第9話 隠し通路の出口そして脱出

 俺と武田真・・・(真は男の子ではなくて女の子だ)はザルーダという魔法使いの爺さんによって異世界に召喚させられた。

 前世では殺されそうになったところを召喚させられたので、助けられたのだが感謝はすれどあまりありがたいとは思わない。

 召喚される前に俺は真を抱いて奴と距離を置くことが出来た。

 その間に俺は棒手裏剣を投げて対抗する事が出来たと思うからだ。


 それに召喚先で言う事を聞かされる奴隷の首輪を着けられて、ただ働きされるところだったのだ。・・・奴隷の首輪の前後には金属の輪があり、その輪にリードをつけられて引っ張りまわされるのだ。俺にはそんなマゾ趣味は無い。


 召喚したザルーダという魔法使いの爺さんも奴隷の首輪を巻かれていた。

 奴隷の首輪はザルーダの爺さんの意思等関係ない、その首輪をした者の命令に逆らうことはできないのだ。・・・命令に逆らうと死なない程度に首が締められる。逃げ出そうとしたりすれば場合によっては死んでしまう事もある。その首輪を切ろうとして、完全に切れないで少しでも繋がっていれば首輪がもの凄い勢いで締め付けられてしまい、遂には首が切り飛ばされる。


 弟子のアリアナの命と奴隷の首輪によってザルーダは無理やり言う事を聞かされ召喚魔法を使って俺達をこの世界に召喚したのだ。

 ザルーダの爺さんの奴隷の首輪か⁉

 助けてやる義理は無いのだが、困っている人を助けてしまう。


 北海道や鹿児島の山の中であまり人の住んでいない所では相互扶助の精神だ。

 俺はザルーダの爺さんの首に巻かれた奴隷の首輪を切り取って自由を取り戻させてやった。

 そのおかげでザルーダの爺さんは俺に感謝して城からの脱出に手を貸してくれることになった。


 魔法使いか!城から脱出できたらザルーダの爺さんに魔法を教わってみよう。

 ザルーダの爺さん奴隷の首輪を着けられたただの魔法が使える奴隷かと思ったが、行方不明になった皇帝アマエリヤ・ダイクーンの主席王宮魔導士だったらしい。


 皇帝アマエリヤ・ダイクーンの後を襲った宰相のソンダイクが皇帝になった。

 ダイクーンは皇帝を表す尊称だ。

 宰相を嫌っていたザルーダの爺さんは職を辞して逐電したらしい。

 それで王城内をよく知っているザルーダの爺さんの案内で、隠し通路を歩いているうちに地下牢を見つけた。

 見つけたと言うより最近までザルーダの爺さんはこの地下牢で弟子のアリアナと共に囚われていたのだ。

 弟子のアリアナを助け出した。


 奴隷の首輪だけでは命令しても言う事を聞かないと思ったのか、隣の牢のアリアナには食事を与えず弱っていく姿をザルーダに見せて、最後の召喚が行われてからおよそ五百年、アリアナの命を盾に、その召喚の儀式を行うことを求められたのだ。

 俺達の住む世界とザルーダの爺さんたちの住む世界は五百年周期で重なり合い召喚することが出来るようなのだ。

 俺達の入ったザルーダの部屋は、前皇帝アマエリヤ・ダイクーンの時に主席魔導士として与えられた時の部屋だったのだ。


 アリアナに回復薬を飲ませても、この世界の食生活が貧困で元の体力が無いのか眠ったままだった。

 体力のある俺がアリアナを背負っていく事にした。

 ザルーダのシーツの残った切れ端をおんぶ紐にしてアリアナを背負う。・・・なんか真の目が怖い。

 牢の中の生き残りを探す。


 残った二つの牢には虫の息の男がそれぞれいた。

 一人は、髭を生やした割と若い男が天井から下げられた鎖に両腕を繋がれていた。

 ザルーダはこの男を無視した。

 アリアナを捕まえた男だ。

 体中鞭でミミズ腫れに血まみれだ。


 俺と真がこの男の牢の間で立ち止まる、先を歩くザルーダは立ち止まって振り返って俺達を見て頭を振りながら戻ってきた。

 牢の鍵を魔法で崩して入り、両腕の鎖も崩す。

「ドッサ」

と男が倒れた。

 若い男は筋肉質で身長で170センチ程だ。・・・これで大男なら俺は化け物か!


