第5話ー7

――――で、出来上がったのがこちらになります」

 おおぅ、と爺さん方から感嘆のため息が漏れる。

 これでも俺様は日本刀製作の詳しい話を聞いてても面白くない。

 だからこの辺りの話はスキップだ。

 ……別に カルマちゃんが他の武器に夢中になってるのが気にくわないわけじゃないぞ。

 単純に、俺様には必要にない話なだけだからな。

 ――――って、俺様誰に言い訳してるんだろう。


 という訳で日本刀は完成した。

「それじゃあさっそく試し切りをしよう。……誰かやりたい人」

「はい」

 カルマちゃんが訊ねるとボッチが勢いよく手を上げた。

「お、ボッチはそんなに刀が気に入ったか」

 俺様が訊ねるとボッチはそれは嬉しそうな顔をして答えた。

「ええ、……手が込んでいて美しいそして雄大さのある文様。……素晴らしいの一言です」

「ホントに気に入ったんだね。じゃあ、試し切りはボッチ君にやってもらいましょう。」

「……ありがとうございます」


 という訳で試し切りの為の的を用意した。

「あの、盾を斬るんだすか」

「うん?鎧の方が良かった」

 的を用意したカルマちゃんにガテンが質問をしてきた。

 それにカルマちゃんはあんな風に答えたが、多分違うよ。

「普通こういう時に斬るのは木の束とかですよね。思い切り真鍮の盾じゃないですか」

「それがどうしたの」

 カルマちゃんよ。この世界の人に金属を斬る鋼の概念はないんじゃないかな。

「魔力を使っだどしてもボッチの魔力じゃ刀が傷ついちゃうだす」

「大丈夫だよ、魔力を使わなくても斬れるから」

「マジだすか」

 驚くガテン達。

 それでもカルマちゃんはそのまま真鍮の盾を的として台の上に置く。

「それじゃあボッチ君、いってみよ~~~う」

 元気なカルマちゃんの掛け声とともに、ガチガチに緊張したボッチが的の前にやって来る。

 ボッチが刀を構える。

「こら~~、腰が引けてるぞ~~。しっかりと背筋を伸ばして」

「いいか。腕で叩きつけるんじゃなくて、重さを利用して振り下ろすんだ」

 カルマちゃんと俺様でボッチにアドバイスをする。

 ガッツとガテンの2人は何か祈る様にボッチを見ている。


「それじゃあ~、行きますね」

 刀を上段に構えたボッチが声を上げる。

「行け~~~~」

「いっきま~~~~す」

「やれ~~~~~」

「やりま~~~~す」

「いいからサッサと振り下ろせ~~~~」

 声を上げるばかりで全然動かないボッチに流石にイラッと来て、俺様は強めの口調で怒鳴った。

 そしてやっと刀を振り下ろした。

 って、あのバカ。刀を振り下ろすときにまぶたを閉じてやがる。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 振りを下ろされた刀はボッチがゆっくりと目を開けて見ると――――

「ぎゃああああああああああああああ」

 刀身が半ばから消えてなくなっていた。

 がたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがた。

 体の震えが止まらない。

 折れた。

 オレの下手な振り方のせいで、師匠やみんながあれほど時間をかけた刀が折れてしまった。

 オレが見ほれたあの美しい模様の浮かぶ切っ先は何処にも見えない。

「はは、ははははははははっはははーーーーーー」

 自分の無様さに笑いがこみあげて来た。

「落ち着け~~~~。ちゃんとよく見ろ~~~~~」

 そこでザックさんの声が聞こえた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「落ち着け~~~~。ちゃんとよく見ろ~~~~~」

 俺様は勘違いから気が動転しているボッチに声をかける。

「ボッチまず目の前の盾を見てみろ」

 そう声をかけたところでボッチが目の前の盾と台座を見る。

 何ら変わったところが内容だったそれらだが、――――ズリッと音を立てってボッチの目の前で真っ二つに割れたのだった。

「――――え?」

「いいか~、ボッチ。ゆっくりと刀を引っ張り上げるんだ」

 ボッチは呆けた目で俺様と盾と刀の間を行ったり来たりしていたが、俺様の言葉にうなずいてゆっくりと刀を引っぱる。

 すると、ズルリと地面から美しいままの刀身が現れたのである。

 ボッチはその刀身を引き抜くと頭上に掲げて仰ぎ見る。

 そこには折れることなく、曲がることなく、傷の無い刀身があった。

「はは……はははははは」

 ボッチは膝をついて刀の切れ味に笑っていった。

 ガッツとガテンの2人も呆けてそれを見ているしかなかった。



 それから数週間は刀の製造法を3人に叩き込むと同時にカルマちゃんの研究もおこなわれた。

 だがこの時点でカルマちゃんが造った刀の材料である鉄の製法を求めて弟子入りを求める者が現れていた。

 それらはギルドに登録して躱しながら、おまけとしてコイルを創って電気の概念を教えたりもしていた。

 これだけでも発明者の称号は配布されたのだが、カルマちゃんはさらにジェラルミンの製法をギルドに登録したのだ。

 その性能はカルマちゃんが研究の合間に作ったモノを売って話題を得ていた。

 ジェラルミンの説明をするなら簡単だ。

 カルマちゃんがクリの村で手に入れたボーキサイトを使って精製したアルミニウムを使って作る金属である。

 鉄の3分の1の重さで鉄並みの強度を持つこれは鍛冶業界に革命をもたらすほどだった。

 1か月ちょっとでカルマっちゃんの名前が有名になったのは言うまでもない。

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