第34話 裁定の儀式
金属加工技術が得意なドワーフ族を探してドワーフ族の里まできた。
出来れば鍛冶師のドワーフを雇って俺達の拠点の砦まで連れて来たかったのだ。
ドワーフ族の里は半年前から続く火山噴火の影響で壊滅的な打撃を受けて生存者は35名しかいなった。
そのドワーフ族の生き残りをドワーフ族の里の出入口付近で見晴らしの良い高台まで連れて来た。
最初に助け出した重傷者は俺達の馬車に入れてこの場所まで運び込み、その馬車がそのまま重傷者の病院になっている。
いくら小柄なドワーフ族とはいえ狭い馬車の中では感染症の関係等で治療には限界がある、それに怪我人は彼等だけではない大なり小なり連れて来たドワーフ族の里の住人全てが怪我をしている。
彼等の雨露を防ぐ建物も必要になってきた。・・・いまのところ俺が倒したドルウダの皮や戦闘ウサギの皮で造った簡易テントで我慢してもらっている。
俺は近くの森に入って木魔法で木を倒し、魔法の袋に入れてその木を運んで小屋やベットをつくることにした。
簡易の病院や宿泊施設の建設だ。
真やアリアナだけではない、この場所に呼び寄せたエルフ族の巫女さんや巫女見習も木魔法は得意なので治療の合間を見つけては木の切り出しや木の加工を手伝ってもらった。
おかげで病院等の建築は順調に進んだ。
最初に運んだ重傷者は個室だが、残った患者はまとめて面倒を見れる大部屋にした。
パテーション(間仕切り)を木で作って、感染症対策も施した。
森の中の木を切った後には病院用の野草園を作る。・・・木の精霊から産まれたエルフ族のアリアナや巫女さん達が熱傷用の野草を造ると一晩で出来上がった。
野草園の花に蜂が群がったので蜂の巣を探して蜂蜜を採取した。
蜂蜜は食べる為もあるが火傷の治療用にも使えるのだ。
この世界では火傷の特効薬と言うか全ての怪我や病気に対する万能薬で、魔獣の血を飲ますと言う方法があるとエルフ族の巫女さんに言われた。
火傷を負ったドワーフ族の血の臭いを嗅ぎつけたのかドルウダが寄ってきた。
魔獣は死ぬと心臓に血が集まって魔石になってしまうので、魔獣の血を取るためには生け捕りにしなければいけない。
これがなかなか難しいのだ。
ドルウダを木の檻を使って生け捕りにしようとしたら、危険を感じたのか爆死してしまった。・・・もう少しで巻き添えになるところだった。あぶねーあぶねー!
それならばと同じく血の臭いを嗅ぎつけた戦闘ウサギがやってきたので同様に木の檻を使ったら強烈な回し蹴りで木の檻を壊して逃げ出した。
鉄の檻を使ったら、土魔法の成分魔法で鉄の檻をグズグズにして逃げ出した。
ザルーダの爺さんがアリアナを地下牢から出す時に使っていたが、魔獣まで同様の方法を使うとは・・・驚きだ。
今度は襲ってきた戦闘ウサギの両足を切り飛ばして、木に括り付けて血を皿に受けた。
今度は上手くいったと思ったが、戦闘ウサギが亡くなった途端、皿に受けていた血が戦闘ウサギの体へとフイルムを逆回転するようにして戻って行った。
何度か戦闘ウサギの両足を切り飛ばして、血を皿にうけて直ぐにドワーフ族に飲ませたり傷にかけたりした。
