ゲームをするために他の用事を全部キャンセルしてひたすら没頭していたい問題の探求者、モグラ太郎先生の回

音楽(トゥットゥットゥ〜タラララ〜ン♪)


パーソナリティ いちかわさとる: みなさん、こんにちは。いちかわさとるです。教養ラジオ「アルテスの中庭」の時間です。第6回目の本日は、「ゲームをするために他の用事を全部キャンセルしてひたすら没頭していたい」問題の探求者、モグラ太郎先生にお話を伺います。先生、今日はお忙しい中ありがとうございます。


モグラ太郎: 帰ってええかな。


い: すぐ終わりますので。


モ: もう休みの日はずっとやってて、掃除とか食事とかも、なおざりや。


い: ご自宅ではお暇なのではなかったのですか。


モ: 新しいゲーム買ってハマったときは別なんよ。やりこみは惰性やけど。

あー、早く!早く帰って、秘宝を守るドラゴンを倒すために、剣を作るための金属を集めないと。


い: それほど熱中できるものなのですか。


モ: せっかくそのために、傷心の女検事に取りいってそのコネで、サイボーグ化された手練のパルマワラビーと契約を結ぶところまでこぎつけたのに。このワラビーは鉄鉱採掘のプロ。


い: どういう世界観なんですか。


モ: 問題は、採掘エリアに行くまでの道のりに高レベルの旧王党派山賊がわんさか出ることや。ワラビーといっしょに行くか、ひとりで行ってからドローンタクシーでワラビーを呼び出すか、そこで迷ってる。たしかにワラビーはめちゃくちゃ強いからいっしょに行ったほうが安全やけど、こいつを消耗させると採掘できる量が減る。


い: 二人ともドローンで行けばいいじゃないですか。


モ: それができれば話は早いが、ドローンタクシー会社はサイボーグ化されてない主人公には過激派自然主義者との疑いをかけて乗車拒否するんや。


い: 悩みどころですね。それにしてもなぜ、それほど寝食忘れて打ち込めるのでしょうか。


モ: たぶんこうやって、ああしようこうしよう、そのためにあれがいるとかって考えさせるのが熱中させる秘訣なんやと思う。

ゲームしてない時間までゲームのこと考えてしまうもん。そういうふうに作ってあるんや。まんまとハマって最近は平日もゲーム攻略を考える合間に仕事してるわ。


い: 恐ろしいですね。


モ: ゲームくらい人の行動に影響与える娯楽メディア、他にないんちゃうかな。


い: そうですか?小説でも、私は推理小説の先が気になってしかたなくて、ずっと読んでしまうことがありますよ。


モ: そうやけど、もっとこう、ネットゲームにハマって引きこもるみたいな、きつい影響よ。廃人て呼ばれるくらいの。活字中毒って言い方はあっても、それはナルシスティック気味に自嘲してそう名乗ってるだけで、トイレは行くやろ。


い: え、ネットゲームにハマってる人はトイレ行かなくなるんですか。


モ: 最悪の場合は、うん。そうらしい。ぼくはネットワークゲームはせえへんけど。一人でできるゲームばっかり。


い: 他人と関われる娯楽活動は生活を侵食しやすそうですね。小説や演劇や映画はどうしたってじっさいの人間関係の代用にはなりませんから。


モ: ぼくは没頭するときくらい独りになりたいなぁ。他人と関わるなら純粋な虚構ではないでしょ。


い: それなら小説が一番ですよ。読書は完全に個の営みですから。


モ: 自分からも何か働きかけたいんよ。


い: 読書も主体的ですよ。たとえばミステリーは、散りばめられた手がかりから何が真相につながるか自分で考えながら読みます。そしてある程度、先に自分で道筋を立てるんです。

検事の夫が殺害された事件を捜査し、犯行に使われた装飾用ナイフの持ち主だった銀行員を聴取し、それが最近盗まれたことを聞いて捜査三課に参照し、空き巣の容疑をかけられていたがすでに釈放された男を探して繁華街を訪れ、…と行く先々で怪しげな人々に会いながらストーリーは進みます。

そうした犯人逮捕という最終目的のためのいくつもの副次的な目的が、連鎖的に物語をなしていきます。その点は先ほどおっしゃってたゲームに似ていませんか。


モ: うん。似てるかも。どんどんつながっていくから途中でやめられんくなるんよね。ドラゴンの秘宝を獲得したらそれを使ってまたゲーム内での目的ができるやろうし。


い: 完全に閉じた世界ですよね。モグラ太郎先生の場合、むしろ現実の生活を冒し始めている。


モ: 現実侵食というと昔、東京の街の一部を再現したゲームがあったんよ。すごいリアルに大通りとか店やらビルやらが再現されてて、ぼく当時はまだ東京行ったことなかったんやけどそのゲームの中ではマップ散策してかなり馴染んでた。それからしばらくしてじっさいにその街に行くことがあって、あれは独特な感覚やったなぁ。

あの交差点越えて曲がったら、繁華街の入口があるとかって、歩いてると事前に分かるんよ。デジャヴュって言うたらふつう一瞬の感覚やけど、あれはその街にいる間ずっとその既視感が続いてる感じ。

そのゲーム、舞台は現実の街やけど妖怪が出てくるファンタジーやったから余計に不思議な感じしたな。あ、ここ!ここに何回も来てお祓いしてもらってた、とか、架空の思い出がある。


い: 歴史ゲームやレースゲームでも、再現されたじっさいの街の風景の中でプレイするものがありますね。


モ: レースゲームもね。


い: そう言えば今やってらっしゃるゲームに車は出てこないんですか。車というかドローン以外の交通手段は。


モ: 背中に乗れるウォンバットと契約できるけど、あいつら封建主義者やから、こちらがもっと階級を上げてからでないと。いや、そっちを先にやった方が効率的か…。


い: そろそろ時間ですね。教養ラジオ「アルテスの中庭」、放送第6回。本日は「ゲームをするために他の用事を全部キャンセルしてひたすら没頭していたい」問題の探究者、モグラ太郎先生にお越しいただきました。先生、今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございました。それではまた来週。ごきげんよう〜。


音楽(トゥットゥットゥ〜…


い: 急いで帰らなくていいんですか。


モ: もうちょっと話そ。考えるヒントをくれん?財産貯めて階級を上げるか、山岳地帯に備えて戦力を上げるかどっちがいいか、なんやけど…。


い: 私はもう定時ですので帰ります。


モ: ええ…。


音楽(…トゥルットゥタラララ〜ン♪)

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