第4話ー5

 ゴブリンロードが降り上げたこん棒は容赦なく振り下ろされた。

 その棍棒はやすやすと地面をたたき砕いて、途中にあったものを粉砕する。

 ただし――途中にモノがあればだが。


 俺様達は高速で移動してゴブリンロードの背後を取る。

 巨体を誇るゴブリンロードと違い小柄なカルマちゃんの方が瞬発力に優れているのだ。

 背後からゴブリンロードに横薙ぎに斬りかかる。


 ガキィィィィィィィィン。


 しかし俺様はゴブリンロードが肩に担ぐようにして後ろに回した棍棒に遮られた。

「ぐるるるるるるるる。」

 わずかに振り返るゴブリンロード。

 その怒りに歪む醜い顔では赤い目がらんらんと光っている。

 しかしその瞳には確かな知性の光も感じられた。

「ゴアアアアアアアアアア。」

 体を捻り振り返るゴブリンロードはその勢いを利用して俺様をはじいて、返す刀で、いや、返す棍棒でカルマちゃんに殴りかかった。


 ドガアアアアアアアン。


 しかしその棍棒はカルマちゃんに届きはしたがカルマちゃんを砕くことはできなかった。

 弾かれた俺様から離した片方の手を握り締めてこぶしで迎撃したのだ。

「ふっふっふ、固いのはそっちだけじゃないんだからね」

 そう不敵に笑って見せるが額からは一滴汗が垂れている。

「ガアアアアアアアアアアア」

 ゴブリンロードの追撃をカルマちゃんはバックステップで回避して距離を取る。


「カルマちゃん、手は大丈夫」

 俺様の問いにカルマちゃんは手をひらひらさせながら答える。

「大丈夫大丈夫。鉄筋コンクリートを殴って砕けるくらいの強度だよ」

 あっ、これはカルマちゃんが勝手に改造した奴だな。

 普通ならそんな危ない義肢を一般では使えないはずだ。

 まぁ、おかげでこうして異世界でモンスターと戦えているわけだけど。

「しかし、魔力っていうのはなかなか厄介だよね。こうまで強度を上げるなんて」

「流石にこのレベルはそうはいないんじゃないかな。それに倒し方もあると思う」

「だね。でないとこの世界の人はみんなゴブリンにやられちゃってるよ」

 そうだ。だから何らかの弱点があるはずなんだ。

「とりあえず速さで翻弄して色々試そう」


 そうしてカルマちゃんはゴブリンロードの周りをまわりながら、隙を突いて死角から攻撃を行う。

 しかし何度やってもゴブリンロードは棍棒で受け止めてくる。

 このゴブリンロード、見た目の野蛮さに反してなかなかの手練れだ。

 生まれたばかりとは思えない棍棒さばきを見せる。

「う~ん、仁王とかSKIROUの強敵を相手してる気分だよ」

 俺様はやったことが無いけど難しいゲームだったはず、そんなのと比べるほどですか。

 そう思うけどゴブリンロードの守りは堅実で隙が少ない。反応もいいうえに反撃も手堅く行ってくる。

 速さだけではこいつは倒せない。


「ザック、フォトンブレード」

 カルマちゃんの指示で俺様は闇の魔物を切り裂いた光の刃を形成する。

 闇の魔物はこれでやすやすと魔力の壁を突破できた。

 これならどうだ――――

 しかし、光を纏った俺様でも棍棒を切り裂くことはできなかった。

「まだまだ次は高周波振動ブレード」

 これも通らない。

「ならば次」

 その次もその次も、なかなか手ごたえが無かった。

 ゴブリンロードもこちらに決定打を見いだせずにいたためお互いに同じことの繰り返しをしているようだった。


「グオオォォォォォォ!」

 そんな中変化があった。

「ザック、今の嫌がってたよ。」

「あぁ、棍棒で防ぐよりも避けようとしていた。」

 つまり棍棒で受けるとまずい攻撃だったということだ。

「ならば出力を上げて畳みかけるよ。」

「よっしゃぁ~。」

 俺様の体、その刃の部分が赤くなっていく。

 熱を持ち次第に炎が立ち上がり始めた。

 ヒートアックス。

 高温の刃で対象を焼き切る機能だ。

 俺様の刃が炎を纏うと同時にカルマちゃんの手足にも変化が出る。

 滑らかだった肌は銀色の鉄の体に変化しているのだ。

 そして関節やつなぎ目には赤い光が灯る。

「火属性モード、これで一気に決めるよ」

 自ら発する熱に空気が暖められて、立ち昇る熱気にカルマちゃんの髪が浮き上がり、キメ顔がすっごく決まっていた。


 ぶぅん!


 振り抜かれた俺様をゴブリンロードは避けきれないとみて棍棒で受け止めた。

 ザジュウウウウウウ!

 と音を立てて棍棒に斬り目が入る。

 切り口は高温で黒く焦げている。

「よし、炎が通るぞ」

「焼き肉にしてやるぞ~」

「この温度じゃ消し炭だよ」

 突破口を見つけた俺様たちは有利なリーチをキープしながら確実にゴブリンロードを追い詰めていく。

 そして遂にゴブリンロードの持つ棍棒が火を上げて燃え落ちた。


「ぐるるるるるるるるるるるるるるる。」

 武器を失っても戦意を失わないゴブリンロードは最後の抵抗とばかりに体当たりのように体格差で押しつぶそうと突っ込んできた。

 カルマちゃんはそのゴブリンロードの頭を鷲掴みにして、情け無用と一閃、首を撥ねたのだった。

 切り口からは緑色の血が噴き出してきて、首を失ったゴブリンロードの体が地面に倒れる。

 もはやゴブリンはいない。

 残るは巣の破壊でこの仕事は終わりだ。

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