 ザルーダは嫌そうに回復薬を飲ます。

 若い男は、涙を出して

「ありがとうございます。

 私は樵のアンドレと言います。

 ザルーダ様貴方の家来になります。」

と言って片膝をついた。

 ザルーダは魔法使いの杖で右肩、左肩と叩く。

 若い男アンドレは感激している。


 次の牢に向かう、この牢には体中をグルグルと鎖で巻かれた痩せた老人がいた。

 ザルーダは牢の鍵を魔法で壊して、鎖を魔法で切ろうとするが電気に出も触れたように飛び退る。

「この鎖は魔石でできているので切れない。

 魔法を流せなば流すほど吸い取られて強度を増す。」

と荒い息をしながら説明した。


 う~んどうしよう。

 俺はリュックの底に入れておいた鉈を取り出して、鎖に向かって振り落とす。

『ガキッ』

と言う音で割れた。

 すると鎖が蛇のように俺に向かって来る。

 巻き付こうとする鎖を地面に押し付けて、鉈の峰で砕く。


 俺が魔力を持っていたらこの魔石の鎖に魔力を吸い取られて動けなくなっていたところだ。

 鎖は金属のような硬い魔石だ鉈の刃こぼれを恐れて峰で次々と鎖を砕いていく。

 何十回、何百回と鎖を砕いた。

 鎖を砕くほどに巻き付く力が弱まっていった。


 いつの間にか痩せた老人の体から鎖が取り払われていた。

 その老人を見てザルーダも樵のアンドレも驚いていた。

 彼はアマエリヤ帝国最後の真の王族アマエリヤ・ダイクーンだった。

 アマエリヤ・ダイクーンは回復薬でも回復できず、ザルーダの腕の中で息をひきとった。


 アマエリヤ・ダイクーンは

「アマエリヤ帝国を手にいれるのだ、それにはアマエリヤ帝国の正当な王位継承者しか持つことのできない失われた宝剣シルバーソードを手に入れることだ。

 宝剣シルバーソードは人を選ぶ。」

と囁くように告げると亡くなってしまったのだ。


 ザルーダはアマエリヤ・ダイクーンから隠し通路はこの牢の中を通って外に出れると聞いているが、しかし何処から先に進めるのかは聞いていないようだ。・・・オイオイどうするのだ。アマエリヤ・ダイクーンは亡くなっているぜ。


 牢の中で使われていないのはのはアマエリヤ・ダイクーンの隣の牢だけだ。

 俺は牢の外に出て見る。

 バタバタと歩いたので埃が舞った。


 天井の明かりによって舞った埃がアマエリア・ダイクーンの隣の牢で変な動きをするのが見えた。・・・俺は大自然の中で獲物を探す目をもっているのだ。

 隣の牢の床を探る。

 床の一部が動いたので、その床を剥がしてみる、床の下に隠し通路があった。

 床下の隠し通路にかけられたボロボロな梯子を使って降りる。


 最初は真だ、下に降りたら赤いキャリーバックから懐中電灯を出す。

 ザルーダが驚いていた。・・・明り魔法もあるのだが長い間は点けていられないのだ。松明も途中で燃え尽きている。

 ザルーダの爺さんそして樵のアンドレが続いて降りて、俺が背に担いでいたアリアナを受け取る。

 俺が降りる時、牢の床板を戻すとボロボロな梯子が壊れて一気に隠し通路まで降りた。

 俺にとってはたいした高さでは無かった。・・・心配そうに真が駆け戻ってきた。


 俺は手回し発電の懐中電灯を取り出して歩く。

 最近の手回し発電機の懐中電灯はソーラーパネルもついてラジオが聞けてUSB端子までついた優れものだ。・・・この世界でラジオを聞けるとは思わないが。

 ついでとは言って何だが俺は足踏み型の発電機も持っている。

 北海道の祖父と山に行くときこの発電機を持って行ってランプを灯したり携帯を充電したりしたのだ。・・・充電してあったランプをザルーダの爺さんに渡す。

 アリアナは樵のアンドレが罪滅ぼしだと言って背負っている。


 暗い隠し通路の中を歩くと、明かりを嫌う小動物が逃げる。

 何が出てくるか分からない。

 明かりの中にネズミがいた。

 それも人間ほどもあるネズミが5匹して何かを食べている。

 真が逃げて俺の後ろに隠れる。・・・痛い痛い痛い真の爪が腕に食い込んでいる。真はネズミが怖いので悲鳴を上げる代わりに俺の左腕にしがみついているのだ。


 これでは剣が振るえないなと思った途端、ザルーダの爺さんが火魔法を放つ。

 完全な洞窟なら問題だったが、ここは地殻運動の影響でできた洞窟モドキだ、火を放っても酸素の供給もできる。

 ネズミどもが燃え上がった。

 ネズミどもが食っていたのは、ムカデの化け物だった。

 ネズミどもの燃える明りで隠し通路が途切れているのが見えた。

 またボロボロな梯子がある、出口だ。


 俺が先に梯子を登る。・・・地上に顔を出した途端、風にのって微かな汗の臭いがする。  

 何人いる。・・・一人、二人・・・五人か!

 この世界にきてから異常に五感が鋭くなっている。

 城からは歩いて逃げてきたので、出口は城からそれ程離れていない場所に五人の追跡者がいたのだ。


 ライフルの音は遠くまで響く、そう思った俺は首からライフルの紐を外して真に渡す。

 胸のチョッキから棒手裏剣を抜き出す。

 左手一本で穴から抜け出して右手に持った棒手裏剣を投げる。


 隠し通路から出てくるネズミ・・・俺達を殺そうと待ち受ける弓を持った兵士が棒手裏剣を受けて倒れる。

 あと四人、飛びあがるのは悪手だが、横に立つ木の枝にぶら下がり一気に逆上がりの要領で、その木の枝の上に立つ。・・・まるで猿、いやゴリラだった。


 枝の下を弓矢が

「ヒューン」

と通りぬける。

 飛びあがるのを見て予想着地地点に向かって弓を射たのだ。


 枝の上から見ると弓を持っているのはあと一人、慌てて背の箙から弓矢を取り出している。

俺は

ポーン

と枝から前転をするように飛び降りる。

 その間に棒手裏剣を弓を持っている奴に投げつけた。


 そいつは棒手裏剣を受けて仰向けに倒れた。

 残りは三人そのうち槍を持っているのが二人と剣を持っているのが一人だ。

 俺は鹿児島の爺さんからもらった薩摩の国の名刀工、波平行安の作と言われる愛刀長さ2尺5寸(約78センチ)を抜き出す。


 槍を持った奴が俺に向かって走り出した。

 三間・・・およそ540センチ程の長さの槍だ。

 俺の愛刀の8倍はある長い槍だ。・・・弱点が見えた。柄は長さが長いが敵の攻撃を防ぐような鉄の輪を巻いていない。それに穂先は鋭いだけで突く事に特化しているが切ることは難しそうだ。

 最大の弱点は身長が兵士達が150センチと身長が低く非力そうなことだ。

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