第10話 エルフ族の隠れ里

 召喚されたアマエリヤ帝国の城から隠し通路を使って脱出できた。

 ところが隠し通路の出口で待ち受けた場所には皇太子ソンダイク・ジンクーンの配下のガイヤ他5人と戦いになった。

 飛び道具の弓を持った二人は俺が投擲術、棒手裏剣を使って倒した。

 残りは三人そのうち三間(約540センチ)槍と呼ばれる槍を持っているのが二人と剣、両刃で幅広肉厚でいわゆるロングソードを持っているのが一人だ。

 俺は鹿児島の爺さんからもらった薩摩の国の名刀工、波平行安の作と言われる愛刀長さ2尺5寸(約78センチ)を抜き出す。


 槍を持った奴が俺に向かって走り出した。

 俺の愛刀の8倍はある長い槍だが、その槍の柄は長いが敵の攻撃を防ぐような鉄の輪等を巻いていない。

 それに穂先は鋭いだけで突く事に特化しているが切ることは難しそうだ。

 槍を持った兵士達が150センチと身長が低く軽装の鎧で体重も無く、非力そうなことだ。

 それに足並みがそろっていない、右から駆け込んでくる奴の方が速い。


 俺は、突っこんできた長い槍の螻蛄首けらくび付近を脇に挟んで、

「エイ。」

とばかり腰を振った。


 突撃してきた兵士は槍を放さなかったので、そのままもう一人の兵士の方に飛んで行ってぶつかった。

『ガシャン!』

という大きな音を上げて兵士がお互いにぶつかり倒れた。


 俺は愛刀を鞘に戻して、脇に挟んだ三間槍を手にする。

 槍の二人とも気を失ったようだ。・・・隠し通路から出てきた真が二人をシーツの切れ端で後ろ手に縛りあげる。

 俺は残った剣を持った男と対峙する。


 後から出てきたザルーダが

「皇太子ジンクーンの右腕ガイヤだ。

 気を付けろ!アマエリヤ帝国でも十指に入る強者だ。」

という。

 身長は170センチ前後で木こりのアンドレとどっこいどっこいだ。

 腕の太さではアンドレに負ける。

 腹囲はガイヤの方が勝っているかな。


 手に持つのは刃渡り90センチ程のロングソードと盾だ。

 ロングソードは俺の愛刀と同じほどの長さだが、製錬技術がこの世界では低いので幅広で肉厚になり鉄の塊でかなり重そうだ。

 盾は薄い木に獣の皮を張っているだけだ。

 重そうな両刃の剣と刃を交えると、繊細な日本刀の刃が欠けそうなので、三間槍にしたのは正解かな?


 俺は三間槍の長い槍の利点を利用して突いて見た。

『やってみようがスキの元』

気合いも無く突いたのが悪かった。

 何とガイヤの手に持っていた盾がいつの間にか肘付近まで移動しており、ロングソードを両手で持って、体を捌くと俺の突いた三間槍にむかって振り下ろした。

 三間槍の螻蛄首付近が切り飛ばされた。


 そのうえ両刃の剣の特徴を利用して、俺の穂先の無くなった槍を持っている右手に向かって振り上げてきた。

 俺が右手を槍から放してロングソードを避けると、途中でピタリと軌道が止まり、そのまま刺突してきた。

 俺は穂先の無くなって無用の長物になった槍をロングソード添わせるようにして突きを流す。


 俺は腰間の愛刀を詰めてくるガイヤの胴を抜き打ちで切り払う。

 ガイヤは後ろに飛んで逃げると、右手にロングソード、左手に盾を持って前に出して構える。

 ガイヤが呼吸が荒くなっている。

 片手業の方が到達可能範囲が遠くなる。

 間合いを取って呼吸を整えるのと盾で俺の剣を受けて切り込んでくるつもりだ。


 それならばと奴の策に乗って俺は愛刀を奴の持つ盾に向かって振り下ろす。

 思った通り盾で愛刀を受けた。

 盾が

『スパーン』

と切れた。

 ついでに盾を持つ手の指も切り落とした。

 盾が指とともに落ちる。


 四指の無い手を俺に突き出して驚いている。

 何となく間抜けな姿だ。

 驚懼疑惑きょうくぎわくは四戒と言って戦いの場では隙になると教わっていなかったのか?

