ぶつけてたらぜったい忘れるはずがないデカさの青痣ができてるのにぜんぜん身に覚えがない問題の大ベテラン、モグラ太郎先生の回

音楽(トゥットゥットゥ〜タラララ〜ン♪)


パーソナリティ いちかわさとる: みなさん、こんにちは。いちかわさとるです。哲学ラジオ「アルテスの中庭」の時間です。第5回はモグラ太郎先生にお越しいただきました。先生は「ぶつけてたらぜったい忘れるはずがないデカさの青痣ができてるのにぜんぜん身に覚えがない」問題の大ベテランです。先生、よろしくお願いします。


モグラ太郎: え?なんて?なに今回?何問題の大ベテランて?


い: 「ぶつけてたらぜったい忘れるはずがないデカさの青痣にぜんぜん身に覚えがない」問題です。


モ: ハッハッハッハッハ!なんやそれ…。


い: …。


モ: …ヒィーヒッヒ。はぁ。ぼくそんなん言うてたっけ。


い: 書いてますよ、ここに。ほら。


モ: ほんまや。ほな言うてるわ。忘れてた。

いや、でもわかるよ、言わんとすることは。そういうことはあるね。往々にして。


い: 知らないうちに打ち身の痣ができていると。


モ: うん。


い: 無防備なのでしょうか。たまに額を蚊に刺されている人はいますが。


モ: それは寝てるときやろ。もっとこう、昼間活発に動いてるときにぶつけたとか、何かに強くぶつかられたとか。それぐらいの痕ができてるんよ。


い: でも覚えていない、と。


モ: そう。ちょいちょいある。風呂入って初めて気づくねん。

あ、そや。こないだ会社でね、会社の給湯室でコーヒー淹れてたんよ。インスタントの。そしたら後ろで佐竹さんがモップを倒してん。たてかけてあったモップを佐竹さんが蹴ってしまったかなにかして。それがぼくの腰に当たって、そのまま床まで倒れんとぼくの腰にたてかかる状態になったんよ。

そのときにぼく後ろ向いてたからモップやってわからんくて、(モモンガや!)て思ったん。


い: は?モモンガ?


モ: いや、まじめにそう思ってん。モモンガが腰についとる、と。何かの物が飛んできて腰に当たったとは思ったんやけど、当たったあとポトッて下に落ちんと、重さの感覚がそのままそこに残ったからそう思ったんやと思う。飛んできてしがみつくのってモモンガくらいやろ?

べつにそれ全部ひとつずつ推理したわけじゃなくて、咄嗟に思い浮かんだんがモモンガやったんよ。人間けっこう一瞬でいろいろ考えるもんやね。

ほんで佐竹さん、「あ、ごめーん」言うから、ぼく「モモンガかと思いましたよー」て言うたら「は?」て言われた。


い: ふむ。そのときに青痣ができたんですか。


モ: いや、それはぜんぜん関係ない。痛くもなかったし。ぶつかったていう話で思い出しただけ。

青タンつくったんは忘れてるから、忘れてる話はできひんよね。


い: お手上げですね。ふだんも忘れっぽいんですか?


モ: うん。

たまにめっちゃ記憶力いい人おるでしょ。あったこと何でも思い出せる人。

たいぶ前に付き合ってた女の人がね、何でも覚えてて、たとえば昔二人でご飯食べたときグラタンにもみ海苔かかってたことがあって、その話したら彼女、それ岐阜に旅行いったときの話やて言うねん。そのレストランで彼女はブイヤベースとバケット食べて、ぼくは照り焼きチキングラタンと何か食べて、そのあと車で高山行って…。て、その前後のことも全部覚えてはるんよ。ぼくもグラタンにもみ海苔かかってたことだけは覚えてたんよ。びっくりしたから。でもいつどこで食べたとかは忘れてた。


い: 些細なことでも覚えている人がいる一方で忘れるはずのないことを忘れてしまう人もいる、ということですね。この違いは何に起因するのでしょうか。


モ: それよ。その彼女、自分の母親とすごい仲いいねん。毎日のように電話してて、お互いにその日あったこといちから全部しゃべってるんよ。いいことも悪いことも何でもないようなことも。それやってると覚わるんちゃうかな。


い: なるほど。反復再生学習で記憶が強化されるわけですね。


モ: そうそう。経験したときに1回、今日お母さんに何しゃべろう?て考えて2回、じっさいにしゃべって3回。そんなんひと通りしゃべる相手おらんかったら1回だけやから。日記もつけてないし。どんどん忘れてくよね。


い: それは青痣についても言えることでしょうか。


モ: そうやと思うわ。たとえば会社でファイル取りに行こうと思って歩いたときに机の角で太ももガンとやるとする。そこで「痛ったぁ」と言うてしばらくさすってたら、記憶に残ると思う。

でもだいたい次の瞬間には取りに行かなあかんファイルのこととか考えてるから、すぐ頭の隅に追いやられる。痣できるほど痛いけどほんまに無視できんくらい痛いの数秒だけで、すぐ薄れて鈍くなっていくから。


い: 注意力を分散できない性質もあるかもしれませんね。ファイルのことを考えつつ、痛む太もものことにも注意を向けていれば記憶の定着もできるかもしれません。


モ: かもしれん。なかなかゆっくりしてられんからね。あれもせな、これもせな、で。一個一個見てられへんから記憶のザルの目が粗いんよ。だだ漏れよね。興味ないことなんかとくに。

ぜったいね、ええことも思いついてるんですよ。みんな。面白いこととか大事なこととか。一瞬の間に考えられることって意外と多いからね。でもすぐ降りてきて、すぐ飛んでいくから、モモンガは。

いちかわさんも特許取れるようなこととか思いついて忘れてるかもしれんで。


い: 特許はわかりませんが、私はメモを採るようにしています。


モ: しっかりしてはるわ。ぼくは何もかも日々垂れ流しや。空虚な存在や。トイプードルのように。


い: トイプードルは空虚ではないですよ。


モ: あ、風船で作ったトイプードルね。あのー、バキュッ、バキュッて。


い: そう言わないとわからないですよ。風船のように、でいいじゃないですか。


モ: たしかに。


い: はい、では今日はこのへんで。教養ラジオ「アルテスの中庭」、放送第5回。今日は「ぶつけてたらぜったい忘れるはずがないデカさの青痣ができてるのにぜんぜん身に覚えがない」問題の大ベテラン、モグラ太郎先生にお越しいただきました。


モ: プッフフ…。


い: それではみなさん、ごきげんよう。


音楽(トゥットゥットゥ〜…


い: …まだツボに入ってるんですか。


モ: うん。あ、じぶん犬好きなん?


い: はい。


モ: ふーん、覚えとくわ。


い: 忘れるでしょ。


モ: ヒッヒッヒッ。


音楽(…トゥルットゥタラララ〜ン♪)

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