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「そういう訳で、私はあの人の前ではコーヒーを飲めなくなったのよ」


「どうして?」


「だって、どんなに美味しいコーヒーでも、私、ブラックじゃ無理、苦くて」


「ああ、砂糖3杯は入れてるもんね」


「ミルクをたっぷりは賛成よ。でも、一番失礼になるのが」


「熱いうちに味わう、か。猫舌だもんね、アンタ」


「そう。だから私はあの人と一緒の時には、アイスティーとか、コーヒー以外のものにしてたの。本当はアイスコーヒーが飲みたくても」


「好きなんだね、その人のこと」


「何で?」


「嫌われたくなかったんだろう? コーヒーに失礼なヤツ、なんて思われたくなかったんだ」


「……多分、そうなんだろうなあ」


「それで、結婚するのが面白くないんだ」


「ちょっと違うかな。あんなにこだわっていたくせに、乗り換えたのが腹がたつのよ」


「乗り換えた……って?」


「初めて相手の人に紹介された時ね、アイスコーヒー頼んだの、その人」



「?」



「オマケに、ガムシロもミルクもたっぷり入れて、ガシガシかきまぜてから飲んだのよ」


「……まんま、アンタの飲み方じゃん」


「そうよ! 私が今まで、散々ガマンしてきたことを、ソイツは何の気なしに、当たり前のようにやっているのよ!」



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