郷なの」

 ベーカリーに向かう馬車の中、テクスチャとトーンにカルマちゃんが話を振った。

「あ、違いますよカルマさん」

 フードからわずかに顔を出したテクスチャがカルマに笑いながら言った。

「ベーカリーの町は人間族から魔法大国の町と認識されてますが、あそこはまだ入り口です。人間族との貿易の為に作られた町ですので人の出入りが激しく居つく人は限られてます」

「私とテクスチャはもっと南の人間族から魔法大国と言われる由縁になった街で育ったのよ」

 トーンもテクスチャの話に補足を入れる。

「星が落ちたってのはその街かな?」

 カルマちゃんが人差し指を顎に当てて上を向いて考える。

「私がその街に行っていいのかな」

「大丈夫ですよ。街自体は他国の人を拒絶してませんから」

「……うん、そうだね」

「ん?」

 カルマちゃんの疑問にトーンが答え、テクスチャがやや沈んだ声で相槌を打つ。


「ところで、この世界の人間と人族ってどう違うの?」

「え?この世界」

 カルマちゃんの疑問にトーンが反応する。

「私は遠い場所で生きていたんだけど、故郷が滅んでしまってこの地に1人でやって来たんです」

「え、1人で。ご家族は」

「元から失くしていましたので」

 トーンはカルマちゃんの話を聞いて驚いている。

 そりゃそうだ。

 12歳の少女が1人見知らぬ土地で生きていく心細さを憐れんでいるのだろう。

 だ~~が安心せい、カルマちゃんにはこのザクカリバーことザック様が居るんだよ。

「ところでその喋る武器は?」

「これはこっちに来て作った武器です」

 トーンの質問にカルマちゃんざっくりしすぎじゃぁないですかい。

 ザックだけに。

「カルマさんは寂しくないんですか。……その、家族がいないのは」

「慣れました。それに今はザックが居ます」

「俺様、カルマちゃんの武器にして家族にして友です。―――――よって、カルマちゃんは一人ぼっちじゃない。OK?」

 まぁ、俺様も決めゼリフっぽくざっくり行くんだけどね。

 ザックだけに。


「カルマさんボクと家族を作りましょう」

「おい、ちょっと待てよテメェ何カルマちゃん口説いてんだぁ。そんなの俺様許しませんぜぇ」

 俺様がテクスチャに突っ込んっでるいと。

「――――ハァ。分かったわそっちの事情は。――まぁテクスチャがそんなにぞっこんになてるのは気になるけど」

 トーンはため息をつきながらつぶやく。

「……カルマさんの故郷はどうでしたんですか」

「私の故郷、あそこは人間しかいなかったから」

「なるほどそうですか」

 トーンはため息をつきながら次の言葉を継げた。

「人間だから常に正しく優れていると思わないでください」

「ん?そんなの当り前じゃないですか。どうしたんですか」

「へ?いやそれが分かってるならいいんだけど」

「???」

 カルマちゃんはトーンの言葉にはてなマークを頭に浮かべている。

 まあ、多くのファンタジーモノなんかでは人間は自分たちを中心に世界が回ってると考え、それ以外の人型種族を亜人なんて呼んで蔑む描写が多い。

 トーンの反応からもこの世界の人間にそういうのが多いのだろう。


「まず人間てのは一番数が多いとされる人族です」

 トーンが説明をしてくれた。

「人間てのはその数にものを言わせて勢力を拡大している種族でもあるが、逆に人族の中では特徴が薄い種族でもある。なんて言うか平均的なんだ。――いや、まぁたまに化け物みたいに強いやつとかいるけど」

 まるで会ったことがあるかのように目を逸らすトーン。

「まぁ、そんなわけで人間たちは自分たちこそ人族の起源であり、それ以外の人族を亜人と呼んだりしているんです」

「ハイ、そこは亜人じゃなくってデミって言う方がいいと思います」

「は?デミ」

 途中でカルマちゃんが口をはさんでトーンが面食らっている。

 亜人、英語でデミヒューマン。

 そこから略称でデミにしたんだろうけど、差別的なのは変わらないぞ。

「そっちの方が可愛いと思います」

 はい、可愛いは正義。誰だおカルマちゃんの意見に反対してるやつは。

 あ、俺様か。

 てへぺろ。


「まぁ、呼び方はいいわ。ただ、人間は人間と違いのある種族を区別して差別する者もいるってところかしら」

「なるほど、だから最初に会た時のテクスチャちゃんはあんなにツンケンしてたんだ」

「そんなに?」

「うん、全然お話してくれなかったし、ローブのフードを取ったらすっごい怯えて逃げられちゃった」

「は?」

 カルマちゃんの言葉にトーンは眉をすくめて、テクスチャに詰め寄る。

 そしてトーンはテクスチャのフードを取り払う。

 緑色のくせっ毛とねじれた角があらわになる。

 トーンはその角を掴むとグイグイ揺らしながらテクスチャに訊ねた。

「あんた、もともと引っ込み思案だったけどそこまでじゃっなかたでしょう。何があったの。人間の町に行って何をされたのよ。ほら話しなさい」

「分かった、話す。話すから~~~。角から手を放して~~~」

 と、テクスチャはトーンに翻弄されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る