第3話ー3

「きれいな髪ね」

 お姉さんはカルマちゃんの長い金髪をうっとりと見つめている。

「でもそんなに長いと洗うの大変じゃない」

「大変ですよ。でも大切な私の一部ですし、大切に育てているんです」

 そう言いながらちゃんとお風呂に入らない人は誰でしたかね。

 とはいえ、カルマちゃんが髪の毛を大切にしてるのはその長さと洗う手つきで分かるものだ。


「それでね、発明家の称号ってのは冒険者なんかが使う便利なアイテムを制作する人っていう証明になるの。一度手に入れておけばアイテムを売る際の手続きが楽になるし、発明品の貢献度が溜まればボーナスも出る」

「発明品の貢献度?」

 髪を洗いながら首を傾げるカルマちゃん。カワイイ。

「発明品の製作法を売ったり、それがたくさん売れたり、依頼があって求められた品を制作したりして貯めていくの」

 一個で大儲けしてもらうより、少しでも長く貢献してほしいギルド側からの策だな。

「物づくり専門じゃなくてもいいんですよね」

「もちろんよ。登録しておけば他の場所でも信用に繋がるから取っておいて損はないと思うな」

 一種の免許みたいなものか。

「それって誰でも取れるものなんですか」

 カルマちゃんは桶にためたお湯で髪を流しながら訪ねる。

 お湯に流れる金髪がキラキラして綺麗だなぁ~。ここも記録記録。


「発明者の称号を得るには3つの発明品の製造法をギルドに売らなければならないわ」

 お姉さんも体を洗い終え、もう一度髪の毛をまとめたカルマちゃんと湯船に浸かりに行ってそう答えた。

「ですが私が創ったのはまだ一つですよ」

 と、カルマちゃんは疑問を返す。

「3日で新しいもの創れるならすぐに3つ作れるわよ」

 簡単に言ってくれやがるな。

 カルマちゃんがどれだけがんばって作ったと思ってるんだ。

「まぁ、3つくらいなら簡単ですけど」

 ちょっとカルマちゃん。俺様の心配は無駄ですか。

「ですが条件があります――」

「ん、なに?」

 カルマちゃんはお姉さんに伝えたことは――――。



「それではザック、行きましょうか」

 お風呂でお姉さんと会話した2日後、俺様達は新しい冒険に出ることになった。

 昨日はカルマちゃんが創ったやもリンの魔力を解析して作った物理攻撃をはじく保湿クリーム、名付けて「やもリンEX」の製造方法をギルドに売約する手続きと、今回の冒険のついでにこなすお仕事を受けて来たのである。

 それと、今回の冒険に必要になる道具などの物資の調達である。

 カルマちゃんの懐具合は「やもリンEX」のおかげでなかなかに潤っている。

「カルマちゃん、色々買ったよね」

「へへへ、物珍しさについつい。子供ぽかったですかね」

「そんなことないよ」

 正直言うと、おもちゃ屋さんではしゃぐ子供みたいで可愛かった。

「服とかは買わなかったけど良かったの?」

「服は今着ている奴の方が優れてますからね。買うよりかは自分で作るほうがいいかもしれません」

「へ~、カルマちゃんは服も作れるんだ」

「でも、デザイナーじゃないから機能性重視のダサいやつですけど」

「俺様はそういうやつの方がカッコイイと思うけどな」

「ありがとう」


「お~い、嬢ちゃん」

 冒険に出ようとしていたら道の向こうからロッキーがやって来た。

「ロッキーさんおはようございます」

「オッス」

「おはよう。嬢ちゃんにザック。2人で今から冒険に行くんだよな」

「はい。発明品を創るためにいろんな素材を探しに行くんですけど、ついでにギルドのお仕事もやっちゃおう、っと思いまして」

 カルマちゃんは軽快にピョンっとジャンプしながら答える。

「素材集めは分かるけど、ついでで受けた依頼がゴブリンの巣の破壊だろ。1人で大丈夫か?」

「大丈夫です。ザックが居ますから」

 俺様は誇らしくなって胸を張る。――胸ないけど。

「しかし気を付けろよ。ゴブリンってのは下級の魔物とはいえ、数が多いやつらだからな」

「ゴブリンってのは厳密には生き物じゃなくて土の人形みたいなものなんですよね」

 カルマちゃんの質問にロッキーが答える。

「ああ、妖精という生き物に近い現象とされるモノの一種だ。だから殺してもいいというわけでは無いが、ゴブリンは穢れた土から生まれ他の生き物に害を及ぼす奴らだからな。種を残すためでもないのに他の種族の女を襲って犯す下衆な生き物だ。気を付けろよ」

 ロッキーはカルマちゃんを心配してくれている。

「大丈夫ですよ。私付いてませんから」

「は?」

 っだから。

 またそういう重いことをさらりと言う。

 ロッキーが疑問符を浮かべているぞ。

「何でもない、気にするな」

 とりあえず俺様が誤魔化しておいた。


「それじゃーいってきま~す」

「気を付けてな~」

 ロッキーと挨拶を交わしながら俺様達は町を出る。

 向かう先は西に2日ほど進んだ場所にある鉱山の採掘をする村だ。

 鉱山に発生したゴブリンの巣を破壊する仕事のついでに、魔力を持つ鉱石などを探すのだ。

 他にもこの世界では使われないような鉱石や金属などでカルマちゃんの役に立つものが無いかも探してくる予定である。

 こればかりは市場を調べても情報は得られないので産地に直接行くしかない。

 さて、何か収穫はありますかね。

「ねぇザック。向こうは川魚が美味しいらしいよ。楽しみだね」

 食い気優先のカルマちゃんも可愛いな。

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