第6話ー3

 本屋で待つことしばし、店員が何冊かの本を見繕ってカルマちゃんのもとへと持って来た。

 完全に貴族令嬢への扱いだ。

 実際はテント暮らしホームレスなんだけどな。

 で、肝心の本についてだが。

 はっきり言いきれないしょぼさのモノや、やたらマニアックな感じになてるものなどがある。

 そしてそのどれもが手書きであるのだ。

 魔物図鑑に対しての感想は完全に同人誌である。

 紙の質もばらばら、手書き故に字の質もばらばら、薄い装丁のモノからごっつい装丁のものまでいろいろ揃えてきている。

 カルマちゃんはそれをぱらぱらとめくっては次、またパラパラとめくっては次、と、繰り返していった。

 椅子に座って本をめくる姿は様になっている。

 カルマちゃんは10冊ほど見てみて、その中から3冊を取り出した。

「これとさっきの童話、それとこの世界の地図を下さい」

 店員は言われた通り地図を持って来た。

「これでいくらです」

「8リッチと9万ギャラになります」


 牛一頭で3万ギャラだったが100万ギャラで1リッチになる。そして1リッチがフルムーン金貨1枚になる。

 ちなみに10万ギャラでクレセント金貨1枚、1000ギャラで銀貨1枚、銅貨1枚が10ギャラ、1ギャラはほとんど使われないらしいがピースというチップであるらしい。

 てか、本一冊2万リッチ程するとか、普通に男性が満腹になるくらい食べて500ギャラほどだ。食事に換算すると400食分になる計算だ。

 大人でも本を読む機会の少ない世界なのだろう、ならば書く方も限られてくる。

 それでいて貴族などの金持ちはそのステータスの象徴として本はその価値を大きくしている。

 なので高価な代物として出回っているのだろう。


「ありがとうございました~」

 満面の笑顔を浮かべる店員に見送られながらカルマちゃんは店を後にする。

「また大枚をはたいたね」

 そう俺様が言うとカルマちゃんは。

「ザック君、知識は何より大事な武器になります。今回私が買った本は魔物の図鑑になります」

「うん、見てたから知ってるよ」

「では何でそれを買ったかは分かりますか」

「魔物とエンカウントしたときの対処法を学んでおくため」

「ぶ~~~。ハズレで~~す」

「えぇ?」

 まさかのハズレだった。

「いいですか、私は魔力というものが原子に似ていて分子みたいな繋がりをすることを突き止めました」

「そうだね」

「ならば次はサンプルでしょう。求める性質を魔物から学ぶんですよ」

「あぁ~~、そっちね」

 つまり襲われた時用じゃなくて、襲う為に図鑑を買ったんだ。

「ふふふ、面白い魔物を狩って狩っていろんなアイテムを作っちゃうぞ」

 そう言えば忘れかけてたけど、この人モンスターを狩るゲームが好きだったっけな。

 後多分アトリエ系も好きなんじゃないかな~~。と思ってみたり。


 そんな感じでルンルン気分でお買い物をしていたら。

「よう嬢ちゃん。ずいぶん気前がいいじゃねぇかよ~~~」

 カルマちゃんの前をふさぐように一人の粗雑な男が現れた。

 カルマちゃんから見たら大きな背丈で、逆光になっているので顔が陰に隠れて見えない。

「ちょ~~~と頼みごとがあるんだわ。悪いことは言わね~から顔貸してくんな」

 そいつはなれなれしく顔を近付けてきて、一方的に用件を伝えて来た。

 まるで覆いかぶさるかのようにカルマちゃんにその男の影が掛かる。

 しかも男の後ろにはまだ何人かの仲間がいた。

 どいつもこいつもニヤニヤ。

 中には怖い顔をしているやつも居た。

 そんな男たちにカルマちゃんは怯えることなく毅然と返す。

「…………いいですよ。

 なんてことはないただのロッキーとその仲間の冒険者たちだった。


「ありがとよ~~。嬢ちゃん。実はギルドからちょっとヤバ目の討伐任務をもらっちまったんだよ。そこで忙しいところ悪いんだけど嬢ちゃんの実力を見込んで助けてほしいんだよ」

「はい~。いいですよ。今からすぐですか」

「いや、嬢ちゃんの予定も聞きたかったから、まだすぐの出発じゃないけれど」

「ふ~む、向かう先は?」

「北の湿原地帯だよ。前にジャイアントやもリンを倒しただろ。あの後も調査した結果、どうやらあそこにダンジョンが出来ちまったせいで住処を追われた魔物が南下してきたりしてたみたいなんだ」

「なるほど、ダンジョンですか。私はダンジョンに入ったことないですけど大丈夫ですか」

「嬢ちゃん、ゴブリンロードを1人で倒したんだってな。なら実力は十分だよ」

「ならばお供させてください。ダンジョンとか興味ありますから。――あっ、でも準備がしたいので3日後でもいいですか」

「あぁ。もちろんだ。こっちも準備があるしな。3日後に改めて迎えに行くよ」

 そうして話はついたが、ザックの仲間たちの中で怖い顔していた男がザックを押しのけて前に出て来た。

「ファンです。握手してください」

 なんてことはない、タダのファンだった。怖い顔も緊張してただけらしい。

 しかし、すでにファンが付くくらいにカルマちゃんは冒険者として有名になってきているのか。

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