第7話ー2

「リン、行きます」

 そう言ってリンは魔物に1人向かって行った。

 一応、ベテランのロッキーがフォローに入れるようにはしているが、リンの魔力量は25。

 魔力量18程度の雑魚には負けないだろう。


「てやぁああああ!」

 走りながら声を上げて魔物に斬りかかるリン。

 魔物はそのリンを相手として認識したのか、足を止めて手に持った盾で迎え撃つ。

 リンの攻撃は走る勢いを乗せた大振りの上段攻撃。これを腰を落として掲げた盾で受け止める魔物。

 カキーン!と金属同士がぶつかり合う音が響く。

 リンの攻撃を受け止めた魔物は盾でリンを押し返して、お返しとばかりに持っている剣で攻撃した。

 これをリンも自身の盾で受け止める。

 そしてリンは剣で突きをくりだした。

「新月螺旋光」

 リンが技名を叫びながら放った突きは魔物の胸に当たる。

 ドカッッ!

 リンの剣の切っ先から爆炎がほとばしる。

 ともすればそれは金属の鎧を砕くぐらいの勢いだっただろう。

 だが、


「なぁ~、あの魔物無傷だけど、どうなってんだ」

 俺様は爆炎の晴れた向こうに見えた結果に驚いた。

 魔力はリンの方が上で、加えて確かに魔物の胸にリンの攻撃は当たっていた。

「アレで無傷とかおかしいだろ」

「……魔力強度ですね」

「知っているのかカルマちゃん」

 カルマちゃんのつぶやきに俺様が問い返すと、答えたのはロッキーだった。

「それだけでなく属性もだ」

 お前には聞いてねぇーよ。

「魔力強度とは魔力の密度による物理抵抗、並びに各種魔力特性を生み出します。ゲームで言うと防御力と防御アビリティーのことです」

「ゲームが何なのかは分からないがそんな感じだ。そこに加えて属性の相性が重なる」

 カルマちゃんとロッキーが交互に解説を始める。

「魔力強度が高いと魔力による壁が生まれます。これを突破できないと本体にダメージを通せません」

「まして魔力の属性相性が悪いと、魔力の障壁を破るのは困難になる」

「魔力の属性不利では最悪一切の攻撃力を発揮しないこともあります。あれです無効というやつです。――一応幸いではありますが反射は確認できていません」

「その属性だが、リンの奴は火の属性だ。対して相手の魔物は水の属性。攻撃力は半減しているだろう」

「それってリンにとってはあいつはザコじゃないってことだろ」

 俺様の叫びにロッキーは腕を組んでうなずいた。

「そうだ」

「ならなんで行かせた」

「冒険者としてやっていくなら属性の相性は何処かしこにでもあるものだ。相性がいいから戦うというだけではいけないのだ」

「……相性が悪ければ戦わないってのが許されないのか」

「いいや。相性が悪ければ戦わずに逃げるというのも戦術だ」

「じゃぁなんで今戦わせているんだ」

 こんな語らいをしている間もリンは中身のないカラッポの鎧と剣を交えて戦っている。

「経験だよ」

「経験?」

「ピンチになれば俺達が助ける。しかし、弱い相手にも勝てないことがあるという経験が得られるだろ」

「なるほど」

「また、自分ではここで勝てないと判断して逃げてこれれば御の字である」

 三十六計逃げるに如かず、か。

 確かに逃げる判断ができるのは一つの才能なんだろう。


「でもねぇザック、その不利を覆して勝つことができるというのが出来ないといけないんだよ」

 カルマちゃんは笑いながらそう言った。

「いや、嬢ちゃんそれは高望みしすぎだ」

 ロッキーが肩を落としてうなる。

「魔力障壁を魔力なしの物理のみでぶち破るなんてことができる嬢ちゃんだからこそやれるだろうけど、普通はそんなことできないよ。だからパーティーを組んで魔物退治をするんだし、持ち前の属性以外にも属性魔法が使える魔術師は重宝される」

「ほよ。それなら黒毛魔牛を魔力なしで倒したロッキーさんも相当強いんじゃないですか」

 と、カルマちゃんからツッコミが入り、ロッキーはカルマちゃんから目を逸らす。

 そうだ。

 ロッキーと初めて会った時、こいつは黒毛魔牛を続けて二頭倒している。

 少し冒険をしてきた俺様達だから分かる。

 黒毛魔牛はそんなに安い肉じゃない。――じゃなかった、そんなに弱い魔物では無かったはずなのだ

 ロッキーは間違いなくリーグの町で頭一つ飛び出た強さの冒険者だ。

 そのロッキーが今回駆け出しのリンを連れてきているのは、そうだ、俺様達の時と一緒だ。駆け出しの冒険者たちに冒険のイロハを教えているんだろう。

 何故そうしているかは分からないが、今回もリンに実戦経験を積ませながらも間違いが起きないように実力のあるやつを集めたのだろう。

 カルマちゃんを誘ったのもそう言うことで、他の皆も同じようにロッキーに誘われたのかもしれない。

 そしてカルマちゃんが初めての仕事をした時もそうだったのかもしれない。


「タイムズ・フレイム」

 リンから出された言葉と共に、見れば魔物の足元から炎の渦が舞い上がりながら魔物の体に絡みついていく。

 ジュー、ジュー、と魔物の体からは蒸気と共に音が上がる。

「フーーーーーーーーー」

 リンは汗をかきながら魔物に向かって突き出した手をギュッと握り込む。

 すると炎はより強固に魔物を縛り上げて身動きを止める。

「――――――――――ッ、フーーーーーーーー」

 大きく息を吐きながらリンは片手剣を両手で握って頭上に振り上げる。

「――――ハァアアア!」

 一気に息を吸い込み、そして剣を頭上から足元まで振り下ろした。

「――――――――――――、ふ~~~~」

 リンがゆっくりと息を吐き出すと、炎に巻かれていた魔物が真っ二つになって崩れ倒れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る