第5話ー6

 刀身が完成した。

 反りは深めで身幅は厚め、棟の肉は厚めでも平地は深く刃自体は鋭い。心なし身重な出来栄えの太刀だった。

 そこに大のたれの刃紋が浮かぶさまは雄大な山稜を眺めるがごとし、にえの沸きたちも濃いものであった。

 意味が分からない人は調べて見てね。

 簡単に言うと日本刀の中でも大ぶりで豪壮、大柄な人が使うのに適した一品だった。


「これ完成ですか」

 数日に及ぶ仕事に、見てただけのガッツですら疲弊してそう訊ねて来た。

「本来ならここから別の職人の手に渡して、刀装といういくつかの装飾品などを作ってもらうんだけど。――――ここにはいないから私がやるね」

「カルマちゃんちょっと休もうか」

 そこに俺様が口をはさんだ。

「ほよ?」

「んだんだ」

「すまないカルマちゃん。ワシらも仕事があるからここら辺にして後日にしよう。その間に休んでくれたまえ」

 というガッツの方便でカルマちゃんを説得しに行った。

「でも、皆も今から仕事だよね」

「ワシらも休むからね。ちゃんと休むからカルマちゃんもちゃんと休んでね」

 そう言って3人は工房を離れて行く。


「予想以上に工程が厳しいな」

「んだんだ」

「ぶつぶつぶつぶつ」

「しかしあの剣は素晴らしい、あれを自分の手でも作りたいもんじゃ」

「ワッシはザックみたいなバトルアックスもやりたいだ」

 俺様のセンサーがとらえた3人の会話から悪印象は感じられない。

「ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ」

 すでに刀に取り憑かれた奴が1人いるようだが、まぁ妖刀とかは創るまい。

「それじゃぁこっちも休もうか」

「さて、それじゃぁ魔力の研究でもしようかな」

 とかほざいてる金髪ツインテールの少女。

 俺様が怒って風呂に入れさせてベットに入ってもらった。

「ぶぅ~~~」

 ぶぅたれてもだめです。

 休め。


 さて後日、

 研究をしようとするカルマちゃんを叱って休ませたことで元気いっぱい。

「さぁ、今日は刀装具を造るよ~~」

 元気いっぱいにこぶしを突き上げてそう宣言するカルマちゃん。

「「「お~~~~」」」

 それに答える爺様たち3人もちゃんと休んだようで元気がいい。

 特にボッチは今か今かとワクワクしている。獣人だったら今頃尻尾をぶんぶん降っている犬みたいな状態だ。

「刀装具はいくつかのパーツから成り立ちますが、これらは私の故郷では一つ一つ職人の手で作られる芸術品にもなります。ですが今回は初回ですので巻きで行きます」

「マキ?」

 カルマちゃんのセリフに爺様が疑問を浮かべる。

「時間短縮の為、細かい装飾は省いて基本の構造のみの実用品仕様にします」

「ここに来るまででも十分にきつかったがのぉ」

「んだんだ」

「……実用品」

「ん、どうしたボッチ。手抜きでがっかりか」

 テンションの下がったボッチに俺様が声をかけると。

「……いえ、そうではなく。……改めて俺達が造るのは敵を斬る武器なんだということを思い出しまして」

「なんだ、武器を創るのが嫌なのか」

「……嫌ではありません。……ただ、……前にオレが造った武器で盗賊がある家族を殺したことがありまして」

「それは――――」

「……分かっています。……皆さんにも言われました」

「そうか。それでも俺様も言っておく。お前も、お前の造った武器も悪くない。悪いのは手を下した盗賊だ」

「……ありがとうございます。……オレも気持ちではわかってます。……できればオレの造った武器は平和のために活きてほしいです」


「おやおや~、ザック君とボッチ君の仲が急接近ですかな」

「なっ」

 ニヤニヤ~とカルマちゃんが見下ろしてきた。

 まぁ、俺様はカルマちゃんの胸にぶら下がってるわけだしボッチとの会話は丸聞こえだろうけど、そこは気を利かせてよ。

「ははは、あの引っ込み思案のボッチに友人ができるのはめでたい」

 と、ガッツの爺さんも笑っていやがる。

「ってそこ~~、ボッチも顔を赤らめるな~~~」

「……すみません。……こんな風にからかわれるのも新鮮なものなので」

 カルマちゃんはニヤニヤと俺様達を見比べて。

「う~む、これははかどりますな」

「何が!」

「やっぱりザックは強気受け――」

「腐った文化まで異世界に持ち込まないで」


「さて、話は戻して刀装の話をしよう」

 ここからまた少し真面目なお話です。

「まずは刀装をこしらえるのに刀身の方に手を加えます。手を加えるのはなかごという手で握る柄に差し込む部分のことです。」

 と先日造った刀の刀身を持ち出す。

「ここから端の刃がついてない部分ね。」

 長さにして1尺、約30cmである。刃渡りは2尺3寸、約70㎝で、合わせて刀身は1メートルくらいになるだろう。

 これは日本刀なら打ち刀と呼ばれる部類の実戦向きな長さである。

「この何も手を加えてない状態を「生茎うぶなかご」と呼びます。でもこのままだと柄に入れても不安定なので、この茎に目抜き穴と呼ぶ穴を、――う~んと、これなら2つかな、開けます。あとで説明しますがこの穴が刀身を固定するのにつかわれます」

 そう説明しながら鉄の杭を金槌でこんこんとやって穴をあける。

 本来なら万能工具でするところだがここは爺様たちのできる技術でやって見せているのだ。

「そして最初は柄と鞘を造りますが、鞘も柄も2つに割った木の中をくりぬいてそれから糊付けします。」

「革製では無くて木製なのですね」

「そうですね。実戦ではこっちの方が抜きやすいんですよ。」

 カルマちゃん、そんな知識何処で手に入れたの?

「続きまして――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る