人間を挨拶ができる人と挨拶ができない人の2種類に分ける人と分けない人に分ける問題のパイオニア、モグラ太郎先生の回

音楽(トゥットゥットゥ〜タラララ〜ン♪)


パーソナリティ いちかわさとる: みなさん、こんにちは。いちかわさとるです。教養ラジオ「アルテスの中庭」の時間です。第4回目の本日は、「人間を挨拶ができる人と挨拶ができない人の2種類に分ける人と分けない人に分ける」問題のパイオニア、モグラ太郎先生にお越しいただきました。先生どうも、今日はお忙しい中ありがとうございます。


モグラ太郎: これってあれなん?毎回ぼくなん?


い: 私も今、それを疑問に思っていました。他の専門家の方はまだお呼びしてませんね。


モ: そうみたいやね。ええんやけど。いちかわさん毎回「お忙しい中」ていうてくれるけど、ぼくぜんぜん忙しくないからね。会社はまだクビになってへんけど、家おってもやることないしな。もうひと通りカンストしたし。


い: カンストというのは?


モ: ひまでゲームばっかしてるってこと。


い: ああ、ゲームのタイトルですか。


モ: うん、そう。いや、ちゃうけど、ええわ。ようは忙しくはないんよ。


い: 「お忙しい中」というのは挨拶みたいなものですから、あまり厳密にとってくださらなくてよいですよ。


モ: そうよ、挨拶って中身がないんよね。


い: 今回のテーマは挨拶でしたね。


モ: あのー、ぼくね、小学校のときすごい怖かったん。教室によく図版教材のポスター貼ってあるでしょ。あれに「世界のことばで『こんにちは』」ていうのがあって、世界地図にいろんな言語で「こんにちは」にあたる言葉が大量に並べて書いてあったんよ。


い: ああ、よくありますね。それが怖かったというのは。


モ: こんなにあるんや、と思って。


い: 世界に言語がたくさんあることに圧倒されたということでしょうか。


モ: いや。言語はなんぼあっても勝手にしてくれたらええんやけど、そのいっぱいある言語の全部が「こんにちは」に言葉を当ててるのが恐ろしかった。「こんにちは」て、言うたら、何も意味ないでしょ。そんな意味のない対象にこんなに言葉があるんや、て思って。千の名をもつ虚無ですよ、これは。


い: まったく無意味なわけではないでしょう。「ありがとう」や「ごめんなさい」と同じで、それを言う一定の社会的状況は前提されていますよね。


モ: まあね。「ありがとう」とか「ごめん」はわかるわ。でも「おはよう」とかはなくてもそんなに変わらんやん。ぼくは昔からそれを言わされるのを不条理に思ってた。今は一応、会社とかよそでは挨拶するけどね。義務教育のたまもので。

それでも挨拶せんですみそうなとこではせえへんし、まだ言い慣れてない挨拶は、ためらうな。「良いお年を」とか、年1やから一生慣れへん。毎年どうやって言わんといたろかと思てるわ。


い: たしかに、意義を理解しない人に対して説明しにくいものではありますね。


モ: 逆に仮に、ある日急に、会ったとき自分以外のだれも挨拶をせんくなったとして、いちかわさんがコーヒー片手にスタジオ入りして、

「おはようございます」

言うても、

「え、いちかわさんそれはなに?その『おはようございます』というのはどういう意味?」

て聞かれたら答えようがなくない?

「これは、早い時間ですね、という意味の形式化された話題提供でして…」

て説明しても、

「え、早いかな?普通じゃない?」

てなる。


い: 挨拶をしない文化に行けばそうなるかもしれません。


モ: そう。そして、挨拶をしない文化は、ないねん。存在せえへん。探したら1個くらいあるんかもしれんけど、少なくとも教室に貼ってあった世界地図の上にはないらしかった。これが一番恐ろしい。千の名をもつ虚無の神が支配しとるんですよ。目に見えないもう一つのバベルの塔はまだ倒されずに聳えとるわけですよ。


い: それは人類にとっては都合のいいことではないですか。


モ: 人類は知らんけども。


い: つまり、敵意がないことを初めに示すことで相互交渉が円滑に進められるわけじゃないですか。


モ: そういう役割はたしかにあるんよ。そのせいで挨拶をせん人間は敵意があると見なされる。ぼんやりしてるだけかもしれんのに、虚無の神の審判が下る。

だから逆にぼくは、挨拶ができる人と挨拶ができない人の2種類に人間を分ける人と、挨拶ができる人と挨拶ができない人の2種類に人間を分けない人の2種類に、人間を分けたい。そういう感じでやっていきたい。


い: そういうスタンスはあってもいいかもしれませんね。それで救われる人もいるかもしれません。一方で、社会でパスする道具としての挨拶の有用性は残り続けるでしょう。


モ: そうなんかなぁ。そんなん刺すか刺されるかの時代のもんちゃうん。よその部族が石槍で攻めてくるみたいな。


い: 現代も物騒ですから刺されるかもしれませんよ。


モ: そら刺す方が悪いわ。


い: たしかに。それでは、今日はこのあたりで。 教養ラジオ「アルテスの中庭」、放送第4回。本日は「人間を挨拶ができる人と挨拶ができない人の2種類に分ける人と分けない人に分ける」問題のパイオニア、モグラ太郎先生にお越しいただきました。先生、今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございました。それではまた来週。ごきげんよう〜。


モ: うん。


い: …。


モ: …。


い: …。


モ: …あれ?


い: …。


モ: いつもの鳴らんの?トゥットゥットゥ〜♪ていうやつ。


い: …。


モ: え?え?なにこれ、怖!


い: …。


モ: …ご、ごきげんよーぅ。


音楽(トゥットゥットゥ〜…


モ: あー…!


い: 言えましたね。


モ: もー…!かんべんして、ほんま…。


音楽(…トゥルットゥタラララ〜ン♪)


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