第32話 ドワーフ族の里へ(その2)
ドワーフ族の里までの道が悪いのには閉口する。
それにこの世界ではどこへ行こうと魔獣が横行しているのだ。
冬眠を終えて腹を空かせた魔獣達が
この地方では特に雪が終わり体毛が黒くなったドルウダが時々群れになって襲ってくる。
冬眠前に襲われた時の様な何千頭ものドルウダの大集団ではなく、家族数十頭による集団で襲ってくるのだ。
その家族の中には冬眠の間に産まれた若い個体が多いので、その狩りの練習も兼ねて襲ってくるようだ。
ドルウダは魔獣なので倒すと心臓に血が集まり魔石となるので血抜きする必要が無く、肉はその見た目に反して美味いので喜んで狩った。
ドルウダの魔石も爆裂魔法を使える魔石でとても有用なのだ。
ただ産まれたばかりの若い個体を倒して手に入れた魔石は
襲って来るから狩っているのだ。
それに俺達も生きる為に狩った彼等を美味しく頂いているのだ。
余った肉は俺の魔法の袋に保管だ。・・・う~ん何という容量だ!俺の魔力量がダンジョン以降もまた増えたのかまだまだ余裕がある。
ドルウダの体を覆う毛皮は、冬の毛皮と違って毛の空洞に黒い染料がたまっていて、死ぬと黒い染料が流れ出すのだ。
この染料は非常に苦いので解体する時は、肉に付かないように注意しなければならない。
この染料を筆記用具のインクとして使う為に壺に入れて集めている。
最初にこれを使ったのはザルーダの爺さんから魔法大全を書き写すように言われた時に、ドルウダの染料と羽ペンを渡してくれた。
他の筆記用具・・・例えば前世から持ち込んだシャープペンやボールペン・・・を使っても俺の脳にその知識が入り込む不思議な能力は無いのだ。・・・う~ん前世の受験勉強の際にこんな筆記用具があれば満点だったのに!
ただ、どうもこのような現象は俺だけのようなのだが・・・⁈このような現象が他の人類や亜人に起きていれば文盲率が飛躍的に改善されている。
ドルウダの他には、この世界ではどこにでもいるお馴染みの気の荒い戦闘ウサギが木陰から飛び蹴りを仕掛けてくる。
こいつの肉は思っているほど美味しくない。・・・食べ飽きたのも有るかも知れないが・・・。
ただこいつの魔石は土魔法の魔石で道路整備にはもってこいの魔石だ。
土魔法が使える者が、この魔石を握って地に手をつき穴や塀等をイメージをすると穴や塀が出来る。
試しに道路もイメージしてやってみたら道路が出来上がった。
魔石はその際グズグズと崩れ去るが、この魔石1個で幅3メートル程の石畳の道路が10メートルほど造ることができた。
魔石が無ければ普通は一人で1日で5メートルも出来れば上出来なのだ、それにそのあとは魔力切れで目を回して休憩用の馬車の中でお休みだ。・・・俺は普通の魔法の上位に位置する精霊魔法を使えるが、あまり精霊達を酷使すると気まぐれな精霊達が嫌がって集まらなくなり肝心な時に使えなくなるので封印している。
獣道のような細い道で荷車や馬車を魔法の袋に入れて使わないが、時々行く手を塞ぐ大岩や崖の細い道があるので馬が歩けるほどの道幅にして、通行の難所だけ土魔法を使うことにした。
本当にドワーフ族の里までの道は行き交う人も皆無の為か整備されておらず、獣道のような細い道で異常に蛇のように曲がりくねり、高低差が凄い。
これをできるだけ真直ぐにしていく、途中で俺達が進んでいる獣道と同じような道が分岐する場所が何ヶ所もあった。
これではザルーダの爺さんのように道をよく知っている者がいない限り、この世界には無い方位磁石や地図を持っていない他の旅人では本当に獣道に迷い込んでしまいなかなか帰ってこれない者も出る始末だろう。・・・孫氏の兵法に
「兵は
という、いかに素早く部隊運用ができるかということだ。拙速の為にも道路の改善が必要なのだが・・・。
進んでいるうちに目の前に下手な4階建てのビル程の大きな岩山が道路を塞いでいる。
俺は戦闘ウサギを倒して得た、この土魔法の魔石を握ると、身体強化魔法を使って、魔石を握った腕を強化して思い切り大きな岩を殴りつけた
『ドコーン』
と言う音がして・・・「あれ?」大きな岩山には何の変化がない。
俺の握っていた魔石はグズグズに崩れて粉みじんになっていた。
俺は不思議に思って大きな岩山を指で突いて見た。
途端に
『サーッ』
と言う音と共に大きな岩山が崩れて風と共に無くなった。
岩山が無くなったのはいいのだが、黒々と地面に大穴が開いた。
足元を見て・・・しまった!この大岩は地面から出ているより、地下の方が大きかった。
そう思った途端、轟音をあげて足元が崩れた。
身体強化魔法を使ったままだったので、大穴の底に落ちても怪我一つ無かった。
地上から出ていた4階建てのビル程の高さの大岩が12メートル程で、大穴の深さが20メートル程だった。・・・それでも大丈夫だった、スゲー俺の体!
