委員会編12
「三人とも、四年J組の橋本雪奈に謝まることがあるでしょう。一人はともかく、他二人はこちらから言い聞かせないとそのつもりが無いようなのでお呼び出しさせていただきました」
口調に迷ったが、向こうには先輩もいることだし敬語でいいだろう。
俺の投げかけに対して、四年生の二人が強く反応した。
「ちょっと、私は特に橋本さんと関わったことないんだけど⁉」
「僕もです。それに、先輩だって一昨日の一件は下がったじゃないですか。それを謝らせるとは失礼にもほどがありますよ!」
「まあでもちょっとはその六年生の先輩も反省した方が良いんじゃないの? 一昨日は放課後にも廊下をうろついてたみたいだし。なんなら昨日も来てたよね?」
「君も失礼だぞ⁉ 証拠はないだろう。それに先輩には敬語を……」
反応した、というかただの言い合いだな、これは。
まあ、これだけしらばっくれるつもりなら呼んだ甲斐があったというものだ。もっとも、片方は自覚していない可能性もあるが。
ヒートアップしてきた二人を咳払いで諫めると、俺は徐に話始めた。
「一部の人は知っていると思うが、昨日登校すると、橋本の下駄箱にゴミが入れられていたり、机に暴言が掛かれていたりといった嫌がらせがあった」
俺の言葉に須藤を除いた二人に動揺が走る。
「本当かい? もしかして僕のせいで……」
と九重先輩が俯く一方で、厚木は不敵な笑みを浮かべ、鋭く睨み返してきた。
「昨日の放課後、琴乃ちゃんと調べていたのはこのことだったのね」
「気付いてたのか」
「琴乃ちゃんは嘘つく時に体を前後に揺らすとか、無意味に背伸びをするとか、挙動不審になるの! かわいいでしょ?」
急に饒舌に話始めた厚木に若干引きつつも、今度確認してみようと脳内にメモする。
それはそうと、話しが進まないので話題を戻す。
「今、厚木が言っていた通り、昨日の放課後いくらか調べたところ、容疑者が三人にまで絞れた」
「それが僕たちってことだね。まあ、一昨日の行いを考えれば僕が疑われるのは当然だと思うけど」
そういって自嘲気味に笑う九重先輩の言葉に俯く須藤。
厚木は悪意に満ちた目でこちらを睨んでいる。
「なんで私が入ってるのよ! 探偵のごっこなんてしてる暇あったら橋本さんを慰めた方がいいんじゃないの?」
探偵ごっこ、か。
一瞬兄の言葉が蘇るが、才能の無い探偵に暴かれるような雑な隠蔽工作しかしないからこうなるのだ。
「ご説ごもっとも。それでは探偵らしく犯人を名指ししてみようか?」
「そんなことされなくても分かってるわよ! 一昨日の放課後、そこのロン毛の先輩がまた教室に来てたの知ってるんだからね? 犯人はコイツで決まりじゃない」
「お前、九重先輩に失礼……」
「落ち着け須藤。九重先輩は無実だ」
俺の言葉に一同が固まった。
九重先輩はゆっくりと問うてくる。
「どうしてそう思うんだい?」
「先輩が放課後に教室へ来ていたのは、橋本に謝るためでしょう?」
俺の言葉に本人よりも早く厚木が口を挟んだ。
「そんな訳ないわ! 大体何の根拠があって……」
「いい質問だ。俺が確信を持ったのは先に犯人を特定してからだが、昨日俺が図書委員の仕事をしていた時にこの人はその手の本を借りに来ていたんだ。あんな本、俺なら借りずに適当に立ち読みで済ませるが、借りて帰ってまで知りたい内容だったんだろうな」
俺の言葉に九重先輩がやや顔を赤めながらも首肯する。
「僕はあの放課後、橋本さんに謝りに行こうとした。けど、言い方が分からなかったから、多少恥を忍んでも本で調べてしっかりと謝罪しようと思ったんだ」
どうやら恥ずかしい自覚はあったようだ。今時、そんなものネット上にいくらでも転がっているだろうに……。
何はともあれ結果的に俺がこの人の疑いを外すのには役立った。計算かとも思ったが、この人の貸し出し手続きをした時点では、俺はまだこの件に首をつっこむかどうか決め兼ねていた。そんな人間にアピールする意味もないだろう。
「俺は、気持ちがこもっていればなんでもいい気がしますがね」
「そんな気持ちのこもってない慰め初めて聞いたよ」
「基本的に損得計算で行動する人間なので、その辺りはご了承ください」
俺が淡々とそう告げると、九重先輩は肩をすくめた。
さて、これで彼の可能性は否定された。実を言うとこの人は呼ぶ必要はなかったのだが、いつまでも駄々を捏ねられそうな気がしたので、ハッキリと本人の口から否定してもらうためにご足労いただいたのだ。
「なら、犯人はこの陰キャね。私は……」
そこで厚木が口ごもる。自信ありげに語る割に目が泳いでいた。
コイツを潰すのが現時点での最短だな。
そう判断し、俺はしっかりと茶髪がかった少女の目を見て宣言した。
「貴重な休み時間だ。単刀直入に行こう。橋本に対して机の落書きと下駄箱にごみを入れる等の嫌がらせをしたのはお前だな、厚木由美」
俺の言葉を聞いて厚木がハッキリとこちらを睨み返してきた。
「違う! 私には……」
「アリバイがある、だろ?」
「……」
俺の言葉に意外そうな表情でこちらを見てくる一同。
とくにそれまで剣呑な雰囲気だった厚木がぽかんと口を開けている姿が印象的だった。
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