それは昔むかしの高校生時代

 高校生活にも慣れ始めた、四月の終盤。

 初めの頃は、説明会だの、○○測定など。

 授業といえないような楽な時間を、ロングホームルームっていう授業の体で受けていた。けど、次第にそんな物が無くなり始めて。

 始まった普通の授業は、中学の頃と比べると、まだ分かるけど、ペラペラと教科書を先にめくると、もう日本語なのに外国語の様に見えてくる。そんな今日この頃。


「おーい、新堂。昨日のアニメ見たか?」

「だー! あんまり大声でアニメの話をするなよ! ヲタクだと思われるだろ?」

「……いや、お前普通にヲタクだろ」

「僕は認めないよ。君ほどアニメも見ないし、ラノベも読まないからね」

「俺と比べている時点で、お察しなレベルだと、ヲタクのお前にはわからないか」

 僕。新堂真澄の名前を、朝のホームルーム前からそれなりに皆に聞こえるような声で呼んで、教室の隅で目立たないようにラノベを読んでいたのに、少し周りから注目される原因を作ってくれたこの男は、要陽一。

 高校入学早々、座席でブックカバー表紙を隠しながらラノベを読んでいたのに、こっそり後ろから内容を覗き込んで、僕を、ラノベを読む同志(ヲタク)と見抜いて話しかけてきた、生粋のヲタクでありながら、コミュ力が微妙に高い、空気の読めない男だ。


「お前、今俺の悪口を心の中で思っていただろう」

「何を言っているんだ親友。そんな事を思う訳がないじゃないか」

「お前表情に出やすいんだよ! お前と人狼やったら、絶対負けないと思うわ」

 などと訳のわからない事を供述しており、以下略。

 人狼ってチャットでする物でしょ?

 表情とか関係ないじゃん。

 とか、内心思いつつ、僕は曖昧な笑顔で聞き流す。

 

「それよりアニメの話! ア! ニ! メ!」

「だーァッ! だから大声でアニメを連呼するな!」

 コイツに羞恥心はないのか!? まあないからこんな真似が出来るのだろうが。

 きっとバカなんだろう。まだテストらしいテストをやってないから分からないが、中間テストが始まったら、はっきりする事だ。

 きっと赤点連発で僕に泣きついてくるに違いない。

 よくそんなキャラが出てくるアニメとか漫画があるじゃん?

 そいつらと同じ部類の人間なんだろう。

 え? 僕はそこそこ勉強してますよ。

 赤点は取らない自信はある! 赤点は、ね。


 勉強ってなんであんなに面倒なんだろう。

「アニメ、ね。昨日はラノベ読んでたら全部見過ごしてたんだよね」

「は? お前アニメは生で見てなんぼだろ!? なにやっとるが」

「いやいや、予約しておいたし、なんなら後でネットで見るよ。アマプラとかアバマとか」

 最近は某動画投稿サイトとかでも週遅れとかで上がっていたりするし、見過ごした時は便利だよね。

「はぁ。信じらんね」

「君、ほんとアニメ好きだよね……ある意味尊敬するよ」

「おう。普通に尊敬してくれていいぞ」

「あ、はい」


 僕達の会話の体感八割くらいこんな感じでアニメとか漫画とか、ヲタクっぽい話が多い。

 そんな話をしているからか、クラスではもう完全に僕と要は完全にヲタクキャラとして見られている節がある。

 ほんと、要と一緒にされるのは勘弁である。

 ラノベだって月十冊くらいしか読まないし、アニメだって毎期四から五種類は見ずに終わる事も多い。

 漫画に至ってはジャンポやチャンデー、モゴジンなど有名な週刊誌で連載している漫画を買う程度だ。

 それに比べて要は、ラノベは僕の倍は読んでいるし、アニメも先の会話の様に毎日欠かさず生ですべての物に目を通しているようだ。

 漫画に至っては週刊月刊以外にも、同人誌にまで手を出しているようで、流石に十八禁の物は読んでないらしいが、某絵師さんが――などと良く言っている。

 彼に出会ってまだ一カ月も経っていないはずなんだけどなぁ……。大抵こんな話ばかりしているせいで、彼のヲタク情報ばかりが毎日更新され入ってくる。

 全く持って必要ない情報であるが、仕方あるまい。何せ四月初めの入学からここ、彼以外とまともに話した人がいないのだから。

 それに比べ。



「おーい要。お前今日暇か? みんなでカラオケ行こうって話をしてるんだが」

「おいおい、お前らまだ朝のホームルーム前だろう。なーにもう終わった後の予定立ててるんだよ」

「ばっか、お前。糞ダルイ授業受けるのには、その後のご褒美を考えとかないとだろ。じゃなきゃ我慢できずに帰っちゃうから」

「それ、結局学校サボって、後で他の人と合流するパターンだろ」

「たしかに」

 茶髪に染め耳にピアスを付けた如何にもチャラそうなクラスメイトが、ケラケラ要と笑いながら会話をしている。


 そう。何故か要のヲタクキャラはクラスメイトから好感を持たれ受け入れられている。

 まぁ最もそれは要の勉強以外のスペックが高いからかもしれないが……。

 因みに、二人が会話をしている最中、僕は必死に空気になっています。

 霞を食べて生きる仙人の如き、無の境地。

 指一本でも動かしたら目立つ気がして、この間微動だにしてないからね。

 ってかチャラ男よ。要と一緒にいる僕には、ほんとに一言も無しですか。

 本当に透明人間にでもなれてるのかな? だとしたら凄いなびっくり人間誕生だ。


「じゃ、また放課後声かけるわ」

「おう。いけたら行くわ」

「それいかないやーつだから!」

 ちゃんと来いよ。とチャラ男は後ろ手を振りながら僕達の傍を離れていく。

 いやー、完璧な透明人間でしたね。さすが僕です。


「すまんな、新堂。お前あぁいうの苦手だろ? 出来るだけそっちに話いかないようにしてたんだが……お前にとってはあまり気分のいいもんじゃないよな。あの輩は」

 申し訳なさそうに、ぺこりと頭を下げる要は……本当に人間として出来た奴だと思う今日この頃だ。

 コイツヲタクじゃなきゃ間違いなくモテそうなんだけどな。いや、もしかして現時点でもモテているのでは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る