委員会編11
今日の午前はやけにに短く感じた。
月野先生の手を借りて特定の人物に召集を掛けたり、委員会の日でもないのに図書室へ行ったりと忙しかったのだ。
「それに授業中は寝てたからね」
「仕方ないだろ。今朝は早かったんだ」
一応待ちはしたが、やはり午前の授業が終わっても前の座席は空のままだった。
隣に座る樹人の指摘を適当にあしらうと、俺は職員室へ向かった。
貴重な昼休みを消耗するのだ。早く終わるに越したことはない。
一階の職員室前の廊下では既に俺が招いた三人のうち、二人の客が来ていた。
片方は退屈そうに携帯を弄っていて壁にもたれている、小柄で茶髪がかった少女、厚木由美。もう一人は腕組みをしつつもどこか落ち着かない様に廊下の外を眺めているメガネの将棋部部長、九重裕也だ。
ゆっくりと歩いていく俺に気付いたのか、厚木がスマホをしまい、九重が腕組みをほどく。
と、背後から小走りしてくる足音が聞えた。
どうやら最後の待ち人、須藤修也が来たらしい。
駆け寄ってきて、最初に口を開いたのは須藤だった。
「九重先輩⁉ どうしてここに?」
「国語科の月野先生に呼び出されてな。君は?」
「僕もです。月野先生は担任なので」
須藤はどこか気まずい、というよりは照れたような、憧れを含んだ眼差しで九重を見ていた。
この二人が知り合いということはやはり九重が去った後に顔を逸らした人物は須藤で間違いなかったらしい。
「それで、私たちは何で呼ばれたのよ?」
昨日、琴乃と共に話した時とは異なり、やや低めの厚木の声が昼休みにもかかわらず静かな職員室前の廊下に響いた。
その質問に答えられるのは俺だけだ。だが、俺はその場で説明する訳もなく、「それでは行きましょう」とだけ声を掛けて職員室へノックして入り、月野先生の席へ向かった。
「月野先生……」
「うーん、ここもいいかなぁ。あ、こっちは海鮮が美味しそう……」
月野先生は俺の声に気付かなかったのか、楽しそうに旅館のサイトを覗き込んでいた。
「……月野先生」
一応昼休みは教員の勤務時間ではないのかもしれないが……。
思うのだが、この人の残業は自身の怠惰が原因なのではなかろうか。
俺の呆れた声に気付いたのか、月野先生がバッとこちらを向いた。
「ああ、違うの。これは、その……。待っていたわ」
「言い訳を諦めないでください」
しどろもどろになりながらも言い訳すら諦めた担任の姿にため息をつく。
「まあまあ、細かいことは良いじゃない。それよりもかわいい教え子が課外活動で部屋を使いたいっていうからちゃんと用意しておいたわよ。注文通り、監視カメラのない部屋を、ね」
俺は悪戯っぽく笑う月野先生を軽く睨みつけて黙って鍵を受け取った。
そう、監視カメラのない部屋という注文をしたように、今回は琴乃に介入させるつもりはない。あれだけ懸命に捜査していたのだから非情に思うかもしれないが、この件では琴乃は容疑者サイドの人間なのだ。
月野先生は疑心暗鬼そうに俺の後ろを付いてくる三人の学生を一瞥すると、悪戯をするようにディスプレイの横に掛けられた大量の鍵から「応接室」と書かれた一つを取り出して俺に渡してくる。
「それじゃあ頑張ってね! ……あ、ここは三種類も源泉が」
もう少し生徒の前で取り繕うという発想はないのだろうか。
が、腐っても教員であることに違いは無く、背後の三人は表情はともかく口では何も言わない。
俺は黙って職員室の奥へと進むことにした。
この学校の構造として、職員室の奥に生徒が一般には立ち入りできない廊下があり、その先に校長室と理事長室があるのだ。
応接室の戸を開けると、教室の2/3くらいの広さに皮の椅子と漆の机が配置されている。壁際にはコーヒーメーカが置いてあり、窓からは校庭が一望できる空間だった。
掃除用具入れ代わりのロッカーか知らないが角に設置された木製のクローゼットはやけに存在感があった。
理事長室と似た感じだな。それにしても空調は利いているのか。
「それで、私たちを呼んだのはアンタなんでしょ、東雲。友達待たせてるからさっさと話して」
先程までの空間が職員室や生徒が一般に立ち入りできない区間であったことから黙っていた厚木もいら立ったように口を開き、他の二人もそれに頷く。
探偵らしい言われようと言えばそうだが、厚木の口調は警官の取り調べのイメージに近い。もっとも取り調べられたことは無いから想像の域をでないが。
探偵らしい、とすれば何か前置きを挟んだ方が良いのかもしれないが……、そうするメリットも見当たらない。単刀直入に行こう。
「三人とも、四年J組の橋本雪奈に謝まることがあるでしょう。一人はともかく、他二人はこちらから言い聞かせないとそのつもりが無いようなのでお呼び出しさせていただきました」
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