第4話ー6

 ゴブリンの群れを殲滅した俺様達の最後の仕事は、ゴブリンの巣のコアの破壊である。

 これを放置すればまたゴブリンが湧いてきて、さらにはダンジョンとなってしまうらしいのだ。

 巣のコアは2mくらいの高さがある紫色のもやを纏う岩石であった。

 今回は岩石だったが、親切なロッキーが教えてくれたことによれば、植物だったり、人の死体が穢れて魔物を生み出すことがあるらしい。

 そしてそれらの魔物の穢れに当てられて野生の動物が魔物化することもあるらしいが、黒毛魔牛みたいに生物として巣などを持たずに繁殖してるモノも少なくないらしい。ので、この世界の魔物の定義はそれほどはっきりしていなさそうだ。


「それじゃあぶっ壊すよ~~。せ~~~の~~~~」

 ドッカ~~~~~~ン!と俺様を大きく振り上げてコアに振り下ろしたことで、コアはバラバラに砕けた。

 砕けた石からは紫色のもやが散って行く。――――一欠けらを除いて。

「およよ。なんか一個だけもやが出たまんまだね」

「さらに砕けばいいんじゃないか」

「う~ん、いや、やっぱり持って帰る」

 そう言ってカルマちゃんはその石を容器に入れてポケットにしまい込んでしまった。

「ちょいちょいちょい、穢れたモノを町に持ち込むなってロッキーが言ってただろ」

「ダイジョーブ、私のラボからは出さないから」

 カルマちゃんの言うラボとは、カルマちゃんが寝泊まりしているグランピングキッドの倉庫を改造したものだ。

 そしてグランピングキッドそのものが亜空間を利用したもので、こっちの世界の人からしたら異界そのものと言える。

 だから町中じゃない。と、言いたいのだろう。

「カルマちゃん、ソレは詭弁……」

「ふんふ~ふ~ん」

 駄目だ。

 好奇心に火のついたマッドサイエンティストカルマちゃんには俺様の声が届かないようだ。


 その後、ゴブリンの巣の破壊を村人に伝え確認をしてもらう。

 村人はゴブリンロードが生まれたことを伝えても半信半疑だったが、証拠として切り落とした首を見せたら驚いていた。

 それはそれは見事に目を背けられるほどに驚いていたものだ。

 そしてすごく感謝をされた。

 もし、あのままだったら坑道はダンジョンと化してクリの村は魔物に脅かされて廃墟になっていただろうと。

「いやいや、仕事として当然のことをしたまでですよ」

 と、のほほんと返すカルマちゃん。

 そんなカルマちゃんに何かお礼がしたいと言ってくれる村人たち。

 それにカルマちゃんは「それじゃあここで採れる鉱石を調べさせて」と言い出した。

 最初いぶかしがっていた村人だったがカルマちゃんが鉱石を調べ始めてからはそんな疑念を払しょくしていた。

 カルマちゃんは掘り出されたばかりのまぜこぜになっている鉱石から有用なものをどんどん仕分けていくからである。

 その中からいくつかを買い取ることにして一晩村で休んでからリーグの町へ帰ったのだった。



「ただいまで~す」

 元気よくギルド協会の扉を開いてカルマちゃんが挨拶する。

 その溌溂さに中にいた多くの人がカルマちゃんに注目する。そのままカルマちゃんに注目する者はおらず、皆すぐに自分の元の目的に戻っていく。

 カルマちゃんも気にせずに報酬受け取りのカウンターに向かう。

「すみませーん。クエストの報告に来ました~」

「はーい。あら、ちょっと待ってね」

 カルマちゃんが受付の人に話しかけるとその人はカルマちゃんを見てからそう言って奥に消えていった。

「なんだ?」

「さぁ?」

 と俺様達が首を傾げていると奥から代わりの人が出て来た。

「お帰りなさいカルマちゃん」

「あっ、ライムさん」

 奥から出てきたのは仕事を紹介してくれたお姉さんだった。

「無事に帰ってこれたようでよかったわ。一人で行くなんて無茶だと思ったのだけど」

「へへへ、ご心配おかけしました」

「で、無事に仕事はこなせたのよね」

「はい、これが村の人の確認証と討伐記録です」

 カルマちゃんはそう言って冒険者カードを差し出す。

「どれどれ。うん、サインは村長さんのモノね。うんうん、うん、う……ん?」

 カルマちゃんの冒険者カードを笑顔で確認していたお姉さんの顔が少しずつ曇り始めた。

「なに、この討伐数――――」

「ん?」

「スライム1体、ゴブリン132体、ホブゴブリン28体、ゴブリンメイジが19体、――それに加えてゴブリンロードですって!」


 ザワザワザワ。


 お姉さんの叫びでまたしても建物中から注目を集めることになったカルマちゃん。

「カルマちゃん、ホントに1人だったの」

「ザックが一緒でした」

「ソレは1人と変わらないわよ」

 お姉さんは驚きで笑顔が崩れて目をかっぴらいている。

「行きがけにも闇の魔物を1人で倒したって聞いてたけどこれはないでしょ。この規模だとC級冒険者20人からのパーティ-で攻略するモノじゃない」

 と叫ぶお姉さんだが、

「その仕事を寄こしたのはギルドそっちだろ」

「そうだけど!」

 俺様のツッコミにお姉さんは叫びながら天井を仰ぐ。

「こんなはずじゃなかったのよ」

 お姉さんが落ち着くまでしばし時間を要した。

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