結成編12
俺達が着いても、未だに現場は膠着状態だった。
自動車に乗っているから一度道路に出れば多少は逃走の目もあるが、その出入口を二台のパトカーによって閉鎖されているので、動けない。
一方で川へはおよそ建物の二階くらいの落差があり、飛び降りるのも現実的では無かった。
パトカーに近づくと、警察の一人が声を掛けてくる。
「君たちは?」
「アネモネの探偵です。この誘拐事件を依頼されて来ました」
そう言ってアネモネのカードキーを示す月崎。
そういえば裏面にアネモネの社印が入っていたな。証明書にも使えたのか。
「仮に君たちが探偵だろうと、もうこの件は警察の手で解決される。大体、まだ高校生じゃないか。こんな子供がどうやって……」
なにやら俺達の素性にまで文句を言い始めた警官に対し、月崎は一睨みすると短く告げた。
「あなたたち、また誤認逮捕でもしたいの? これ以上警察の恥をさらさない方が賢明だと思うのだけれど」
「ああ? なんだと!」
「高校生に対してそのような横暴な態度。とても警察とは思えないわね?」
「生意気言いやがって! 公務執行妨害で逮捕するぞ」
そう言ってその警官が月崎を捕えようとする直前、背後から皺枯れた、落ち着いた声が聞えてきた。
「やめろ松本。アネモネには最大限の協力体制を取る。それが上の方針だ」
「警部、ですが!」
何やら抗議したそうな松崎と呼ばれた警官を遮って、月崎がその声の主に声を掛けた。
「お久しぶりです、
「月崎のお嬢ちゃんか。まあいいだろう。だが今犯人は車に立てこもっていて危ないぞ?」
「大丈夫です。その人はまだ犯人ではないので」
そういうと、月崎の知り合いらしい無爾警部は怪訝な顔をしながら俺達を通してくれた。
皺のついた顔には長年の苦労が伺える。指輪をしているから既婚者だろうが、ネクタイやスーツの皺、靴下の左右が違うことから現在は独り暮らしの可能性が高い。それから……。
久々に人間分析の真似事をしていると、こちらを向いて、目を丸くした無爾警部と目が合った。
「これは驚いた。嬢ちゃんのボーイフレンドかい?」
「違います。これを見て言うのは流石に失礼だとは思わないのですか。セクハラで訴訟しますよ」
淡々と告げる月崎。
失礼なのはお前だ。
「ならチームメイト?」
「違います。こんなロリコンとチームを組んだら私が捕まります」
「おーい、なんかチームを断る理由が変わってるぞ」
俺の言葉を無視し、月崎は淡々と自動車へ向かって進む。フロントガラスから見えるサングラスの男がやや驚いたようにこちらを見ていた。
まるで周囲の時が止まったように、何事もなく運転席までたどり着いた月崎は、その窓をコンコンと軽く叩く。
それに応じるように窓が開いた。
「あなた、名前は?」
「……亀田拓狼だ」
小さな声だが、確かにそう聞き取れた。
どうやら桃という少女を亀が攫って髭の男が取り返しに行っていたらしい。
そんな某有名ゲームを連想しながら月崎の動きを他人事として見ることにした。
経験が浅い人間には、警察の前で話すのはハードルが高すぎるのだ。
月崎の静かな声が風に乗って聞こえてくる。
「あなたが犯罪者になるかどうかは、これからあなたが決めることよ」
そして、その声は背後にいる警官達にも届いたらしい。どよめきが広がるなか、先程の松本刑事が声を上げた。
「ふざけるな、そいつは既に誘拐と脅迫の二つの罪を犯しているんだぞ! そんなもの有罪に決まっている!」
「あなたは子供の御飯事で犯人役の人を逮捕するのかしら?」
「何だと⁉」
動揺する松本刑事に月崎はハッキリと告げた。
「子供が現金と知らない大人を捕まえて数日かかりの御飯事を行った。それが、この事件の真相よ。もっとも、子供を盲目的に信じるあなた達には、視えない世界でしょうけどね」
それでは拝見させていただこう。
人間不信な探偵少女の推理を。
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