権威、モグラ太郎先生の回

虫太

自分の一番仲のいい友達の一番仲のいい友達が自分じゃない問題の権威、モグラ太郎先生の回

音楽(トゥットゥットゥ〜タラララ〜ン♪)


パーソナリティ いちかわさとる: みなさん、こんにちは。いちかわさとるです。教養ラジオ「アルテスの中庭」も、放送第3回を迎えました。今回は、「自分の一番仲のいい友達にとっての一番仲のいい友達が自分じゃない」問題の権威、モグラ太郎先生にお越しいただきました。先生どうも、今日はお忙しい中ありがとうございます。


モグラ太郎: うん。


い: さて、本日のテーマは「自分の一番仲のいい友達の一番仲のいい友達が自分じゃない」なのですが。


モ: ゆゆしき問題よね。


い: これにはやはり心理的、社会的な要因からみあっていると思われますが。


モ: うん、ゆゆしいよね。…あ~、どうしよかなぁ〜。今日。


い: え?


モ: いや、行かんとこうかな、と思って。


い: 行かないと言いますと?


モ: 飲み会。友達に呼ばれてるんよ。店は決まってないんやけど、18時から。いや、18時半やったかな。でも18時台やったわ。たしか。18時って言われると、なんとなく頭ん中でハチジっていう言葉だけ残って20時と間違えるときない?でもそんなに遅くなかったはず。


い: えーと、ご友人に飲み会に誘われていらっしゃる、しかし行くかは迷っておられる、と。


モ: そう、そうなんよ。どうしよかな。


い: それはどういった理由からでしょうか。


モ: だってあんま仲いい人おらんし。8人くらい来るらしいんやけど、仲いいの誘ってくれたそいつともう一人くらいなんよ。2、3人やったら行くけど。


い: しかし、行ってみたら意外と楽しいかもしれませんよ。新しい友達を作るいい機会とも考えられるのでは。


モ: みんなそう言うねん。行ったら楽しいかもしれんって。でもなぁ。あんまり知らん人とがんばってしゃべるのたいへんなんよ。そのときちょっと楽しくても帰ってきたら疲れるし。

そんで一番疲れるん何かって、知ってる?完全に初対面の人より、ちょっと知ってる人としゃべるときなんよ。

(この人と前どんなことしゃべったっけ、どんな人やっけ)

とか、そんなことがあいまいなまんまでまた次会って話さなあかんときが大儀ぃんよ。無視するわけにもいかんし。それ考えると下手につながり薄い友達つくれへん。


い: なるほど。つまりそういったリスクを事前に避けるために大人数の飲み会には行かない、と。


モ: うーん。それもなぁ〜。それもそれで、それなんよなぁ。


い: 行かない場合にも問題がありますか?


モ: 行かんかったらやで?今日ぼく夜ひとりでご飯食べなあかんやん。いや、いつもはだいたいひとりで食べんねん。それはええねんけど、集まりを断ったあとのひとりの夕食はちゃうやん。

(あいつら今ごろ、盛り上がってるやろうなぁ)

て思いながら食べなあかん。それで明日かあさってあたり言われんねん。

「なんで来なかったの?」

「来ればよかったのに」

「すごい盛り上がってたよ」


い: つまり、行く場合には社交上のストレスから消耗することが予測される。しかし行かなければ疎外感を強いられる。そこにジレンマがあると。この板挟みの解決策はあるのでしょうか。


モ: ないね。ない。え、自分やったらどうするん?逆に。知らん人ばっかの飲み会呼ばれたら。


い: 私はふつうに行きますね。行って友好関係を広げます。


モ: あ、そうなんや。ふーん…。そういうアレね。ちょちょいとこなしちゃうタイプなんね。


い: …。えーと、ではこのジレンマが生じる原因はどこにあるのでしょう。


モ: 原因?うーん、なんやろね。


い: 誘われたことでしょうか。


モ: いや、それはちがうわ。最初っから声かけられてなかったらもっとモヤモヤするやろ。

ていうか、そうやな。飲み会があるってぼくが知ってるか知らんかも、ほんまは関係ないねん。関係なく「伊良志亭」は世界中にあんねん。


い: イラシテイ?


モ: あ、ぼくがよう行く居酒屋のこと。安いんよ。囲炉裏と〜癒やしのあるところ〜伊良志亭にどうぞいらして〜♪これ、伊良志亭の歌。


い: 世界中にあるんですか?


モ: いや、店舗はたぶん県内だけやわ。知らんでしょ、こっちの人。

そういうことやなくて、「伊良志亭」に相当するものが世界中にあるということですよ。


い: ほう。


モ: 知ろうと知るまいと、どこかでだれか集まって酒と肴を楽しんでいるわけです。お前が家でパックサラダと缶詰と白いご飯をつついているその時も、どっかでよろしくやっておるわけです。スペインのバル、ロンドンのパブ、台北の夜市、イスタンブールのロカンタ…。地球が回り日が傾いて、灯りがともるが早いか、それは乾杯とともに始まるのですよ。その日の仕事が終わるころ東から西へ地平を走る夕闇が、静かな孤食を、賑やかな酒場や温かい家庭から、厳然と分断していくわけです。

それをどう考えるかは自由やけど。


い: なるほど。そしてまた賑やかな方へ飛び込んでいくという選択肢もあるわけですね。


モ: そやなぁ。行った方がいいんかな。どうしようかな。でもなぁ。やめとこ…。


い: はい。それでは、教養ラジオ「アルテスの中庭」、放送第3回でした。今日は「自分の一番仲のいい友達の一番仲のいい友達が自分じゃない」問題の権威、モグラ太郎先生にお話しいただきました。先生、今日はお忙しい中お…


モ: あ、メール来てるわ。


い: …お越しいただきありがとうございました。それではまた来週。ごきげんよう〜。


音楽(トゥットゥットゥ〜…


モ: え、ちょっと待って。店「饗膳苑」になったって。焼肉やん!やっぱ行くわ今日!それやったら。


い: はい。好きにしてください。


音楽(…トゥルットゥタラララ〜ン♪)


モ: あ~、でもなぁ…!

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