第33話 ドワーフ族の里

 俺達の砦から金属加工技術に優れたドワーフ族の里の出入り口まで1か月近くも費やしてようやくたどり着いた。

 この出入口からドワーフ族の里までの10キロもの間、火山性有毒ガスが噴き出している天然の障壁となっている場所を通らなければならない。

 その火山性有毒ガスの噴出する煙のおかげでドワーフ族の里にある製鉄所や多数の鍛冶屋から立ち昇る炎の煙が見えにくくなっている。

 それに火山性有毒ガスの噴き出す場所に人が住む村をつくるなど、誰も考えつかなかった盲点を突いた場所だ。

 それでエルフ族と同様にドワーフ族も幻の種族と呼ばれている。

 エルフ族はその容姿と知識で、ドワーフ族は俺達が手に入れたい金属加工の知識と技術で見つかると奴隷にされることが多い種族なのだ。

 

 ドワーフ族の里に向かう火山性有毒ガスの噴き出す危ない道路を、俺は風魔法を使って俺や同行者の周りに新鮮な空気のドームをつくりだして歩く。

 腐卵臭のある火山性ガスの臭いを馬が嫌がり、それに馬に乗って行くには範囲が広くなりすぎるので、ドワーフ族の里の出入口の安全な場所に馬と共にソルジャーのおっさんと男爵家の双子のドーンとソドムを置いていく。

 彼等は待っている間、少し離れた周辺が見渡せる小高い丘の上を切り払ってちょっとした拠点を造ってもらう。

 馬が逃げ出さない程度の囲いを作るぐらいなのだが。


 俺のつくりだしている新鮮な空気のドームの範囲の影響か、火山性有毒怖ガスが時々吹き出して怖いのか天使族のアンソワーとアンドリューが俺の両手にしがみつく、それを見て真がいきなり俺の前に来てお姫様抱っこを要求してきた。・・・真の目が怖い。

 真をしっかりと抱き上げる。


 真が

「この世界は一夫多妻は可能だが、私が認めた相手だけよ。」

と俺や天使族の二人に釘をさす。・・・いやいやいやいや一夫多妻を認めているよ真さん!


 天使族の二人が

「それじゃ認めさせてあげるよ。」

と言うので、真が

「受けて立つは!」

等と答える。・・・おいおいおいおい俺を巡って美女三人か!


 俺の背中にいきなりアリアナがおぶさってきて

「私も淳一には恩義があるから、私も認めて!」

等と言っているよ、アリアナは見た目小学校低学年だが実年齢は24歳で俺より年上なのだ。・・・アリアナの師匠のザルーダの爺さんの目が怖くなった。


 そんな風にじゃれ合いながら俺達は有毒ガスの噴出地帯を通り抜けてドワーフ族の里に辿り着いたのだ。

 ドワーフ族の里に辿り着いて驚いた。

 俺達が魔法を使う為の器官の際に発生した火山活動の影響か、ドワーフ族の里もその火山噴火活動に伴う地震と火砕流の為か建物が全て壊滅して埋まり地獄のような有様だ。

 それに悪いことにドワーフ族の里の中にまで時々有毒ガスが流れ込んでいる有様なのだ。


 俺と真が魔法を使う為の器官が発現した時に、いつもではない火山噴火の活動が起きた、その噴火からおよそ半年後にこのドワーフ族の里に着いたことになる。

 ドワーフ族の里の家々や鍛冶小屋が燃え落ち火砕流で埋まってしまい、肝心のドワーフ族の姿が見えない。

 地震から半年近くも経っているので生存者は皆無と思われたが、それでも里の中を生存者を求めて探して回った。


 見つけた!

