結成編 幕間 ~side H・K~

 先週の喫茶店付近の映像で桃が一般男性に話しかけに行ったものを探してくれ。


 それと土浦氏から解決したと連絡が入ったら、桃に一対一で聞いて欲しいことがある。


 事件の動機は反抗期とかその辺だろう。


 最後にこの一計を案じたのは自分か、それとも誰かに相談したから確認だけ頼む。




 そう短く言って電話は切られた。いや、バッテリーが無くなって切れてしまったという方が正しい。最初からかなり充電少なかったけど、昨晩に充電忘れてたのかな?


「もう、シノッチったらモバイル充電器くらい持ち歩いてよね! それと人使い荒すぎ!」


 アネモネの自分たちに当てられた部屋の自分の机の上でプログラムの羅列と睨み合いをしながら、アタシ、琴野春音はそう愚痴っていた。


 初日だけど労働組合という単語が脳裏に浮かんだことに苦笑いしつつ、桃ちゃんが奪還されたという知らせを受付の青木優枝さん‐アユさんから受け取り、桃ちゃんにはこっちに向かってもらっている。


 まあ、ボーナスは後日本人に請求するとして、今は桃ちゃんに話を聞きますか!


 そう決心して、部屋の中央にあるケーキの箱から新たにベリー系をベースとした芸術品に手を伸ばすのだった。




 コンコンコン


 そう丁寧に三回ドアをノックして、今回の犯人らしい、桃ちゃんが入ってきた。


 髪を短く切りそろえた容姿は幼さと大人への間を彷徨っていて、年相応の魅力があると思う。


 なんならアタシより大人っぽいかもなぁ。


 鏡を見ない様に気を付けながら、手元で読んでいた漫画を置いてケーキの箱が並べられた部屋の中央の机に座る。


 モモちゃんが右手と右足を同時に出して、ゆっくりと目の前の机に座った。


「土浦桃ちゃんだよね。ちょっとでいいからお話を聞いてもいい?」


「はい」


 そのつぶらな瞳には不安と疑問が渦巻いていた。


 机の上にこれだけお菓子の箱が並んでたらそりゃ疑問だよね。


 コンコンと再度ドアが叩かれ、今度は天ちゃんがスタッフルームの会議室っぽい部屋から紅茶を淹れて入ってきた。

 


 天ちゃんはカップとティーポットを机の上に置くと


「好きなの食べていいからね。ごゆっくり」


 と言って、自分の机から鞄を持って素早く帰って行った。


 すでに二人で話すということは伝えてあるから、気を使ってくれたのだろう。


 アタシも帰りたいんだけどなぁ……。


 もっとも、目の前に小学生の女の子がいるし、決して顔には出さない。


 大人の女性の嗜みだよね!


「桃ちゃん、どれ食べたい?」


「……じゃあこれでお願いします」


 桃ちゃんが選んだ桜のロールケーキをお皿に移して、そうして私たちは話始めた。




「つまりお父さんが色々としつこくて嫌だったってこと?」


「そうです。お母さんが死んじゃってから歯止めが効かなくなったというか」


「お手伝いさん呼んだり?」


「はい。おじさんたちは優しいから好きですけど、他にもお小遣いの量がどう考えても小学生に与える額じゃなかったりとか」


 ああ、あるあるかも。別にお金があって嬉しいことは嬉しいんだけど、そうじゃない感がね。


 それにしても、シノッチがアタシに頼んだ理由が分かった気がする。


 アタシは桃ちゃんに少なからず共感を覚えていた。


 うちの両親も共働きで忙しかったから、お手伝いさん雇ったりとか、妙に他の友達と比べてお小遣いが多かったりとかしたものだ。


「ほんと厄介だよね、親って。でも、いるだけ感謝しなきゃね」


「……はい。分かってます」


 静かに頷く桃ちゃん。ケーキやお茶の量が減ってきたことを確認して、最後にシノッチに頼まれていたことを思い出した。


「それで桃ちゃん、今回のって自分で思いついたの?」


 ハッとした少女の反応をみて、アタシはシノッチの予想が当たっていたことを確信した。

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