第8話 城からの脱出

 俺と武田真は何処か良く分からない世界に召喚された。

 俺達を召喚した老人は奴隷の首輪などというものを首に巻かれて、命令されてしかたなく召喚の儀式をおこなったようだ。

 俺は持ってきた鹿児島の祖父の日本刀で召喚した老人の奴隷の首輪を切り飛ばして自由にしてやった。

 ここが何処だか分からないので、助けた老人に案内させてここから脱出することになった。

 老人の求めに応じて、まず老人の部屋まで来たのだ。


 召喚の儀式の部屋や、そこから老人の部屋までの廊下は石造りの建築だ。

 天井を支える柱が上部で広がる中世ヨーロッパの建築様式、ゴシック建築のようだ。

 明るい廊下は回廊になっており、人影は見当たらないが大きな城のようだ。

 特に明かりようの電灯は下がっておらず、所々に松明を立てる金具があった。

 松明が残っていたり、壁が煤けている。

 回廊の中庭は魚が口から水を噴き出す噴水が幾つもつくられている。

 魚は何処かユーモラスな姿をしている。


 老人の部屋で俺や武田真は戦闘のしやすい格好になる。

 武田真は旅行鞄の中から体操服のズボンを出してスカートの下にはいている。

 日本人離れした長いスラッとした脚が隠れた。・・・う~ん残念!

 靴も運動靴に履き替えた。


 シーツの残った切れ端で予備の毛布等をリュックに括り付ける。

 歴史の教科書の絵で見た明治時代の兵士の背嚢みたいになってきた。

 武田真も俺の真似をしてリュックに毛布を括り付けている。

 背中のリュックから棒手裏剣等を差したベストを着る。

 ライフルの弾丸入れもベルトに取り付けた。

 これで俺の戦闘準備万端だ。


 その間に、召喚した老人は映画等でよく見る魔法使いが使うような宝石が付いた杖や同じ模様の袋を探し出してくる。

 老人が俺と武田真に同じ模様の袋を放り投げて

「この袋に書架から書籍を入れろ。」

という、袋には一冊も入りそうにないのだが。

 老人が俺達の思いを感じたのか

「魔法の袋だ、入れられるだけ入れろ、入らなくなったらわかる。」

という、俺は上の方から本を取り出して入れる。


 俺の身長ならこの世界では簡単に天井に手が届くのだ。

 下の方から視線を感じた。

「淳一は良いよね!背が高くて。」

と恨めし気に武田真に言われた。・・・淳一かよ!名前の呼び捨てか!俺は考えている時も武田真なのに、俺も真て呼んでも良いのかな?真も165センチ程か女子高生の平均身長が160センチ程なので高い方だ。それにスタイルも飛び切り良い・・・!

 それを考えた途端、何となくモジモジしながら本を詰めていく。


 一杯になるとどうなるか分かった。

 魔法の袋が

「ペッ」

と最後に入れた本を吐き出したのだ。


 また老人が魔法の袋をくれたので、残りの本を詰めた。

 老人は俺の空になったリュックに魔法の袋を放り込んだ。

 老人も着替えたのか先程の被っていた帽子やマントとは違い素人の俺が見ても上等なものを着ている。

 背には小さなリュックを背負ている。


 老人の着替えを入れていると言う、無限には入らないが魔法の袋は便利そうだ。

 貴重ないわゆるマジックアイテムで本を詰めるのに4袋、薬品棚に3袋、食糧や調理器具、テント等で3袋使った。

 老人は今のところ魔法の袋は十個しかないので魔法の袋は使い切ったそうだ。

 それに魔法の袋の中には魔法の袋は入らないそうだ。

 準備が整ったところで、この城のようなところから脱出だ。


 その前に自己紹介だ老人は

「魔法使いのザルーダ。」

と名乗った。

「伊賀崎淳一で淳一と呼んでくれ。」

「武田真、真と呼んで。」

と名乗った。・・・これで俺も真と呼べるのかな?


 魔法使いの部屋から外に出る。

 真が背に担いでいたのは洋弓、アーチェリーと素振り用の木刀だった。

 小学校の剣道大会に剣道の師匠でありボディーガードとして信頼していた斎藤新次郎が真の命を取ろうと襲いかかってきたことがあって、それ以来剣道を止めて弓道やアーチェリーをしていると言う。

 矢は20本ぐらいはあると言う。


 素振り用の木刀は小学生の大会で俺に突きを喰らった後に、女の子は非力で大変だろうといって、斎藤新次郎が師匠から貰ったものを譲ってもらったそうだ。

 素振り用の木刀には名前が書いてあり、俺の親父の師匠の元剣道師範の名前だった。

 俺も北海道に転校する時にもらった、と言って見せたら

「この重い素振り用の木刀で素振りがどれだけできるか今度競争しましょう。」

とまた形のよい口の口角をあげてニッと笑った。


 真は逃げる間は何があるか分からないのでアーチェリーの弓に弦を張っている。

 俺はライフル銃を持って銃弾も二百発以上あるが、あまり使いたくない。

 銃弾の補給ができない事もあるが、敵の本拠地近くでライフル銃の発射の大きな音をたてると兵士を集めてしまいそうだからだ。


 ザルーダは流石にこの城に部屋までもらって住んでいただけあって、人のいない場所を選んで進む。

 問題は城の外に出るのには、普通正門か裏門だが、ザルーダは壁の松明を取り上げて魔法で火を付けると地下へ地下へと降りていく。

 最下層の食糧庫まで降りた。


 ザルーダは迷うことなく食糧庫の壁の一部を押す。

 壁の一部が開いた先は隠し通路になっていた。

 隠し通路だから王族の脱出路だな、それで人があまり使わないためかかび臭い。 

 しかしなんでこの魔法使いはこんな隠し通路まで知っているのだ?

