第7話ー4

 だが、俺様達はこのダンジョンを舐めていた。


 それをこの後思い知ることになろうとは。



 日が落ちて夜のとばりが降り、皆で魔物への警戒を強めている頃、それでも現れない魔物に皆も少しリラックスし始めている中でのことだった。

「ねぇねぇ、テクスチャちゃん。魔力の使い方教えて~~」

「だぁぁぁぁぁ、ウザいくっ付くな」

 そうだぞカルマちゃん。

 幼いとはいえカルマちゃんも立派な女の子だ。

 それがたやすく男にくっ付くのはいただけない。

 それはそれとして――

「おう、ガキンチョ。カルマちゃんがウザいとか何言っとんじゃ。しばき倒すぞ」

「うっわ、保護者の方がウザいし。てか、お前腕無いだろ。どうしばくんだよ」

「んなもん気持ちじゃ気持ち」

 とか俺様がテクスチャに絡み始めると。

「こらザック駄目だよ。今大事な話してるんだから」

 ってカルマちゃんに怒られた。

「へっへ~ん、ざまぁ見やがれ」

 と、テクスチャはフードの奥から俺様を馬鹿にするように舌を出してからかてきやがる。

 此畜生。


「とは言っても、大事な話なんかしてないだろう」

「してるよ。魔力の使い方教えて」

 嫌がるテクスチャにカルマちゃんが絡みに行く。

「そもそもなんでボクなんだ」

「そんなのテクスチャちゃんが一番魔力の使い方が上手そうだからだよ」

「それならクリスだって上手いぞ。クリスに聞け」

「えっ、クリスちゃん。クリスちゃんはねっちこそうでヤダ」

「ヒドイ!」

 流れ玉を食らったクリスが悲鳴を上げていた。

「ボクからしたら君の方がねちっこいけど……」

「ぷーー」

「どうしたよ」

 テクスチャは突然目の前で頬を膨らませるカルマちゃんに若干引きながっら訊ねた。

「名前」

「――あ?」

「名前で呼んで。君、じゃなくて、カルマちゃんって呼んで」

「何でだよ。それならロッキーに言えよ」

「いいんだよ。ロッキーはオジサンだから」

「ヒデエ!」

 こっちも流れ弾に被弾したロッキーが悲鳴を上げる。

「何にしても嫌だね。君に教える意味が無いだろ」

「そんなことな――――テクスチャちゃん危ない」


 ドン!


 テクスチャは突然目の前にいたカルマちゃんから突き飛ばされてしりもちをついた。

「痛ったいなぁ~。なにするん――だよ?」

 突き飛ばされてしりもちをついたテクスチャはお腹の上に乗っかる重いものを見て目を丸くする。

 そして目線を上げれば――――


 自分をかばうように立つカルマちゃんの左手が、上腕の半ばからちぎれて無くなっているのが見えただろう。


 そして目線を戻せば自分の上にある一本の腕。

「――――――――っう、ナニコレ」

 吐き気をこらえるように口元を押さえたテクスチャがうめき、カルマちゃんがそれにちょっと困った笑顔で振り向いて答える。

「私の体、半分作り物なんだ。ごめんね気持ち悪い物見せちゃって」

「――――っ、そういう意味じゃ」

「そんなことより、敵襲だよ。早く立って応戦して」

 カルマちゃんの叫びに状況が分かったテクスチャは何かを言いかけたけどそれを飲み込んで立ち上がる。


 カルマちゃんの前にはカルマちゃんの腕を切り落とした骸骨の剣士。

 それも身の丈3mはある大物が立っていた。

「君は後ろに下がって治療を――」

 テクスチャは杖を構えて前に出ようとするけどカルマちゃんがそれを止める。

「私が前衛。テクスチャちゃんは後衛だよ」

「でも――」

「嬢ちゃん、下がれそうなら下がってくれ」

 ロッキーからもそう声がかけられるがカルマちゃんは頑として譲らない。

「そんな余裕ないように見えますよ。大丈夫。片手でも戦えます」

 俺様はハルバートから片手でも振り回しやすいように柄の長さを短くして臨戦態勢で居る。


 カルマちゃんの前にいる大物を中心に人並みサイズのガイコツ剣士が数十体、俺様達を囲むように立っている。

 こいつらは突然地面から生えるように現れた。

「不味いなコイツは撤退した方がよさそうだ」

 そうつぶやくロッキーはチラリと退路の方をうかがう。

「クリス、退路に思いきり神聖魔法をぶっ放せ。みんなはそのあいだに全力疾走」

「おい、クリスはどうすんだ」

 俺様が訊ねるとロッキーは。

「俺が担いでいく」

 そう答えたのだった。

「行くぞ、3,2,1,今だ」


 カッとまばゆい光の柱が立ち上がり、飲まれたガイコツ剣士たちが崩れていく。

 そうして開いた包囲の間を皆が駆け抜ける。

 しかしそれを許してくてないモノが居た。

「キシャァアアアアアア!」

 身の丈3mはあるあの大物のガイコツ剣士である。

 白いくすんだ色をして居る骨の上に、これまた傷だらけの鎧兜を装備した骸骨。

 そいつが逃げる皆の背中を切り裂かんと剣を振りかぶってきたのだ。


 ガキィィィィィン!


 それを受け止めたモノが居る。

 ソレはもちろんカルマちゃんだ。

 片手で斧状態の俺様を構えてガイコツ剣士の剣を受け得止めたのである。

 膂力では負けていない。

 むしろ、圧倒的体格差に片手というハンデを背負ってなお、カルマちゃんの方がパワーがあるみたいだ。

「どうやら殿しんがりは私みたいだね」

「へっへっへ、お供しますぜカルマちゃん」

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