GW編 ~皐月の花火~

GW編1


「よく映画で爆弾の道線どれを切るか、みたいな話があるじゃないですか。そんな感じです」



 連休初日のバイパスを走る自動車の中、運転席から朗らかな声がする。


 声の主はアネモネ七王子支部の筆頭受付嬢、青木優枝さんだ。今の運転も業務の一環であるため、いr自摸の受付嬢の装いをしている。


 ところで助手席という特等席で話を聞いているはずなのに一向に現状と言葉の内容が一致しないのは何故だろうか。


 後部座席の真ん中で意識を失い項垂れる少女と両サイドに座る二人。


 俺の髪と同じ灰色をした脳細胞が足りないせいか、はたまた青木嬢が運転に集中して現状を正しく認識していないせいか。


 「って、絶対違うでしょ! なんでジュースに睡眠薬入れたかって話しだったよね⁉」


 俺の脳に問題がないことを証明してくれたのは、俺の後ろに座わっている紺色の髪の少女、琴乃春音。今日はいつもの制服姿ではなく、桃色のシャツに黒のスカート、薄手のパーカーを羽織っている。


 そうだ、やはり睡眠薬混入事件の話だったよな。


 実は起きているのではないかと思い改めて琴乃の隣へ目を向けてみるも、やはり後部座席の中央に座る水色のワンピースを着た少女、橋本雪奈は琴乃の肩を借りる形で深い眠りに落ちていた。


「このツッコミに反応しないってすごいよね」


「そうだな」


 俺と同じく橋本に注意を向けていたのは運転席の後ろに座る金髪の少年、天藤樹人だ。


 俺、樹人、琴乃の三人に俺がここへ来る原因を作った少女を加えた四人で探偵会社アネモネ第三課としてバイトをしているのだが、樹人はその名義上のリーダーとなっている。


 いや、事件の時はともかく、面倒な書類手続きを一手に引き受けてくれているのだから、その点は感謝しているのだ。


 俺が樹人に日頃の感謝の念を抱きつつも適当な相槌を打ったせいか、この会話は終わり、という雰囲気になった。


「って、男子たちはもう少しこの状況に疑問を持って⁉」


 再度の琴乃のツッコミにもやはり橋本は反応しなかった。


 これはしっかりと睡眠薬が効いているな。今朝集まった時の目元から察するに、薬の効果だけでなく彼女自身も寝不足だったのだろう。


 渡された飲み物を疑わないからよ、とこの場にいない人間不信の白髪少女のような発言が思い浮かぶが口に出す前に飲み込むことにした。


 五月の大型連休初日に、いつものアネモネ第三課、通称アビーズのメンバーで月崎蛍の代わりに橋本がいるというこの稀有な状況。


 本当にどうしてこうなったのか。


 俺はどうにも不可解な気分で、外の景色の中を流されていた。

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