身体強化魔法を使ってあっという間に大穴から這い上がった。・・・本当にスゲー俺の体!
穴から出たところでザルーダの爺さんに
「危ない事をするな!腕どころか命が無くなるかもしれない‼」
と言って、目から火が出るほど殴られた。
それも持ていた杖でだ。
ザルーダの爺さんの杖は孫悟空が持っていたような如意棒である。
孫悟空の持っていた如意棒は、正式名称、
ザルーダの爺さんが扱うので孫悟空が振り回した約八トンもある如意棒ではないが自由に長さが変わるようだ。
その如意棒の両端の金の輪が頭に当たったのだ。・・・頭がへこむ代わりにたん瘤が出来た。
どうやら以前にも俺と同じことを考えて、魔石を握り大岩を殴って、大岩どころか自分自身も粉微塵にした者がいたようだ。
その魔石がドルウダの爆弾魔石で、これを握って爆発させたのだが、それがヒントになり魔銃が造られたそうだ。
エルフの隠れ里にも、古い魔銃が整備されないまま放置されている。
金属部分の劣化だ、どうしても銃身や重要な部品を強度の関係から金属で造らなければいけないので、その後は整備どころか製造もされていないと言う。
ドワーフ族と会ったら古い魔獣整備と新しい魔銃製作もお願いしてみよう。
今後はこのような大岩に出くわしたら、道路造りと同じ要領で大岩に手を置き対象物をどうしたいかイメージして魔石に少しづつ魔力を注いでいけば大岩が変化すると言われた。
魔石を使った場合、魔法の威力調節に非常に役に立つのだ。
俺は細かい魔法の威力調節が苦手なので丁度良い練習になった。
しかし問題は、こんなデカイ大岩山を原子の塵にして消してしまったことだ。
大岩山を迂回するよりも、大岩山があった後の大穴を迂回する方が遠回りになってしまった。
このまま放って置いたら地下部分の方が巨大な空洞ができているので地上部分が少しずつ崩壊してしまう。
それでその付近にあった道路の邪魔をする岩山を引っこ抜いては大穴に落として埋めた。
そのおかげで道路が整備された。・・・いらない苦労ではあったが。
砦からドワーフ族の里まで、東京から名古屋近くまでの距離があるので、ダンジョンを探してみた。
ダンジョンは魔力溜と呼ばれる場所に発生するというので探してみたが、途中の原生林のような樹林帯では他の場所に比べて魔力量がケタ違いにおおいので差が分からないそれで魔力溜を感知することが出来なった。
それでも、砦からドワーフ族の里へは何度も行かなければいけなくなると思うので、そのうちダンジョンを探し出すことが出来るだろう。
小高い山々と原生林の生茂る林が鬱蒼と続いているのだ。
簡単な道造りとそんなことをしていたので、俺達の砦からドワーフ族の里まで距離的には一週間で到達できるものが、実際にはドワーフ族の里の出入り口には一ヶ月近くもかかってやっとの思いでたどり着いた。
この出入口からドワーフ族の里まで約10キロ、その間は火山性ガスで有毒性のある硫化水素や塩化水素、そして中毒性のある一酸化炭素等が噴出している。
エルフ族の結界魔法のようにドワーフ族の里は自然の結界で守られているのだ。
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