 怪我をしている者が多いが、およそ35名がドワーフ族の里近くの鉱山に逃げ込んで生き残っていたのだ。

 いまだに火山活動が活発化しており時々小さな地震を感じる、そのうえ火山性ガスがこのドワーフ族の里にも時々流れ込んでいて危険な状態だ。

 残った怪我をして鉱山に逃げ込んだ35名のドワーフ族をこのままここに残しておいては生き残れない。


 イチャイチャしていた天使族の双子が俺に代わって風魔法を使ってドワーフ族の生き残りの為に新鮮な空気のドームをつくり出していく、二人は俺に向かって

「馬車を魔法の袋から出して早く!」

と叫ぶ、イチャイチャされて鼻の下を伸ばしていた俺は抜かった!・・・天使族なので風魔法を使えるのは当然だ。両腕に天使族の乳房が当たる感覚を楽しんでしまっていた。


 魔法の袋から出した馬車を出したところで、怪我も無く元気そうな華美な服装をした偉そうな者が真先に乗り込もうとする。

 摘まみだして重傷者から乗せる。・・・何か喚いているが、無視だ。治療の順番だ!トリアージと言う奴だ、アリアナの師匠で治療魔法が上手なザルーダの爺さんも乗り込む。


 ザルーダの爺さんが

「余震が続き、火山性ガスの噴出する場所では落ち着いて治療にあたれない。早急に重傷者と出入り口まで出て治療に当たりたい。」

と言うので、最も火傷の怪我が重い五人の重傷者とザルーダの爺さんを馬車に乗せて馬車ごと担いで走る。・・・馬車を引っ張ると馬車の中が大変だ!それで俺が担いで走ることにしたのだ。


 身体強化魔法と風魔法の二種類を同時に使用して向かうのだ。それを見て何か喚いていた元気そうな偉そうな奴が腰を抜かしている。・・・後で聞いたが別系統の魔法を同時に使える人はいない。そもそも二種類の魔法を使える人も稀なのだ。・・・う~ん⁉俺や真は全系統の魔法が使えるのだが規格外か⁉


 真とアリアナはその他の生き残ったドワーフ族の手当てを始めた。・・・ドワーフ族は土魔法や火魔法が得意だが水系の治癒魔法を使うことが出来る者が極端に少ない。

 真とアリアナでは簡単な治癒魔法しか使えない、ザルーダの爺さんの方がはるかに優秀な治癒魔法の使い手だ。

 身体強化魔法で6人もの人が乗った馬車を担ぐ、緑の魔石を乗せていれば軽いのに。・・・愚痴を言っていても仕方が無い!早くいかなければ。

 この場の新鮮な空気は天使族の二人に任せて、俺は馬車を担いでソルジャーのおっさん達がいる小高い丘の上の場所に向かって火山性ガスの噴き出す中を駆け抜ける。


 俺が怪我人を乗せた馬車を担いでソルジャーのおっさんと双子が待つ場所まで駆け戻った。

 その場所からもう一度ドワーフ族の里の中まで今度は馬で馬車を引かせて行こうとしたが馬がやはり言う事をきかない。

 腐卵臭のある硫化水素のなかに無理をしてまで行く馬はいない。


 ザルーダの爺さんが

「馬車は治療所にそのまま使う。」

と言う、魔法の袋の中には、まだ荷馬車が入っているので残った人は荷馬車に乗せて運ぶ事にした。

 ドワーフ族の里までは荷馬車は魔法の袋に入っているので、そこから戻る時は今回と同様、出入り口までは俺が馬替わりになるか!


 ドワーフ族の里からかなり離れたこの場所でも不気味な地鳴りと共に時々余震が続く、ドワーフ族の里に残した真達が心配だ。

 治療中のザルーダの爺さんが

「ドワーフ族のこの怪我や火傷は最近のものだ。」

という。・・・どうも半年前の魔法を使う為の儀式の際の噴火とは別で、最近この地方でも噴火が発生したらしい。


 今は俺達のアジトになっている元少年盗賊団の砦には木魔法が得意で治癒魔法が上手なエルフ族の6人の巫女さんや巫女見習が15人もいるので何人かに来てもらうことにした。

 ドワーフ族の里の出入り口で待っていたソルジャーのおっさんと男爵家の双子が砦のアジトに向かった。

 ここまで来るときにある程度道路を整備したので道に迷うことは無い。

 俺はソルジャーのおっさんと双子を見送った後、ドワーフ族の里に戻ることにした。


 ドワーフ族の里にいる真達が心配で身体強化魔法をフルに使って、あっという間にドワーフ族の里に俺が戻ってきたのには真達が驚いている。

 ドワーフ族の里に着いたところで日が暮れてきた、今日はここまでだ。

 残りは明日だ。


 生き残ったドワーフ族を連れて今まで居た鉱山に入る。

 鉱山内は土魔法が得意なドワーフ族の手によって強化され、一応シェルターになっていて中は割と広い。

 俺は魔法の袋から土産物の果物や途中で狩ったドルウダの肉等を出してドワーフ族に振る舞う。・・・魔法の袋の中は別次元で時間が止まっているので果物はみずみずしいままだった。・・・う~んこれならドライフルーツを作る必要は無かったか?