それにある一定の距離まで行くと血は戻らない事を確認したので、万能薬としての血を確保することに成功した。・・・ただこの血は三日と持たないのだ。俺の魔法の袋に入れれば問題は無いが、俺がいない場合の血の保存用の魔法の袋の作製は今後の研究課題だな。
ザルーダの爺さんが持っていた魔法の袋は先祖伝来の家宝ともいうべきもので、魔法大全にも載っておらず、ザルーダの爺さんも作り方は知らないという。
何はともあれ戦闘ウサギの血のおかげでドワーフ族の火傷は劇的に治療されていったのだった。
しかし、少年盗賊団の時もそうだが助け出したドワーフ族も汚くて臭い。
火山の噴火で壊滅的な損害を被った為ばかりではない、この地方はカルシウムが多く含まれた硬水の為に川の水どころか井戸水を使って体を洗っても硬水に含まれたカルシウム等で白い粉をふいたようになってしまい、それを嫌がって体を拭くだけで風呂に入る習慣が無いのだ。
それに井戸水を掘っても硫黄の臭いが強い温水ばかり出て飲料水には適さないと雨水を溜めて飲料水にしているそうだ。・・・う~ん俺や真から見ればこの付近は有力な温泉地帯であり、温泉に浸かりたいものだが。
雨水を溜めて飲料水にする理由は、ドワーフ族はエルフ族と違って火魔法は得意だが水魔法が不得手で、水魔法を使える者が一日頑張っても洗面器一杯分ぐらいしか出すことが出来ないからだ。
ドワーフ族は風呂に入る習慣が無いとはいえやはり強烈な臭いがする。
それで病院の隣に風呂場をつくる。・・・火傷よりも雑菌等の感染症でこの人達が亡くなってしまう。
俺は土魔法で地中の水源を探して井戸を掘ることにした。
近くには大河という程の水量の多い川が流れているが、ここまで水路を作る時間がないからだ。
捕まえた戦闘ウサギの魔石を使って井戸を掘ることにした。
魔石を手に持って殴るのではなく、魔力を流しこむ方法だ。
そんな事を考えながら、まずは水源探しを始めたら、何と拠点とした高台の近場にある岩場の影からチロチロと温泉が流れ出ていた。
流れ出ている温水は本当にわずかなもので、流れ出る端から地中に消えていくほどだ。
それで、井戸を掘る目的で戦闘ウサギの魔石を持っているので水量を多くするため水源に向かって真直ぐなパイプをイメージして使ってみたらものすごい勢いで流れてきた。
ただ、その温泉水は温め直す必要も無い程の高温で、高温過ぎて蒸気だけでも茹で卵や蒸し野菜が出来るほどだ。
風呂の水はこの流れ出た温泉水を利用するが、やはり水質は硬水で非常に不純物の濃度が高い、特に高濃度のカルシウムが含まれており髪を洗って乾かすと白い粉をふいたようになる。
それでさらにこの温泉水を火で温めて、水蒸気を作りそれを冷やして水にすると言う気の長くなる方法で飲料水や上がり湯を作ることにした。
飲料水や上がり湯を作ると言ってもドワーフ族は鍛冶職人としては優れているが、科学知識がほとんど無い。
伝統的に刀や鏃を土魔法で金属を土から抽出して加工しているだけらしい。
それに彼等が持ち出してきた鉄製の鍋や釜は歪で、何でもこれらは鍛冶見習いが造り出すらしい。
武器を造る鍛冶職人が最高で、生活の為の鍋や釜を造る鍛冶職人はほとんどいないそうだ。
それに鋤や鍬について聞いても石で出来た鋤や鍬を使えば十分だという。・・・う~ん彼等の常識から変えていかなければ!
