閑話 大人の階段

 大人の階段ってあるでしょう。

 あれにも段階ってやつがあると思う。

 例えば性の階段にしても手をつなぐとかキスをするとかそれ以上とかいろいろあると思うんだ。

 それと同じように私にも階段を上ることがあるんだよ。


 ハイ皆さん初めまして~~。

 今作でヒロインやってますカルマちゃんです。

 この閑話ではザック以外の視点でのお話を書いていこうという作者の企画から始まりまして、何でそんなメタな説明を私がしなきゃならないの。

 という訳で、第一回語り部に選ばれてしまったカルマちゃんです。

 自分で自分にちゃんを付けるのは正直恥ずかしいです。

 これでも魑魅魍魎が渦巻くエデンフィール大学院で院生やってただけあってすれているんですよ。

 カルマちゃんはあの頃は大変でした。

 教授たちが大学に泊まり込んでる私を見て、誰がお持ち帰り――――もとい、保護するかカルマちゃんそっちのけで争ってくれてましたからね。

 サークルにもたくさんお誘いがありました。

 皆さん下心が見え見えです。

 この大学にはロリコンしかいないのか!

 と思ったこともありましたが、大学の全員が集まってるわけじゃないんだから、私の周りにロリコンが集まっていただけだったのでした。


 まぁ、思春期にそんな環境にいたので初恋なんて夢のまた夢。

 漫画か研究に没頭するばかりの日々になるのも時間の問題でした。

 

 そんなある日でした。

 突然避難警報が発令されたのは。

 私はてっきり避難訓練の通知を忘れていただけだと思い気にしませんでしたが、その少し後に響く轟音。

 研究室は非常灯に切り替わり本当に危険な状態だと遅らせながらに気が付きました。

 外を見ると隕石が降って来ていて街は火の海になってしまっていたのです。

 私は急いで大学に設置されてた緊急用の次元脱出ポッドを使い避難したのです。

 最後に見た故郷の姿は巨大隕石が直激する瞬間でした。


 今思い返すとアレ、VRだったんじゃねぇ。って思います。

 たしか避難訓練で臨場感を出すために映画のワンシーンを使ったVRを流す案が出てたような気もします。

 だとしてもあれはないだろう。

 とは言え、脱出ポッドは試作品の片道切符。帰れません。

 漂着したこの世界で私は生きていかなければならないのです。

 とは言え、引きこもりにアウトドアとかムリゲーだったわけで、せめて旅のお供が欲しくなり脱出ポッドを改造して「ザックカリバー」通称ザックを創りました。


 これがまたナンパな陽キャ野郎みたいでムカつくのなんの。

 いっぺん解体してやった。

 まぁ、そのザックも付き合ってみればキャラが軽いだけで悪いやつでは無かった。

 まぁ、エロい目で私を見ようとして、私の体に落胆してたのはザマァ見ろと言ったところだが。


 そんなザックが壊れた。

 危険な魔物との戦いで試作段階だった魔力運用機構のオーバーロードによってザックは砕けてしまった。

 砕けたザックの欠片を一つ一つ大事に拾い集めて持ち帰りました。

 私は自分の腕をなおしてからザックの修理に取り掛かりました。

 それはとても孤独な戦いでした。

 何度も鳴るピーブー音、時にはパラリラパラリラしたりしました。

 そんなときに慰めてくれるのがザックだったはずなのに。

 寂しかった。

 私は久しぶりに寂しいと感じていました。

 どうかわたしを一人ぼっちにしないで。

 帰ってきてザック。


 そして、ようやく直ったザックはザックじゃないような真面目な喋り方をしてきました。

 ショックでした。

 ザックがザックじゃないことがこれほどつらいとは思いませんっでした。

 それ以上に、それがザックの演技だったのがショックでした。

 此畜生。



 と、話は戻って大人の階段の話ですよね。

 最初にしたのは性とか恋についてでしたけど、私が上がった大人の階段は――――お酒です。

 ザックの居ない一人寂しい夕食を取った後、ぶらりと街を歩いているときにある人の背中を見つけました。

 私はそれに付いて行って彼女が入ったお店に入ったのです。


「ねぇ、それがここだったの」

「そうですよ~」

 私は修理を終えたザックを連れて最近通っているお店に向かいました。

 ちょっと分かりづらい小さな扉をくぐって店内に入ります。

 店内はランタンの明かりが優しく灯る少し薄暗い趣です。

 私は迷わず何時ものカウンター席に座ります。

 カウンターは磨き込まれたオーク材の板で、その奥ではマスターがグラスを磨いています。

「マスター、いつもの」

「かしこまりました」

 マスターが渋い声で答えて、いつも私が飲んでるカクテルを用意してくれる。

「い……いつもの、それで通じるぐらいに通ているのか」

 ザックがわなないていると店内に1人の女性が入ってきて私の隣に座ります。

「マスター、私もいつもの」

 その人がこの店に来るきっかけになった人。

「こんばんわ、ライムさん」

「こんばんわ、カルマちゃん。ザック直ったの?」

「ハイおかげさまで」

「そう良かったわね」

 そう言って私たちはカクテルを飲みます。

「カルマちゃん、お酒は――」

「ザック、この世界に飲酒法はないわよ。あと、祝い事以外にも誰かを弔う時にもお酒を飲んだりするの。」

 私がそう言うと、コトリと誰もいない席にグラスが置かれお酒が注がれます。

「それは」

 ザックが訊ねるとマスターが答えます。

「ロッキーさんはいつもこちらを召し上がっていましたから」

「……おい、それって」

 私はまだザックにロッキーさんのことを伝えていません。

「あいつ、……あんなに良いやつだったのに――――


「ちわーす。がははは、マスターもう俺のお酒用意してくれてんの」

 そこにロッキーがお店に入ってきました。

「って、生きとるんやないか~~~い」

「はははははは、騙された~~~~~。さっきの仕返しだよ~~~~~~」

「お、おのれ~~~」

 私は声を出して笑います。

 ザックが居るから寂しくない。

 ザックが居ればさみしくなくなるようになった。

 寂しさを知り、寂しさを忘れられるのも大人の階段だと思います。


 ちなみに今飲んでるのはノンアルコールです。

 飲酒はもうちょっと大人になってからにします。

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