第3話ー5

 とあるゲームに、プレイヤーの何倍もの巨体を誇るモンスターを大きな武器を振り回して狩るものがあった。

 まさにそれである。

 140㎝ほどの身長の女の子が2mほどの武器を振り回して、何倍もの大きさのある魔物に襲い掛かっている。

 そうだ。

 女の子の方が魔物に襲い掛かっているとしか見えない一方的な暴力だった。

 女の子は何を隠そう俺様の主のカルマちゃん。

 無邪気で可愛らしい女の子。

 今は正義の味方になって、人を襲う悪い魔物を退治するところである。

「ごめんね。これも弱肉強食なんだ」

「え⁉この異形まで食べるつもり」

 俺様は驚いてツッコンでしまった。

 どうやらカルマちゃんは理不尽な正義ではなく、容赦のない捕食者だったようだ。


 とはいえ、魔物も無抵抗で襲われるだけではない。

 その体格差を活かして押しつぶさんと襲い掛かって来る。

 しかしそれは敵わなかった。

 ゴゥン!

 カルマちゃんの蹴りが下から魔物を打ち上げたからである。

 魔物の体表は大型トラックのタイヤのような強度を持っていて、かつ重量も数百キロはあるはずだった。

 まともな人間だったら足が折れるほどの衝撃。

 それをカルマちゃんはやすやすと蹴り抜く。

 エデンの科学技術で作られた人工骨格と人工筋肉の足は、ファンタジーの世界においての生物の有利不利を軽く覆して、一方的に力を押し通すほどだった。


 カルマちゃんに蹴り上げられた魔物は宙でもがき何本もの腕を伸ばすが、それをカルマちゃんが俺様で斬り捨てる。

 腕を失った魔物は受け身もとれぬまま地面に転がる。

 今度はカルマちゃんが飛び上がり、魔物の上に降り立つと俺様を滅多やたらと振り回し止めを刺そうとする。

 異形ゆえにどこが急所か分からないが、頭部らしきものを狙っているのだが。

「えぇい、しぶとい」

「うわ~ん。なんだか私がいじめてるみたいだよ」

 まだ抵抗を続ける魔物が頭部への直撃を避けるのだ。

 その為カルマちゃんは魔物の上に乗って、足蹴にした魔物に何度も何度も、ほんと~に何度も俺様を振り下ろすことになった。


 何度目か数えるのを放棄していた攻撃がやっと魔物の頭部に当たった。

「ギャアアアピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」

 不快な断末魔の声を上げて魔物は息絶えて――――溶けた。

「わああああ、なになに、なんで」

 慌てて魔物の体を採取しようとするカルマちゃんだったが、残念ながら欠片も手に入れることはできずに、溶けた魔物が地面に消えていくのを見送るしかなかった。

「うええええん。サンプル手に入らなかったよおおおお」

「ドンマイ。次に出会った時に備えて対策を考えておこう」

 魔物は切り落とした腕も残っていなかった。

「次は必ず手に入れる」


「す……すごい!闇の魔物を1人で倒してしまったぞ」

 カルマちゃんがサンプルをゲットできずに嘆いていると、先ほど襲われていた人たちが魔物の討伐を確認して戻って来た。

「どこの勇者様かは存じ上げませんが、危ないところ助けていただきありがとうございます」

 襲われていた人たちの中からリーダー格の男が代表してお礼を言いに来た。

「怪我とかはないですか」

「はい、幸いにもみんな無事です」

「良かったです」

 心配するカルマちゃんに無事を伝える男、それを笑顔で喜ぶカルマちゃん。


「しかし、荷車がひっくり返ってしまい我々だけでは戻すのも大変で……、すみません。お礼が出来そうも――――」

「あっ、これは大変ですね」

 ひょい。

「――――はっ?」

 男の言葉にうなずいたカルマちゃんが軽々と荷車を片手で持ち上げて元に戻す。

 それをポカンと口を開けて見つめるキャラバンの皆。

「これで大丈夫ですよね」

 さっき、チラリと荷車の中を見たけど、鉱石が満載されてたから相当に重いはず。

 現にさっきの魔物だってひっくり返すだけで吹っ飛ばしたりした形跡がなかった。

 カルマちゃんの力はこの世界の人からしたら相当に規格外なのだろう。

 だって、キャラバンの人達の顔が「アラレちゃん」に出てくる人みたいな顔になっていたから。


「なぁ、カルマちゃん。この人たちを町まで護衛してあげようよ」

「ん?ザックが良いなら……」

「どうした。なんか歯切れが悪いじゃないか」

「いや、ザックは先を急ぎたがるかと思っちゃって」

「俺様人でなしだと思われてた。いや、実際人じゃないけど。けど、これでも脱出ポッドなんだから人命第一ですよ」

「おぉ~う、そうでした」

 喋り方かな。

 キャラが軽薄すぎるのかな。

 俺様ショック。

 カルマちゃんからどういう風に見られていたかを知ってしまってちょっと落ち込んでしまう俺様だった。



「お?どうしたんだ嬢ちゃん。鉱山の村に行ったんじゃないのか」

 キャラバンを護衛してリーグの町に戻ってきてから、ギルド協会の食堂でご飯を食べていたカルマちゃんに話しかけるモノが居た。

「あ、ロッキーさん」

 そう、ロッキーであった。

「何かあったのか」

「実はかくかくしかじかで」

「ほ~うそんなことが」

 事情を説明したカルマちゃんの向かいの席に腰を下ろしたロッキーがつぶやく。

「……にしても食いすぎじゃねぇか、嬢ちゃん」

「いっぱい動いたからお腹が空いたんです」

 カルマちゃんの前にはたくさんの食べ物が山積みになっていて、食堂内で注目の的になっていた。

 戦闘駆動は相当にカロリーを消費するらしい。

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