ドワーフ族は火魔法は得意だが水魔法は不得手で、ドワーフ族の里やいまの拠点としているここでも雨水を溜めて飲料水にするなど水には苦労している。
それで実際に水蒸気から水を作り出す方法を説明するために、この世界でも使われている薬缶を火で温めて、薬缶の口から出る水蒸気に鉄板を当てると水滴が出来るのを見せた。
その水滴を集めれば良いと説明して装置を羊皮紙に描いた。
武器鍛造だけがドワーフ族の掟かと思ったが発明品の製作には意欲がわくようで、それを見て怪我が軽かったドワーフ族の鍛冶職人が金属でかなり大掛かりな本格的なものを作ってくれた。・・・と言っても羊皮紙にアラビア数字でセンチメートルの長さの単位を書き入れたのだが、そのアラビア数字やセンチメートルの単位で大騒ぎになった。
アラビア数字についての説明やセンチメートルやキロの単位の説明で1日費やしてしまった。
話を聞いていたドワーフ族の鍛冶職人が地図作りの際に俺達が持っていた物差しを基準に金属製のセンチメートルの測定基準器を作ってもらえた。
話を理解すると仕事が早いドワーフ族の鍛冶職人達が蒸留水を作る装置をあっという間に完成させて、火魔法が得意な鍛冶職人達が火入れを行った。
それのおかげで飲み水どころか、予定の風呂用の水などの水作りは順調になった。
ある程度ドワーフ族の火傷の治療が落ち着いたところで、今後の身の振り方についてドワーフ族の里民全員の意思を決定する最低の儀式を行う事になった。
それで気に食わないドワーフ族の偉そうなおっさんをドワーフ族の里まで俺は探しに行った。
ドワーフ族の里に入ると奴は泣きそうな顔をして俺を見ていた。
奴は里の収入役で大量の金を背負っており、その金は里の大事な資金だと言っていた。
金を背負った奴を連れて小高い丘の拠点まで帰ったが、ドワーフ族の里の者は誰も歓迎しなかった。・・・奴の妻や娘もだ。
奴の妻は俺が最初に運んだ重症患者の五人の内の一人だった。
五人は一刻を争う程の重傷でザルーダの爺さんのお陰で九死に一生を得たのだ。
誰か一人でも奴のおかげでドワーフ族の里において置かれたら命はなかったかもしれなかった。
また奴は収入役を良い事に私腹を肥やして、ドワーフの国の王都に行っては豪遊を繰り返していた。
当然ドワーフ族の里内の噂になり、村長の裁定を受ける身になっていた。
それが今回の地震騒ぎで有耶無耶になった。
それどころか半月前の噴火騒動の時に、村民を助ける為に村長は重傷を負い、助役は奴の家族の妻と娘を助ける為に命まで失ったのだ。
村長の傷も癒えてきたので村民の今後の身の振り方と、助役の悪行の裁定の為に未だ余震が続くドワーフ族の里から奴を連れだしてきたのが実情だ。
奴はその災害の度毎に
「村の財産を守る。」
と言ってシェルターのように頑強な村の宝物庫に籠っていたのだ。
奴の怪我は宝物庫の棚から落ちてきた壺が当たっただけだ。
奴は村の三役の収入役であり、村長が重傷、助役が奴の妻や娘を助け出す最中に亡くなった事を良い事に好き勝手に村民を扱い始めた。
奴の妻が助役に助け出されたが、その後の火砕流で重傷を負い顔が火傷で醜く崩れてしまった。
その妻の見舞いもしないで、生き残った若い女の尻を追いかけていた・・・以前から女好きだが、助役が奴の妻や娘を助けたことに不信感を抱いたのもあるのだろうか?こんな有事の際なのに、さらに女好きに拍車がかかったようだ。
奴の娘は激怒した。
母親の見舞いにも来ないで、尻を追い回した生き残った若い女は奴の娘の友人達だったからだ。
妻も怒っていた。
見舞いにもこない事ではない、家族よりも自分の身が可愛いと宝物庫に入っていたことや、我が身可愛さで最初に逃げ出そうとしたことについてでだ。
それに助役が彼の妻や娘を救ったのは隣人であり、倒壊しかかった家に火がでたので助け出そうとしただけなのだ。
その時運悪く家の梁が助役の体に落ちかかり、火の手が早く助け出そうとした助役が亡くなったのだ。
村民も奴の所業について怒っていた。
これから奴の身の振り方だけでなくドワーフ族の里の全員の身の振り方について協議の為に
『裁定の儀式』
がとり行われることになった。
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