09話.[いいことですね]
「遅れてすみませんっ」
「まあしょうがないだろ、よく来たな」
「え゛」
少し歩いてから振り返ることになった。
そこには依然として棒立ちしている光の姉、灯が。
「あ、悪い、荷物持つぞ」
「え、あの」
「別に漁ったりしねえよ、早く行こうぜ」
どうやらこの姉、高校を卒業したら家を借りてひとり暮らしをするみたいだ。
光が意外にも大学に行きたいと言い出して、姉の方もじゃあとなったらしい。
いいのか? いやまあ、光にしたって俊が大学に行きたいということで付いていこうとしているみたいだが。
いまは大学卒というのが前提みたいになっているところがある、卒業できるだけでも無意味なことはないんだろう。
「あの、浩さん……ですよね?」
「は? 俺しかないだろ、俊はここにはいないぞ?」
「いやだって……私に優しい浩さんなんてありえないじゃないですか」
「ま……遠くから来てくれてるんだからな、そりゃこれぐらいはしなくちゃいけないだろ」
「誰ですかこの人っ」
だから俺だよ、黙って歩いていればいいんだ。
「そういえば光ちゃんが教えてくれましたよ、綾祢さんとお付き合いを始められたと」
「ああ、そういうことになるな、何気にあんたの妹も付き合い始めたんだけどな」
「いいことですね、寂しくはなりますが、光ちゃんが幸せならそれでいいですから」
「はは、臭えセリフだ」
「い、いいじゃないですか」
悪いなんて言ってない。
◯◯が幸せならいいだなんて思っていても言えないからすごいことだ。
「でも、そうだな、最初は寂しかったけど灯の言う通りだ」
「なっ、なんで名前を呼び捨てにして……」
「義理姉の姉だからな、家族みたいなもんだろ、だから俺は――ぐぅぇ!?」
いきなり後ろから首を絞められて蹲る。
歩いていたうえに身長だってこっちのが高いのにどうやって……。
「堂々と浮気している浩くんには罰だよ」
「浮気じゃない……」
「どうだか。灯、こんにちは!」
「はい、こんにちはっ」
「行こっ、浩くんなんて放っておけばいいんだよっ」
「そ……れはできませんが、3人で仲良く行きましょう」
「優しいなあもう」
まあいいか、人に優しくして悪いことなんてないから。
これからもいい意味で驚かせられるように意識して行動しようと決めたのだった。
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