第6話ー2

 風呂を上がり、寝床への帰り道。

 現在カルマちゃんは工房の2階に寝泊まりしてる。(実際はグランピングキッドで。)距離的には湯冷めしない程度だが、今夜はゆっくり帰っている。

 だって、月がキレイだから。

「何でだろう、ここの月はエデンの月と同じに見える」

「それは錯覚だよカルマちゃん。俺様のデータではエデンの月と、この世界の月は違うものだって――――」

「う~~~~~~~」

「痛い、痛い。なんで叩くの」

 俺様は至極まっとうなことを言ったのに、何故か頬を膨らませたカルマちゃんから叩かれた。

「ザックは紳士力が低い」

「ナニその紳士力って」

「男が持ておくべきステータスだよ」

「すんません」

「それじゃあやり直し。――ゴホン。何でだろう、ここの月はエデンの月と同じに見える」

「それは錯覚だよカルマちゃん」


 ビシ!バシ!ビシ!


 何故か俺様はカルマちゃんに叩かれた。

「もう、そういうところ。ホント、そういうところだよ」

「ホントすみません」

「全然分かってないよね」

 なんとなく情緒的な意味だというのは分かる。

 けどねカルマちゃん。

「エデンには月は3つも浮かんでないよ」

「3つもあってお得だね」

「そもそも月というのは固有名詞だからあれらにはそれぞれ名前があるはずだよ」

「多分同姓同名なんだね」

「同姓同名って……」


 後日、ガッツに聞いてみたら。

「ありゃぁ月じゃよ」

「だってさ」

 ガッツの答えにカルマちゃんが勝ち誇ったように笑う。

「ふふふ、やっぱり月だったよね」

 俺様は負けじと翻訳機がそう訳したんだろうと思ったのだが、何ということか、普通にガッツは「ツキ。」と発音していた。

「ほら、やっぱり同姓同名のお月様なんだよ」

 なんでよりによって月なんだ。「the・Moon」でもいいじゃないか。

「ふふふ、そんなのただの負け惜しみだよ」

 そんなの分かっている。

 でも、だからこそ負けたままではいられない。

「爺さん、それでも月を区別するのに名前とかあるだろう。」

「それなら「第一の月」「第二の月」「第三の月」じゃが」

「もっとひねれやあああああああああああああああああああ!」

「それなら神様の目って言う例えもあるが」

「もういいです。俺様の負けです」

「うむ、そうか。何を勝負しとったかは分からんが、決着が付いたなら良い」

「へっへっへ、これでザックは紳士力が足りないことが決まりました」

「情緒が足りないのと紳士力が足りないのは別だと思うけど」

「同じで~す。女の子を楽しませられるかのステータスですから。ザック君精進したまえ」

 まぁ、確かに俺様はカルマちゃんに笑顔でいてもらいたいわけで、それならその紳士力というのも鍛えなくてはならないかもしれないな。

「そう言えば、月の神話なんかがあったりしたな。それじゃと三つ子だという話だったような」

「ほよ?」


 俺様とカルマちゃんは今本屋に来ている。

 ガッツの爺さんに聞いた話からこの世界の知識を得ようと決めたのだ。

「しかしこれは」

「うっわ~~~。キラキラしてる」

 俺様達がやって来た本屋はエデンなんかにある大衆向けの本屋などではなく、高級ブティックのようなセレブリティーな場所だった。

 場違い感が半端ない。

 扱ってるのも大量生産の文庫本じゃなくて、手書きの古書のようなモノばかりだった。


「お嬢ちゃんどうしたの。おもちゃ屋さんなら2つ先のお店だよ」

 目立つことなく、しかしできる女的な印象の店員がカルマちゃんに話しかけて来た。

「あ、私はおもちゃじゃなっくて本が欲しくて来たのです」

「あら、そうだったのね」

 店員は笑顔を崩すことなく、しかし困った風に言う。

「ここにお嬢ちゃんの読める本はないかもしれないわ」

 店員は顔には出さないけど、この世界の識字率が低いことを物語るようにカルマちゃんを文字の読めない子供として扱ってきた。

「大丈夫です。私これでも天才なので大体の文字は読めます」

「そうなの。じゃあこの本のタイトルは読める」

 店員は書棚から一冊の本を取り出してカルマちゃんに見せる。

「『三つ子の星の王子様』ですか。ちょうど興味があった奴です。それと魔物の図鑑があればそちらもください」

「失礼しました」

 カルマちゃんがサラリとタイトルを読んだことで店員の態度が変わる。

「それで、お客様のご予算のほどは?」

「フルムーン金貨を15枚ほど持ってきましたが」

「それではご要望のモノを見繕いますのでこちらの席におかけになってお待ちください。」

 カルマちゃんがお金を見せると手のひらを返したように好待遇になる書店員。

 まぁ、カルマちゃんが見せた額はこの世界じゃ家が建つほどの大金だ。

 それを本につぎ込もうなんてどこぞの貴族の令嬢かと勘違いでもしたのだろう。

 お茶なんかも用意してくれて至れり尽くせりだ。

 まあ気分がいいのでこのまま接待を受けよう。


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