 魔法使いとは言え奴隷の首輪を着けた者が城の部屋までもらっていた。

 不思議な爺さんだ。

 

 通路は昔の造山運動でできた裂け目が洞窟になったもので、所々に地上の裂け目があって明かりが入り洞窟内は薄暗いと言う程の明かるさだ。

 洞窟内は地下に向かって深く裂けた場所もあり、そこは壁に鑿で削った通路があった。

 その薄暗い自然と人工の洞窟をしばらく歩くと腐臭が漂ってきた。


 真も腐臭が臭ってきたのか、可愛い顔をしかめる。

「少し変な臭いがするけど大丈夫?」

と小声で俺に聞いてくる。

 答えはすぐ出た。

 通路の天井が細く長く裂けたようになって、通路に明かりが入ってくる場所に出た。

 裂けた天井の自然の明かりに照らされて、片側が地下牢になって続いているのが見えた。

 その地下牢には腐臭を放つ腐って骨になりかけている人が転がっている。


 ザルーダが地下牢の人を探すように一つ一つ確認している。

 忘れられた地下牢かと思ったが、弱々しく動いている人がいるようだ。

 ザルーダがその牢に駆け寄って鍵を魔法で壊す。

 鍵の部分がパーッと輝くとグズグズに崩れている。

 ザルーダが牢に入って俺達を呼ぶ。


 ザルーダは背中のリュックの中の魔法の袋から回復薬を探しているが、回復薬を入れた魔法の袋がどれかわからないというのだ。

 手分けして同じような魔法の袋から中の物を調べて欲しいそうだ。

 真が手提げカバンから16色のマーカーを取り出して、魔法の袋に入っている種類別に色で分類していった。

 目的物は緑色の液体の入った瓶だ。


 見つけた、真はザルーダから魔法の袋に色を付ける事のできる場所に緑色を付ける。

 魔法の袋に描かれた模様は勿論の事、袋を創る時の裁縫の運針までもが魔法の袋になる重要な要素なのだ。・・・それでザルーダは魔法の袋に色を付けるのを嫌がっていた。

 色分けは便利だから仕方がない。


 ザルーダが回復薬を飲ませたのは、小柄な女の子だ。

 寝ていても身長120センチ程で小学校2年生くらいだ。

 何でもザルーダの一族はエルフ族で魔法に特化しているそうだ。

 そう言われてザルーダの両耳を見ると、右耳は潰れているが、左耳は物語の本の通り尖っていた。

 この小柄な女の子もエルフ族の特徴である両耳が尖っていた。・・・さすがエルフ族だ寝顔までもが可愛い。


 この子はザルーダの姪であり、魔法を教えている弟子のアリアナと言う名の女の子だそうだ。

 ザルーダはこのアマエリヤ帝国の前皇帝アマエリヤ・ダイクーンの主席魔導士だった。

 前皇帝アマエリヤ・ダイクーンが行方不明になった。

 宰相のソンダイクが皇帝の地位を襲って、ソンダイク・ダイクーンになった。

 ザルーダは前皇帝アマエリヤ・ダイクーンが行方不明になったとたん逐電した。

 

 よせと言っていたのに弟子のアリアナはこの城、アマエリヤ王城の王都に買い物に行き皇太子のソンダイク・ジンクーンに捕らえられてしまった。

 それはソンダイク・ジンクーンが城下街の女性を城に連れて行こうともめているのを魔法で妨害し、逃げる途中でマントのフードが頭から外れてエルフ族特徴の耳を見られてしまったのだ。


 ソンダイク・ジンクーンは連れて行こうと思った女性よりも美味しい得物を見つけたのだ。 

 逃げ回るエルフ族のアリアナは、格好の標的だった。

 ソンダイク・ジンクーンは大声で

「その娘を生かして捕まえた者には金貨百枚だ!

 殺したら鞭の百打ちで鉱山奴隷にするぞ!

 捕まえろ!」

と告げたのだ。


 ソンダイク・ジンクーンに城に連れて行かれそうになった女までもが涎を垂らしてアリアナを追いかけまわしたのだ。

 アリアナは大男に捕まり、大男はソンダイク・ジンクーンから金貨百枚をせしめた。

 大男はその夜、酒場で大盤振る舞いをし、酒場から出て行った後は金貨百枚と共に杳として消息が知れなかった。


 アリアナの解放を条件に皇帝ソンダイク・ダイクーンはザルーダを呼び出した。

 ザルーダは、呼び出しに応じて王城で見たものは首に大きな剣を突き付けられたアリアナだった。

 ザルーダは、一瞬の隙をついて首に剣を突き付けている兵士に火魔法を叩きつけてアリアナを救出しようとした。

 ところが、火魔法が反射した!

 剣を持つ兵士の鎧に反射魔法が付与されていたのだ。


 反射魔法が付与された鎧など王族しか着ることができない国宝級の鎧だ。

 鎧で反射された火魔法によってザルーダの右耳が焼かれ、痛みでのたうち回る間に奴隷の首輪を巻かれたのだ。

 アリアナに剣を突き付けて反射魔法の鎧を着ていたのが皇太子ソンダイク・ジンクーンだった。

 皇帝ソンダイク・ダイクーンは端から約束を守る気持ちは無く、アリアナとザルーダをこの地下牢に入れた。・・・それがこの地下牢のようだ。

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