第7話ー7

「ところでカルマちゃん。左腕は大丈夫なの」

「うい?」

「いやさ、俺様が砕ける前にカルマちゃんの左手がちぎれちゃってたじゃないか。今使ってるのはスペアかなんか?」

 俺様の質問に可愛くおちょぼ口で首を傾げていたカルマちゃんが、ああ、あれか~~、と手を叩く。

「ちぎれて取れた方の腕をテクスチャちゃんが抱えて逃げてくれたから、あとで繋げられたよ」

「繋げたって、自分でか」

「うん」

「よくもまぁ、片手で出来たよね」

「へっへ~ん、私の体は私自身が一番分かってるからね。――でも、大丈夫ってわけじゃないんだよね」

「ん?どういうこと」

「今ある機材と資材では断面の壊れたパーツの修理が不完全なんだよ。」

「じゃあその腕」

 カルマちゃんは左腕を上下に上げ下げしながら笑って言う。

「見てくれは問題ないし、ないよりましというか日常生活には支障はないけど、戦闘では前より出力が落ちるし、精密性も下がっちゃってるんだよね」

 おかげでザックの修理の時変なところを繋げちゃったんだよね。と、笑ってくれとりますがこっちは笑えねぇ。

 俺様のどことどこを繋げちゃったの、ねぇ。

 と叫べば、大丈夫だよちゃんと元に戻したから、と返って来た。

 信じるぜカルマちゃん。


「それで、カルマちゃんの腕を元に戻すにはやっぱり――――」

「うん、13の希望、そのどれか一つでも回収する必要があるね」

 やはりそうか。

 そうなれば当初の目的通り13の希望を探す旅に出なければならない。

「なぁカルマちゃん。リーグの町にはロッキーやライムさん達やガッツたち弟子もいる。このままここに家でも建ててのんびりと暮らさないか」

 俺様がそう訊ねるとカルマちゃんはゆっくりと首を振る。

「ううん、ザックは言ってくれたよね」

「何をだ」

「私なら13の希望があればこの世界を支配できるって」

 あ~~~~~~、確かに言った。

 落ち込んで情緒が不安定気味だったカルマちゃんを慰めるためにそんなこと言った。

「まさかカルマちゃん本気にしたのか」

「本気にしたよ。ううん。本気になったよ。――この世界は魔力があるけど文明や技術はまだまだ未発達だよね」

「そうだな」

「それを私が世界征服して文明レベルを引き上げる」

「カルマちゃん、それはエゴだよ」

「そんなこと分かっているよ」

「この世界のことはこの世界の住人がどうにかすべきだと俺様は思う」

「私の故郷は滅びちゃったの。私はこの世界に漂着してこの世界で生きなくちゃならなくなった。ならばもうこの世界の住人だよ。だから私はこの世界をより良くしたい。たとえコレがエゴで、のちの歴史に魔王とか覇王とか貶されることになっても。私には力があり、知識がある。それを最大限に生かしたいの」

「他の皆に恨まれるかもしれない。仲の良かった奴らに憎まれるかもしれない。それでもか」

「私はやるよ。たとえ一人ぼっちになってもやり通して見せる。」

「そうか――――ならば俺様はそれに従うまでだよ。あと言っとくけど、俺様はカルマちゃんの武器で友達で家族だ。だから君は一人ぼっちにはならないよ」


 カルマちゃんは満面の笑みで俺様に笑いかけて来る。


「ありがとうザック」



 さて、善は急げと申しますが、俺様達がやろうとしていることは善意の押し付けだ。

 確信犯である。

 ならばサッサと旅に出るべきだと挨拶もそこそこにリーグの町から旅立った。

 向かうは南。

 魔法大国と呼ばれる人間じゃない人間が治めると言われる国へ向かう。

 理由は南から来た商人がその国に星が落ちた、という話を持って来たからだった。

 その星とは俺様達が探している究明ポットに接続されていた13個のコンテナ、通称13の希望と思われるからだ。

 それに加えて魔法大国というのがカルマちゃんの好奇心を刺激したからだ。

 魔力の性質や運用には少し精通し始めたカルマちゃんだが、やはり魔法には並々ならぬ興味を持っているようだ。


 俺様たちは小高い丘の上からリーグ町を振り返って眺めていた。

「工房は繁盛してるみたいだな。ここからでも煙の勢いが見て取れるぜ」

「へへへ、鉄の錬成で武具の他にもいろいろなものに鉄製品を使えるようになったし、それで輸出品なんかの発注がわんさか来てるんだって」

「ガッツの爺さん等忙しさで死んだりしないだろうな」

「大丈夫だよ。ガッツさんたちは若い人たちに教える立場に立つらしいから」

「なるほど、それなら安心だ」

 俺様達はまたここに帰って来た時どんな存在になっているのだろうか。

 期待と不安が入り混じった感慨を胸に俺様達は旅立つ。


「と、言ってる傍から魔物の群れだ。しかもカルマちゃんの大好きな――――」

「黒毛魔牛の群れだ~~~~~~」

 食い気味に突撃を始めるカルマちゃん。

 その口元にはよだれが垂れている。

 黒毛魔牛はそこらの冒険者ではソロで相手をするのが厳しい魔物だ。

 町に降りたら大変だ。

 だからここで仕留めて旅のお供カルマちゃんのごはんにしよう。

 魔力の運用を多少なりとも覚えたカルマちゃんの前に黒毛魔牛は敵では無かった。

 よりスマートでエッジの利いたデザインに仕上げられた俺様のハルバードがうなりを上げるたび黒毛魔牛たちが倒されていく。

「ステーキ、牛丼。しぐれ煮、ハンバーグ。」

 カルマちゃんは倒した黒毛魔牛の食べ方を叫びながら俺様を振るっていた。

 かく言う俺様は。

 そう言えばお米が残り少ないな。この世界でもお米ってあるのかな。あとハンバーグはオークの肉も欲しいな。

 なんて考えていたり。


 そんなこんなで俺様とカルマちゃんの13の希望を求めた旅が始まるのだ。

 タイトルはこうかな、


『ザック&カルマ‼~13の希望を求めて~』

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