委員会編 後日談

 橋本の件が一段落付いた翌日、四月も終わりに差し掛かり連休も近づく中で俺達「アビーズ」ことアネモネ第三課の面々は自分たちの部屋に集まっていた。


 特に仕事は無くても寮に帰るよりは退屈しないという理由で、俺も頻繁に樹人に連れてこられている。


 部屋の中央にある皮椅子に男女で分かれて向かい合って座り、雑談していたところ樹人から唐突に「この間の件はどうなったのか」と話を振られ、静止する琴乃を振り切って一通り話し切ったのだ。


 これを聞いた月崎と樹人の反応と言えば


「そう言えば姉さんが企み顔だったわね」


「そこまで読んでた月野先生は流石だよね!」


「お前ら、月野先生好きすぎるだろ……」


 俺のぼやきはともかく、琴乃が慌てて反論を開始する。


「結局あの後雪ちゃんと由美ちゃんも仲良くなったし、私も許してもらえたし、大団円じゃん!」


「まああれから図書のルールも緩くなって委員の仕事量が減ったから文句はないがな」


 仕事が減ったのだから、この点に関しては労働に対する対価があったとして満足すべきだろう。


「それはそうと、琴乃ちゃん。なんで自分で返しに行かなかったの?」


 そう言えばその疑問を棚上げしていたな。


 俺は樹人に釣られるようにして琴乃の方を向く。


 月崎は興味無さそうに紅茶を飲んでいながらも、片目を覗かせていた。


 周囲の期待が集まる中、琴乃が「あっ」とワザとらしく声を上げる。


「そう言えば、月野先生がこの連休でどこか行かないかって言ってたよ?」


「ちゃんと連休らしく休めるなら行ってやらなくもない。それで、なんで自分で返却しなかったんだ?」


「シノッチ、しつこい男は嫌われるよ」


「琴乃さん、そろそろ諦めて話したらどうかしら?」


「ほーちゃんまで……」


 月崎に言われて覚悟を決めたのか、琴乃は懺悔する子羊のように話始めた。


「まあ、そのね。借りていた本を見られたくなかったから……」


「それ位僕にだってわかるよ。気になるのはその本の内容……」


 そこまで言ったところで琴乃の殺気じみた睨みつけで樹人が黙った。


 コホン、と小さく咳払いして琴乃が続ける。


「ほら、買ってきた同人誌とか親に見られるのは嫌でしょ? それと同じだよ」


「僕は三次元専門だからあんまりそう言うのは分からないかな……」


「俺も小学生の時に親と他界しているから何とも……」


「使えない男子たちめ……」


 言いたい放題言ってくれているが、そもそも俺達未成年はその手の本を入手できないのが普通ではなかろうか。


 が、俺が問いつめるよりも早く、別の角度から指摘が入った。


「つまり琴乃さんは卑猥な本を借りていて、その返却期限が東雲君の担当の日と勘違いしていたために他の人に押し付けた、ということね」


「うん、いかがわしい本じゃなくてただのダイエット本です。はい……」


 月崎に淡々と言われて、諦めたように本の内容を告げる琴乃。ダイエット本なんて隠す意味あるのだろうか?


「そもそも、他のクラスメイトを使ったところで俺が察するとは思わなかったのか?」


「だってシノッチ、クラスの人の顔と名前、ほとんど一致してないじゃん」


 むすっとして告げる琴乃と呆れた様に見てくる二名。


 反論は……できないな。


「大和……」


「東雲君……容疑者の名前は覚えないとダメよ」


「人を見たら泥棒と思いすぎだろ。どれだけ治安悪いんだよ」


 と反論はするものの、確かにもう少し覚えた方が良いかもしれない程度には思う。


 小学生の頃、同級生の名前が全く覚えられなかったので、担任に三回書きしたノートを見せたら引かれたのは幼いながらに鮮明に覚えている。


 俺が黒歴史を掘り返しつつ憂鬱に浸っていると、突如としてドアが勢いよく開かれた。


 そこにいたのはみんな大好き月野先生。


「さあ、みんな、旅行に行くわよ!」




                               委員会編 完

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