結成編2
名前も聞かないまま、適当にお礼を言って、足早に奥へと進むコスプレ少女を見送ると、改めてエントランスを見渡した。
水色の絨毯が引かれた部屋には三人掛けのソファーが六脚ほど並べてあり、正面中央には受付と思われるホテルのような木製のカウンターがあった。その両側に通路があり、個室があるのが確認できた。
受付嬢の女性は黒を基調とした制服に身を包んでおり、その目立つ胸には『青木』と書かれた名札が掲げられている。
部屋のソファーには妙齢の女性と若者二人組が座っているが、今は用事が無いので無視する。ゲームだと一人くらいアイテムをくれそうなシチュエーションだが、残念ながらそこまで不審者を極める趣味はない。
受付へ近づくと向こうも気づいたのか、完璧な営業スマイルを向けてくれた。
「東雲大和さんですね。局長からお話は伺っています。詳しいお話は全員が揃ってから行いますので、スタッフルームへ入ってすぐの右手前側の部屋でお待ちください。あ、スタッフルームは右の通路を突き当りに進んで、右に曲がった先に扉があるのでそこから入ってください」
俺は頷くと言われた通りの道筋を進む。廊下はやや捻じれた複雑な構造になっていた。
一階ファミレス。二階、三階にネカフェ。四階は飲み屋だったか?
このビルの五階にありそうで、視た感じ防音性の高そうな壁と空間を最大限に使うために作られた廊下に生える複数の個室。恐らく、以前のテナントは……。
そこまで考えたところでstaff roomと書かれた突き当りの部屋を見つけた。
入口にはカードキーが設置されている。
「……」
逡巡すること数秒、さっさと受付まで戻り、青木さんが目尻に涙を浮かべて必死に謝罪してきたのを慰めてから、社員証のようなものを受け取って再度廊下を戻ってきた。
……とりあえず、往復よりも青木さんを励ます方が疲労感があった。
扉を開けると、そこには会議室のような光景が広がっていた。
高級そうな赤い絨毯に天井に飾られたシャンデリア状の照明が部屋を明るく照らしている。部屋の中央には長机が四角く並べられており、実際に会議でもしていたのか、パイプ椅子が乱雑に置かれていた。更に周囲を見回すと左右に二つずつと正面に一つ、計五枚のドアがある。よく見ると、左右の奥の扉には「更衣室」と書かれた札がぶら下がっていた。
右手前の扉だったか?
先程青木さんから言われた通りのドアに手を掛ける。
鍵は無く、扉を手前に引いた。
意外感……は正直に言って無かった。
予感はあったのだ。
部屋は正面にキャスター付きのホワイトボード、中央にガラス製の長机とそれに合わせた皮のソファーがあり、四隅には勉強机がある。五階だけあって二つある窓からは陽が差し込んでいた。
そして、左手目の勉強机に座って机の設備を管理している金髪の少年と、左奥に3画面ある巨大なPCを設置して、ソファーに寝転がりながら漫画を読んでいる紺色の髪の少女が一人。どちらもドアの音で気づいたのか、こちらを見ていた。
俺はため息交じりに言う。
「やっぱり来ていたか」
「うん。ハッキング力を買ってもらったの! これで合法的にハッキングできるし、お金も貰えるしで一石二鳥だよ!」
満面の笑みでそう言う琴乃。
合法なハッキングというパワーワードが聞えた気がしたが無視する。
すると今度は樹人が話しかけてきた。
「それにしても遅かったね、大和。机の場所だけど、その右奥の所は既に使ってるらしいから、手前のでよろしく」
「構わん。そもそも机なんて期待していなかったからな」
「で、シノッチはなんで遅れたの?」
人があえて誤魔化そうとした所を深堀するな……。
とはいえ、俺に非はない。
「宝の地図を渡されたんだ?」
「宝の地図?」
そう言って俺は琴乃に月野先生から受け取った地図を渡す。
「……うん。確かに、これだと埋葬金とか埋まってそう」
やはり俺の解読能力が低いわけでは無かったらしい。やはり俺に非は……。
「でも今時ネットで調べれば一発じゃない?」
琴野の的確な指摘に俺は口を噤むことしかできなかった。
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