第3話ー6

「そうだ、ロッキーさんに聞きたいことが」

 カルマちゃんはどこぞの空飛ぶ海賊の肝っ玉母ちゃんのように、大きな魚の姿煮の尻尾を摘まんで持ち上げてから頭から丸吞みにする。

「……器用だな」

 ロッキーがそういうだけあるほど見事に、魚をもぐもぐしたカルマちゃんはキレイに骨だけを口から引きずり出す。

「ん???これですか。サクランボのへたを結ぶより簡単ですよ」

「あん?サクランボのへた?」

「カルマちゃん。男にそういう話をしない」

 あと、食べ方がはしたない。

 豪快な食べ方は見ててキモチガイイが、流石に女の子がするべき食べ方ではないと思う。

 かといって、俺様では止められそうには無いけど。


「それで聞きたい事ってのは?」

「モグモグ、はい、さっき魔物に襲われていた人たちを助けたって言ったじゃないですか」

 言ったけ?

「あぁ、言ったな」

 かくかくしかじかとしか言ってなかったような気がするけど通じてるし。

 なに、翻訳機の機能はそんなことまで省略して伝える機能があるのか。

 「アレ」とか「それ」で通じちゃう翻訳機ってすごくない?


「その時倒した魔物がドロリと解けて消えちゃったんですよ。あれって捕まえたりできないんですか」

 というカルマちゃんのセリフにロッキーの顔が若干引いていた。

「嬢ちゃんの言うやつは多分闇の魔物だろ」

「キャラバンの人もそんなこと言ってました」

「だったら闇の魔物だろうな。だったらあきらめろ。アレは捕まえたりするのは無理だ」

「そうなんですか」

 カルマちゃんはしゅんと落ち込んでしまった。

「なに、落ち込むことはないぞカルマちゃん」

「ザック?」

「他の人には無理でも天才のカルマちゃんなら無理と言われても可能にしてしまえるはずだ」

「――ザック」

「おいおい、ザック君の信頼がすごすぎるだろ」

「そうだよね。誰かができなくても私が可能にすればいいんだよね」

「そうだよ。その通りだ。まずは掃除機を試してみようぜ」

「うん。任せて。吸引力の変わらない掃除機を作って見せるよ」

「そうだその意気だ」

 俺様の言葉でやる気を出したカルマちゃんはもう何かを作りたくてワクワクしているようだ。


「まあ、お2人のやる気に水を差す気はないのだが一応言っておくぞ、闇の魔物は戦場跡などで生まれることが多いという――」

「なるほど、戦場跡ですね。ありがとう。ロッキーさん」

「行けという意味じゃないぞ。そうじゃなくて、闇の魔物は強い穢れから生まれるから周囲に穢れを振りまくんだ、だからホントに捕まえられたとしても町中に持ってくるのは避けた方がいいぞ」

 と、結構まじめな忠告だった。

「分かりました。捕まえたら町の外で実験します」

「嬢ちゃんは怖いもの知らずだな」

 そこでピクッとカルマちゃんの動きが止まった。

「どうした?」

「何でもないですよ」

 そう言って笑顔でごまかすカルマちゃん。

 いや、カルマちゃんに怖いものが無いなんてありえないだろう。

 なんて言ったって体の半分を失う事故で両親を亡くしているのだ。

 そして、話す相手がいないからと俺様を創ったカルマちゃんが、怖いもの知らずなんてありえない。

 カルマちゃんにはいつも俺様がいるけど、それのおかげで元気になってったのだと思う。

 カルマちゃん、俺様はいつも一緒だよ。


「それで、ゴブリン退治はいいのか?」

 ロッキーが俺様達の受けた依頼について心配をしていた。

 まぁ、のんびりと飯を食ってたら気にはなるだろう。

「それなら大丈夫だ。カルマちゃんが助けたキャラバンは目的の村とこの街を行き来する行商でな、ギルドに依頼を持ってきたのも彼等だったんだ」

 俺様がそう説明したやっていたらカルマちゃんも乗っかって来る。

 うん。

 文字どうり身を乗り出したことでカルマちゃんの胸にぶら下がっていた俺様は、テーブルとカルマちゃんの胸に挟まれる感じで乗っかられた。

 役得役得。

「あのね、明日向こうに帰る時に一緒に乗って行こうって言ってくれたんだ」

 カルマちゃんは嬉しそうに行商の人達の親切に喜んでいるけど、彼等はきっとタダで護衛が付いて来てくれることに喜んでいることだろう。

 ……まぁ、俺様空気が読める武器だから余計なことは言わないけどね。

「そっか、それなら安心だな」

 ロッキーも何かを察したのか優しい目で見守って来る。

「それなら今日は暇なんだよな」

「そうだよ」

「ちょっ、カルマちゃん。」

 そんなあっさり男の誘いの答えるなよ。

 この後に続くのは決まって――――

「それじゃあこの後付き合ってくれよ」

 ほらこうなるだろう。

「いいですよ」

 カルマちゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん。


「それで付き合ってほしいていうのはここですか」

「そうだ、なかなか立派だと思うけど」

 ロッキーがカルマちゃんを連れ込んだのは町のはずれにある雑然とした区画だった。

 そこかしこにいろんな道具や人が転がっている。

 だれもが汚れた服で中には昼間にもかかわらず泥酔してるものが居る。

 明らかに治安のよくない場所であった。

 その界隈の道を迷わずに進んで行くロッキー。

 その後をカルマちゃんはのんびりと付いて行く。

「よう爺さん、元気か?」

 ロッキーは一軒の家屋に遠慮なしに入っていく。カルマちゃんもその後に付いて行く。

「何じゃ、そのガキは。ここは遊び場じゃねぇぞ」

 奥にいたやたらこわもての爺さんに怒鳴られた。

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