 俺は驚いて固まっているガイヤの首を難なく切り落とした。

 ガイヤを含む3人を倒し、2人を捕虜にした。


 俺は棒手裏剣で倒した兵士から棒手裏剣を回収する。

「ヒヒン」

と馬の鳴き声が聞こえた。

 鳴き声の方向に向かうと馬が立ち木に手綱で縛られていた。

 一頭の馬には、捕まえた俺達を入れる為の檻が載せられた馬車だった。

 俺達を待ち受けていた兵士が乗ってきた馬5頭を手に入れた。

 5頭の馬を手に入れたのは良いが手綱と鞍しかない、鐙が無いのだ。

 その5頭の馬を連れて戻った。


 馬を連れて戻ってくると俺の倒した3人の兵士は鎧や衣服まで剝かれて裸になっていた。

 鎧や衣服は死人には不要だ、それにザルーダの爺は3人を燃やすという。

 森の中に放置していると獣や魔獣がよってくる。

 体を食われてしまえばよいが、このまま森の中で放りだしておくと殺された恨みでゾンビになるか、スライムが体の中に入って変化してアンデッドになるそうだ。

 しかし火は不味い、城から兵士を集めてしまう。


 仕方が無いので馬車の檻の中に3人の裸の遺体と2人の捕虜を放り込んだ。

 3人の兵士の鎧や武器、俺のリュックや真のキャリーバック等の荷物を一頭の馬の背に乗せる。

 馬車はザルーダが操り、その横にアリアナが体力が戻っていないのかザルーダに寄りかかって寝ている。


 俺は馬車を引いている馬よりも一回り小さいが、力のありそうな真黒な馬に乗ることにした。・・・この馬はガイヤが乗ってきた馬らしい。

 真と木こりのアンドレも一頭づつ別々の馬に乗った。

 俺が先頭、真と荷物を載せた馬、その後ろに馬車、さらにその後ろにアンドレの乗った馬が続く。


 俺は爺さん達のおかげで乗馬が出来るが、真は流石にお嬢様で乗馬が趣味だそうだ。

 ただ鐙が無いのは辛いところがある。

 馬に乗って進む、これから行くのはザルーダが城から逐電ちくでん後隠れ住んでいたエルフの隠れ里にある小屋だそうだ。


 ここなら城からかなり離れているので3人の兵士を荼毘に付する程の火を起こすことができるそうだ。

 山を越え谷を越え3度程野営した。

 その間に木で鐙を作った。

 これで体が安定して少し速度が上がった。


 ある日小川を越えようとしたところで、ザルーダに

「透明な水スライムが隠れ潜んでいる場合が多い。

 それに水スライムがいない所は凶暴な古代魚がいる。」

と注意された。・・・凶暴な古代魚?

 川に入らないように、して俺が進んだ。


 すると列の後尾付近を走る馬車が小川に入った。

 檻に入っていた2人の捕虜がいましめをといて3人の兵士の死体を小川に投げ込んだ。・・・檻は組み立て式で檻を組み立てた彼等には分解して脱出することは可能な事だ。


 血の臭いを嗅ぎ付けて、デカイ、グロテスクな魚、古代魚が一杯集まって来た。

 古代魚は手と足がある。

 古代魚はしばらくの間ぐらいは陸上を走れ、飛び回ることができる。

 捕虜2人は死体の兵士を使って逃げられると思っていた。


 彼等が思っていた以上に古代魚が多く集まり過ぎた。

 3人の兵士の体だけではこれだけ集まった古代魚の腹を満たすことはできなかった。

 捕虜2人は鎧や兜を取り上げられていたので、この二人も古代魚の腹の中におさまった。・・・本当に凶暴な古代魚だ!

 

 対岸にはアンドレの乗る馬が取り残された。

 古代魚も馬の足の速さに追いつくことができなかったようだ。

 アンドレは樵をしているので、この付近の地理は良く分かっているようだ。

 アンドレは自分の住んでいたカイナ村で待ってると大声で対岸から告げた。


 馬車の荷は、檻だけになった。

 檻は分解・・・(凶暴な古代魚の腹の中に入った捕虜2人のおかげでそれを知ったのだ。)ができるのでバラバラにして馬車の荷になった。

 鉄はこの世界でも貴重な資源だ、重いが捨てるわけにはいかない。


 夜は、ザルーダが持っていたテントを使って野営した。

 かなり寒い地方だ。・・・というより高山地帯になったので寒いのか。

 ザルーダの部屋から持ってきた毛布のおかげでゆっくり眠れた。

 アリアナも少しづつ食事を採るようになったので、体力が戻って来て自分一人で馬に乗れるようになっていった。

 俺や真の荷物は馬車に載せた。

 残った馬にアリアナが乗ったのだ。

 それもあって、小川の事件後二泊三日でザルーダの小屋にたどり着いた。


 ザルーダの小屋があるのはエルフ族の隠れ里で、一般の人がこの地を訪れたのは何と5百年ぶりだそうだ。

 エルフ族の隠れ里には結界がかけられており、一般の人は結界内に入ることが出来ず付近を彷徨ってしまうそうだ。・・・エルフ族の隠れ里は山々に囲まれた窪地でら目の前にエルフ族の隠れ里にいたのだ。これが結界の効果だ。


 エルフ族の隠れ里に入った途端暖かい、いやかなり暑い気温になった。

 このエルフ族の隠れ里は基本的には盆地気候で朝夕は少し寒いのだが、結界の影響でか結界外とは違いそれほど気温は下がらないのだ。・・・結界で温室になっているのだ。雨や雪は一箇所に集められて池になるそうだ。


 行きかうエルフ族の隠れ里の住民は美女、美男子の集団で、暑い程の高い気温で衣装は肌の露出度が高い。・・・目のやり場に困る。

 真に肘を抓られた。・・・真の目が怖い。


 俺や真もエルフ族を見ているが、エルフ族も興味津々で俺達を見ている。

 エルフ族も御多分に洩れず大人の平均身長が150センチ位で、身長が185センチ以上もある俺は巨人族に見えるのだろう。・・・ここにきてまだ身長が伸びているようだ。

 それに身長165センチ程で抜群のスタイル、それにエルフ族の美女に負けない美貌を誇る真にも目がいくのは当然だ。


 ゾロゾロとザルーダの小屋まで来る。

 小屋と言っているが謙遜で普通の・・・いやキノコのような形をした可愛い家で真は喜んでいるが、俺は出入り口の桟に必ず頭をぶつけるは、ベットは狭いは、椅子は小さくて壊すはで大変だった。

 ザルーダの小屋に入ると、ザルーダは興味津々で俺達の後をついてきたエルフ族を締め出して、アリアナには夕食の準備を指示して、話があるついて来いと言って地下室に俺と真を呼び入れた。


 地下室は割と広めの研究室になっていた。

 壁一面が書見台式の本棚や研究器具が置かれた棚になっており、中央に広い大きなテーブルと周りに椅子が置かれていてそこに座るように言われた。

 ザルーダの話は召喚の儀式を行った理由だ。

 最後の召喚の儀式が行われてからおよそ5百年も経った今、何故召喚の儀式が行われたか、それは魔王の復活にともなう国の乱れだった。

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