 ドライフルーツは保存食としてだけでなく味の変化の楽しみもある。

 やはりドワーフ族もドライフルーツは最初は腐った食べ物だと敬遠していたが、好奇心の塊である子供達がおっかなびっくり食べて美味しかったのか載せている皿ごと取って食べ始めた。

 ここでも偉そうにしていた奴が、別室で真や天使族に給仕して食事をすると喚いていたが付き合いきれないので無視した。


 真は怪我人の手当て、天使族の二人はだいぶ汚れたシェルター内の空気の除染で手が離せないのだ。

 シェルター内で生き残ったドワーフ族を再度確認すると子供を含めて35名だった。

 全員怪我をしているが、荷馬車に一遍に乗せれる人員は無理しても十人程だ。


 治療し食事を出したりしたので生き残ったドワーフ族の信頼を得たのか、ドワーフ族の里に起こった悲劇を話してくれた。

 やはり最初の小噴火が半年前に発生している。

 その時の地震によってドワーフ族の里の建物の多数が半壊した。


 この時点では里にはドワーフ族が500名程が住んでいた。

 ここに住んでいる住人は近隣にあるドワーフの国に住んでいたが、ドワーフの国でも産まれた子供を捨てなければならない程の重税に苦しみこの場所に逃げ込んだ。

 それでも半年前の建物の倒壊と火山性ガスが吹き荒れるこの里の過酷さに悲観して200名程のドワーフ族の住人が、ドワーフの国に逃げ戻って行った。


 惨劇は更に続いた。

 その時に残ったドワーフ族の住民が力を合わせて里の再建に努力をした。

 ところが今も不気味に地鳴りをして余震が続いているが、ほんの半月ほど前にドワーフ族の里にほど近いこことは別の鉱山付近で噴火が起こり火砕流がドワーフ族の里にまで流れ込み、ドワーフ族の里がまたも壊滅して生き残った者がこの35名になってしまった。


 翌朝、俺は残った重傷者や歩けない者を荷車に乗せる。

 残りは歩けるので歩いて向かう、偉そうな奴がまた荷馬車に乗ろうとしたので摘まみだす。

 あきらめたのか偉そうな奴がブツブツ言いながら歩く。

 偉そうな奴が天使族のアンソワーが風魔法を使って空気のドームをつくって歩くすぐ後ろだ。

 天使族の美少女だ、偉そうに歩いていた奴が何を思ったのか襲い掛かった。


 俺の堪忍袋の緒が切れた。

 荷馬車を置くと奴の首根っこを持って捩じり倒した。

 偉そうな奴をそんなに歩いていなかったので元居たドワーフ族の里に放り投げた。

 知らんあんな奴。・・・アンソワーが嬉しそうについてきた。

 よく考えたら天使族のアンソワーとアンドリューは性奴隷と言うよりも暗殺業を得意とする戦闘奴隷の方だった。

 アンソワーが本気で怒ったらと思うと・・・。


 34名になったがドワーフ族の里の出入口に無事に辿り着いた。

 最初に俺が運んだ重傷者5名は治癒魔法に優れているザルーダの爺さんでも手古摺っている。

 ここからあまり動かしたくないほどの重傷者だ。


 ザルーダの爺さんや真やアリアナもいるがこれだけの重傷者を助けるのは無理がある。

 ソルジャーのおっさんがドワーフ族の里の現状の説明を行い、男爵家の双子が巫女さん2人と巫女見習5人程連れて来てくれた。

 ソルジャーのおっさんはドワーフ族の里の件が長期になるだろうと砦に残ることになった。

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